人口ピラミッド

「人口ピラミッド」と日本経済 ー 「健康・長寿自慢」に対する違和感。

 随分遅れてしまいましたがあけましておめでとうございます。「損切丸」本年もよろしくお願いします。

 いつもの事なのだが、ゴールデンウィークとかお正月とか日本の長期休暇の間、マーケットはよく動く。NYダウは最高値更新、金利市場はそれ程動いてもいないのにドル円は円高。日本人が手掛けにくい方向にいつも動いている印象だ。e.g. 日本株はよくわからないがアメリカは景気が良さそうだから米株でも買ってみようか、ドル円は110円台になったら逆張りで売ってみようか、etc. etc. そういった気持ちの逆を突く動きが多い。

 さて年末年始、みなさん同様「損切丸」も忘年会や帰省をしたのだが、そこで見聞きして感じたことを少し書いてみようと思う。

 年末の忘年会で同級生などと会う機会も多かったが、共通の話題となるのが「親の介護」。筆者にも80歳以上の親が3人いるが、有り難いことに今のところ3人とも本格的な介護の必要はない。しかし友人の中には親が寝たきりになってしまったり、老人ホームに入れたり、肉体的にも経済的にも負担が大きくなっている家庭も少なくない

 我が家の長老達は比較的元気なので言うことに一つ共通点がある。「健康・長寿自慢」だ。確かに高度成長期を過ごしてきた彼らの「生涯設計」では、現役時代は脇目も振らず働いて老後は年金で悠々自適が基本。預金金利も常に5~6%あったから、3,000万円も貯蓄があれば利息収入と合わせて余裕の老後のはずだったし、それが前提の上での「健康・長寿自慢」だ。

 ...ちょっと待って。健康はまだしも長寿に関しては「その面倒を一体誰が見るの?」。「新人類世代」の筆者の偽らざる気持ちだ。骨密度が高いとか、長寿遺伝子とか、やたらと長生きに価値を見いだす発言ばかりだが、先立つものが足りないケースがほとんど。負担は子供世代に被ってくる

 直近の30年間、日本では成長も物価上昇も止まったまま世界に取り残されているが、どうもこの「人口ピラミッド」が深く関係している気がする。日本では人口構造の中で2つの大きなコブがある:1つは「団塊世代」=1947~1949年生まれ、約806万人、もう1つは「団塊ジュニア」=1971~1973年生まれ、約613万人(標題グラフご参照)。この2つの「人口の塊」が今後の日本経済に大きく影響してきそうだ。

 「団塊世代」は2020年には71~73歳になり、まだ現役の経営者や政治家も多いが、ほとんどが介護の対象に入ってくる。この面倒を見るのが2020年に49~51歳になる「団塊ジュニア」とその1つ前のバブル・新人類世代だ。

 この世代は住宅ローンや子供の教育費など、それでなくても出費が多い。そこに親の介護が被ってくると、とても消費に回すお金などない。加えて、50代は早期退職や関連会社への出向などの対象になる事が多く、経済的負担も大きい。本来ならここに手厚い保護がなされないと消費は活性化しない

 65歳の安倍首相は「団塊世代」よりは一回り下なので高校無償化など一定の政策は行っていると思う。しかし、まだ政治的には800万票を握っている「団塊世代」の力が強く、医療費や年金など抜本的な社会保障費削減に切り込めないのが実情ではないだろうか。皮肉にもこれが今の日本経済の成長、特に個人消費を止めてしまっている

 筆者が親世代と話していても、この世代間の「違和感」がとても強い。本人達はごく当たり前のように健康・長生きのことをとくとくと自慢するのだが、それに伴う「お金」への意識が希薄だ。挙げ句に預金に金利がつかないことに不平を言ったりする。時々少し意地悪く「孫たちが借金しておばあちゃんたちの暮らしを支えてるんだよ?」などと皮肉(事実)を言ったりするととたんに嫌な顔をする。

 とはいえ、80歳を過ぎた世代に今更投資やお金の教育なんて無理(せめて振り込め詐欺やマルチの防止)だし、彼らに言わせれば現役時代は遊ぶ時間も削って働き詰めだったのだから老後ぐらい楽しみたい、というのも正論だろう。ここは「時間の経過」を待つしかないのかもしれない。

 今後の10年間を見通してみよう。やや不謹慎な言い方になってしまうが、平均寿命(男81歳、女88歳)で考えると「団塊世代」、特に介護負担が大きい男性は400万人近く逝ってしまうことになる。経済的、物理的に負担できないケースが増えれば、残念だが「長生き」も難しくなるかもしれない。(一種の ”自律調整機能” だが、このままでは日本人の寿命は縮む方向に転換するのではないだろうか)

 反面「団塊世代」の人口減少は、子供世代にとって見れば介護の肉体的、経済的負担を減らし政治的には選挙での票の偏りが大幅に修正され、社会福祉政策等が転換される可能性も高まる。少なくとも経済だけ考えれば、これらは個人消費にはポジティブな要素だ。

 加えて最近の教育が「自分で考える」方式に大きく舵を切っているため、今までのようにお上の意向だけで政治は動かなくなるだろう。自分の娘を見ていて痛切に思うが、18歳から選挙権を持つ彼らは相当に手強いはず「団塊ジュニア」が世の中を仕切り今の10代が世の中に出てくる頃には、日本も大きな社会的変革期を迎える蓋然性が高い。

 「老後2,000万円問題」「48万円問題」など、最近は少子化で大変になる、的な記事が多いが*筆者はくみしない。まあ不安を煽って増税を正当化したいのだろうが、今の若い世代はそれほど馬鹿ではない。情報を集める術も格段に増えているし、自らの意志で判断して動くことができるので、今までのようにマスコミに踊らされる事も少なくなるだろう。

 *実際同じ島国で人口5,000万人程度のイギリス/ロンドンでも、土地価格の高騰を伴った経済成長が実現しているのだから、日本/東京で起きない、と決めつけるのは早計だろう(移民政策は必要かもしれないが)。

 2020年代はそういう意味で、特に日本はとても面白くなりそうだ。国民性を考えるとおそらく「一気に」来る。おりしも1964年の第一回東京オリンピックが高度成長期の幕開けであったように、同じオリンピックが開かれる2020年も象徴的な年になるのではないか。まずは事態の推移を見極めつつ、投資もチャンスがあればもちろん「勝負」に出たいものだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?