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FRBの政策金利引き下げの見通し - 「金利」の本質を理解するために。アメリカの金利市場の特性について

  米国の連邦準備制度理事会(=FRB、Federal Reserve Board )が7月末のFOMCで利下げを決定する、との見通しが市場で強まっており、このところ株式や為替市場を賑わしている。筆者は前職で一応(笑)金利市場は専門だったので、特にアメリカ市場の特性について少し書いてみたいと思う。金利に不慣れな方には少し入り組んだ話になって恐縮だが、投資を考える上で金利は非常に大事な要素となるので、しばらくご辛抱願いたい。

1. 今回のFOMCにおける金利引き下げの見通し(短期的解釈)-

 ドル円など為替市場はアメリカの金利をめぐって上へ下へのどたばたになっているが、FRBが政策金利の誘導目標としているO/N金利(オーバーナイト、Over Night、今日から明日まで1日ドル資金を貸借りするための市場金利)を現在の2.00~2.50%から1.75~2.25%へ0.25%引き下げるのは既に織り込み済み。一時米国債10年物金利が2.00%を割り込んで1.90%台前半まで低下した時は、0.50%の引き下げもあるかもしれない、ということでドル売りを誘発したようだが、反動で昨日は10年が2.14%まで急騰しており、これが短期的にドルの買い戻し要因になったようだ。

 株式市場も上下動はあったものの、結局昨日ダウもナスダックも史上最高値を更新しており、基本的に利下げを歓迎している。雇用統計などを見てもアメリカの景気の基調は強い。

2.イールドカーブ(長短の金利曲線)の変化 -

 皆さんを混乱させるつもりはないのだが、金利が下がると金利が上がることがある。??? 昨日など米国債10年の金利が+10BPほど上がっているのがいい例で、金利に不慣れな方がご覧になると「今月末に利下げになるのに何で金利が上がるの?」、というような疑問を抱くかもしれない。

 1つは前項で書いたように50BP利下げの思惑など行き過ぎた期待の剥落があるが、もう一つの鍵がこのイールドカーブ=金利曲線の変化だ。2年ぐらいまでの金利は7月のFRBの決定の影響が強いが、5年とか10年というのはなかなか長い期間だ。期間が長くなるほど目先の金融政策だけでは決まらないのである。仮に今回の利下げが非常に効果的でアメリカの景気が今後力強い回復軌道に戻ると判断すれば、利下げをしてもむしろ長期金利は上がる結果になる。事実株式市場はそのような反応を示している。↓はイールドカーブ変化の例。

3. 「実質金利」の理屈 -

 またなぞなぞのようになるが、金利は高い方が低いことがある。??? 見かけと実質は違う、と言い換えれば少しご理解いただけるだろうか。↓の表がその実質金利を表にしたものである。

 為替市場も株式市場も投資家の多くはこの「実質金利」を重視していて、それも今後の変化に着目して行動を起こすことが多い。単純な式にすると、実質金利=表面金利-インフレ率だ。

 生活面で例えると、例えばトルコで金利が10%あり100万円の預金に1年間で10万円利息がついても、100万円の車が1年後に120万円に値上がりしてしまっては、これは実質損、利回りでいうと▼10%ということになる。1年前に車を買っておいた方が預金をするより得だったというわけだ。これが実質金利の考え方である。

 添付の表で言えば、10年の実質金利は日本が-0.85%、アメリカは+0.54%となり、見た目の金利とは大分印象が変わる。まあそれでもまだ日本の実質金利がアメリカよりは低く、理屈上ドル円は円安に行くという解釈になる。

 だが市場や投資の論理はそんなに単純ではなく、市場は今後の変化を予想しながら動いていく。ここで先行きを読む手がかりの1つになるのが前項のイールドカーブの動き。

 長短の金利差が開く現象=スティープニングは将来の物価の上昇傾向を示す場合が多く、実質金利の低下を招きやすい。添付表の例で言えば、例え10年米国債の表面金利が2.20%に上昇しても、物価見通しが現在の1.60%から3.10%まで上昇する、と推測された場合、アメリカの実質金利は-0.90%に低下してしまう。長短の金利差が縮小するフラットニングの場合は逆に名目金利が2.00%に低下しても物価見通しが1.10%まで下がれば実質金利は+0.90%まで上昇する結果となる。

 一般に実質金利の高い通貨は買われ、低い金利は売られると考えられている。デフレ下の円高などは、その典型であった。イールドカーブと為替市場の関係で言えば、2年-10年のアメリカのイールドカーブとドルの相関性についてスティープニングはドル売り、フラットニングはドル買いと言われていた(今はどうかなあ?)。極端な例で言えば今のベネズエラのようにインフレ率169万%なんてことになれば通貨は大暴落である(弊著、「お金のマニュアル」其の5などにも例示)

 なるべく丁寧に書き進めてきたが、いかがでしたか? 家族にも金利の話はわかりにくい、と指摘されることが多々あるので頑張って買いてはいるのだが..まあ、金利に関しては一発で理解すると言うより、何度か触れて慣れていくことが大事。しかし、生きていく上でも非常に大事なものなので、ぜひこの機会に理解を深めていただきたい。

 ましてリスクを取って投資やトレードをする方は、金利を理解することは必須。金融機関のプロや世界の著名な投資家も投資の基準として重視しているのだから。市場で「迷子」にならないための1つの方策でもある。

 金利も慣れると楽しいですよ(笑)

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