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「昭和日本」と今の「中国」の類似点 ー 「通貨高」と「金利」のジレンマ。

 このところ人民元がドルに対して猛烈に上昇している(USD/CNYは下落)。それもそのはず、米国の景気回復に連れ輸出が復活しているからだ。7~9月期のGDPは+4.9%まで急速に持ち直している。

 考えて見れば至ってシンプルな理屈なのだが、例えばアップルは多くの工場を中国に持っており、iPhoneがアメリカで売れれば貿易上は中国からの輸入になる。そして工場の労働者には賃金が支給されるので、当然中国の個人消費も上向くことになり、輸出代金で得たドルを為替市場で人民元に換えるため「通貨高」になる輸出主導国に見られる典型的な為替現象だ。

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 同じ理屈で通貨高になっている韓国は、ますます「中国の衛星国家」としての性格を強めている。

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 「どこかでみた光景だなぁ...」

 筆者は ”デジャブ” に見舞われたが、程なく答えに辿り着いた。まるで「昭和日本」である。今の「中国」との大きな共通点とは:

  「アメリカにものを売って国を大きくしてきたこと」

 1985年の「プラザ合意」以降、車や電化製品をどんどん作ってアメリカに輸出してきた「日本」。しかし売れば売るほど「円高」に見舞われ利益が減少。確かに国は大きくなったが、激しい「円高不況」に堪えかねて「不要な利下げ」を繰り返し、皮肉にも**「バブル」を作り出してしまった。

 **「バブル」は不動産市場に波及し歯止めがきかなくなる「円高」効果もあって一時は「東京の23区を売ればアメリカが3つ買える」とまで揶揄され、国際的にも ”Japan As No1" "Rising Sun" など ”褒め殺し” 。今考えると単に浮かれていただけなのだが、当時の日本は「アメリカを超えた」と勘違いし「覇権」に挑む。その結果「COCOM事件」など強烈なしっぺ返しを喰らい、日本のメーカーが沈んでいったのは見ての通りである。

 アメリカの「覇権」に挑んでいるのは今の「中国」も同じだ。「日本」との大きな違いは軍事力だろうか。そこは厄介なところだが、アメリカにとっては「通貨」「規制」を使って経済面から攻める手法はほぼ同じだ。

 もう一つ「昭和日本」との共通点は国内で「信用膨張」が起きて「不動産バブル」が起きている点。最近でも経済の回復に伴いまたぞろ「借入+不動産投資」が活発化しているらしい。「信用バブル」の制御は難しい

 ここで悩ましいのが「金利」。人民元売りを防ぐために課していた為替取引コストの撤廃には即座に動いたが、やはりそれでけでは「人民元高」を防ぐには不十分。本気で「通貨高」を防ぐには「利下げ」が必要だが、それは国内の「信用バブル」の膨張を助長してしまう。しかし「通貨高」を放置すれば輸出産業の利益はあっという間に削られ、消費の減退を招く。日本では「円高不況」と呼ばれたが、さしずめ「人民元高不況」といったところか。

 「昭和日本」は「通貨高阻止」を優先して「利下げ」を敢行した結果、「資産バブル」「インフレ」を呼び込んでしまった。その後反動で長期の「デフレ不況」に突入してしまったのは周知の通りである。

 おそらく中国の金融当局はこの日本の「バブル」とその崩壊を研究しており、同じ轍は踏みたくない。今のところ国内の「不動産バブル」に神経を尖らしており、「利下げ」には慎重だ。さりとて「人民元高」を放置すれば輸出利益は減少し、工場の海外移転など「国内産業の空洞化」を招く。これもかつての「昭和日本」と同じ道筋。国が豊かになる過程では避けられない事でもあるが、この「通貨高」と「金利」のジレンマは大きい

 輸出主導の国家にとって「通貨高」は「金融引締め」と同じ経済効果を伴い、国債などの名目金利には低下圧力がかかる。実際急激な人民元高を受けて中国国債金利の上昇は止まっている「通貨高」で中国国債を買う投資家もいるだろう。それでもまだ「実質金利」では先進国の中で突出して高い

実質金利G11(after CDS)@21 Oct 20

 「通貨高」による「金融引締め効果」は確かに国内の「信用バブル」を抑制する。しかし「(実質)金利高」を放置すれば「通貨高」が続き、肝心の「儲け」が失われる「昭和日本」同様、これは一筋縄ではいかない。

 やはり「主要通貨・ドル」を握っているアメリカは侮れない「デジタル人民元」はそのためのチャレンジなのだろうが、「中国包囲網」が広がる中、利用が広がる確率は低い。残るは「実力行使」となるが....。

 「鯨」=「日本」からの「過剰流動性」の供給がほぼ途絶えつつある中、その逆の極で「信用膨張」「過剰債務」が顕著になっている「中国」

中国公司@2020.8

 株や為替、不動産等マーケット全体を考えると「台風の目」になりそう。アメリカの大統領選を挟んで米中の「駆け引き」も激しくなるだろう。「過剰」がなくなった「市場流動性」下、「金利」にも動きが出てきており、それは「通貨」の動きに波及するだろう。要注意である

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