2月、朝の教室。

 朝7時。学校の玄関はいつも独特のにおいで私を迎える。土と、埃と、太陽の熱に、すこしだけカビくささがまじったようなにおい。わたしは、これから先の人生ずっと「青春」「高校時代」という言葉にふれるたびに、このにおいを思い出すだろう。といまから確信している。
 階段をのぼる。3階にあがる。3年7組。入試シーズン本番だから、来る人はきょうも少ないだろう。誰もいない教室は気持ちがいい。
 教室のいちばんうしろの、窓際の席。椅子をそっと引いて、座る。座って、机に頬をつける。ひんやりした感覚。誰もいない教室。気持ちがいい。
 しばらくそうしている。窓の外は晴れている。やわらかい黄色い光が、机とわたしの頬のあいだを、じわじわやさしくあたためてゆく。
 朝、7時30分。
 わたしは静かに椅子から立ち上がり、教室のいちばん前、教壇の前の席につく。
 数分後、教室の戸が開く。
「おはよお」
「おはよ」
「おまえ、いっつも早えな」
 そう言いながら彼は席につく。教室のいちばんうしろの、窓際の席。座るとほぼ同時に、机にぺたんと頬をつけて、だらしない格好になる。
 
 毎日、毎朝、こんなふうに過ごしてきた。楽しかった。幸せだった。でも、もうすぐ、卒業だ。