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今度は「全部下がる」? "予定調和" の相場。

 2021年12月 米失業率 3.9% 予想 4.1% 前月 4.2%
 非農業部門雇用者数 +19.9万人 予想+45万人 前月 +24.9万人←+21万人
 平均時給 前月比 +0.6% 前年比+4.7% 前月 +0.4%、+5.1%

 「予想を大きく下回る非農業部門雇用者数(NFP、Non-firm Payrolls)」

 こういう経済ニュースのヘッドラインを見て違和感を覚えたのは筆者だけではあるまい。実際指標発表後、米国債は大きく売られ金利は急上昇一時2年債は@0.9%乗せ、10年債は昨年の高値@1.77%を上回った

 特筆すべきなのは平均時給の伸び。前月を下回ったとはいえ年率+5%近い伸びが続くのは明らかに「賃金インフレ」。医療関係の雇用逼迫は深刻でなかなか人が集まらないというし、その他サービス業でも恒常的な人手不足が続く。「団塊」が引退した日本同様、人口構成上の問題もある。

 こうなると3月FOMCでの+0.25%「利上げ」は確定的であり、ここからの焦点は①1月への前倒し②+0.5%の「利上げ」の可能性があるか

 感染者数が爆発的に増えても、もはやアメリカ経済は平常運転。そもそもNFP+20万人というのは強い数字「利上げ」を十分正当化しうる。 ”予想+45万人” にウォール街の悪意を感じて正直腹が立つ😠。

 *「利上げ」→株価下落を嫌がっているのは明らか。昨年来、NFPの予想を吊上げて "雇用統計悪化" を演出しようという魂胆が丸見えだ。「中国株」を買い推奨したり、 "ビットコイン10万ドル" を唱えたり次の「焼き畑農業」に必死。在籍していた立場で言うのも何だが、投資銀行のほとんどは "今年のボーナス" のことしか考えていない

 さて、今回の金利上昇局面で2つ変化が起きているがお気付きだろうか?

 ①イールドカーブのスティープニング(傾斜化、長期金利>短期金利)

 これまでは「利上げ」初期の教科書通り短期金利の上昇が長期金利を上回るフラットニングが起きていたが、逆の流れになりつつある「短期売+長期買」の取組が10年超の金利低下という ”謎” の一因だったが、さすがに限界。昨年末比で2-10年の金利差は+78BPから+80BPにじわり拡大

 ②ドル高の修正

 昨日(1/7)が象徴的だが、ドル金利上昇にも関わらずドル円は小幅下落。思惑が外れてがっかりしたトレーダーもいたかもしれない。よく「金利上昇でドル買い」と言うが「金利」と「通貨」の関係はそんな単純なものではない。株や商品同様「通貨」「国」の価値を示すなら、「金利」、特に物価や信用リスクを加味した「実質金利」が売買の基準となる。

 CPIが急上昇しているアメリカの「実質金利」は実はもの凄い勢いで「低下」しており、本来はドル売り要因。ただFRBが「利上げ」で「実質金利低下」を防ぐだろう、という「信頼」がドル買いをつなぎ止めている10年BEI(予想物価上昇率)が@2.54%とCPI@6.8%を大きく下回っているのがその証だが、ここでドル売りが出るのはその「信頼」が揺らぎつつあるのかもしれない①イールドカーブのスティープニングも同じ理屈だ。

 またECBBoE(Bank of England、イギリス中央銀行)、日銀などが次々と「金融緩和」から「金融引締め」へ転換しつつあることも影響している。特に日銀は、これまでの「リスク評価基準」を「景気下振れ」だけから「上振れ」も含める、に変更。簡単に言えば**「利上げ」シフトだ。「超低金利」の象徴として長く鎮座していた ”巨像” が動き出す意味は小さくない

 **正直黒田総裁体制で本当に「利上げ」出来るかは甚だ疑問。それは「黒田バズーカ」引いては「アベノミクス」の否定に繋がり、政治問題化は必至。総裁が退任を前倒しすれば別だが、任期の2023年4月まで「円安」は待ってくれない

 「全部上がる」? "予定調和" の相場。|損切丸|note で年金の「リバランス」について触れたが、同じ理屈だと株価が下落すれば、相対的に債券の比率が上がり、今度は強制的に「リバランス」の売りが出る

 つまり今度は「全部下がる」?

 「60:40」(株60%、債券40%)に代表される投資手法は、あくまで "株の上昇トレンド" が前提2019~2020年に主流となった「押し目買い戦略」も同様で、随分良い思いをした投資家も多かったはず。だが、株が下落基調に転じれば結果は正反対になる***機械的に「押し目買い」を繰り返せば単なる「ナンピン買い」の連続になり、損失は累乗的に膨らむ

 ***この典型例が「バブル崩壊」以降の日本の生保日経平均が36,000円から落ちてくる過程で「30,000円割れは絶好の買い場」「25,000円割れは割安」と言い続けて毎年「ナンピン買い」。結果運用成績はボロボロになり、後の「予定利率引下げ」に繋がった。つまり自分達の損を顧客に押しつけた恰好。これでは「信用」を失うのは必然で、今の苦境に繋がっている。

 煽るつもりはないが、これまで火に "薪" をくべていたFRBが今度は消化活動に転じる意味は小さくない”火事” が鎮火するのか延焼するのか定かではないが、2020年までとは相場の前提が違ってくる。前稿 「感染症」と「マーケット」ー 必要なのは「事実確認」と「先を読む目」。|損切丸|note で書いたが、常に起こる「変化」に適応していかないと生き残れない。過去の成功例に習うのは時に危険でもある。筆者自身も肝に命じつつ。

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