職業、黒い森の処刑人。

 素朴な感じ。なぜか子供のころからよくそう言われた。素朴。それはなんだかおばあちゃんが作る焼き菓子のようで、あまりうれしくはなかった。もっさりした感じがした。おばあちゃんの焼き菓子は、おいしくて好きだったけれど。
 いまの仕事に採用されたときも、言われた。
「印象が素朴な感じでね。そこが良かった」
「素朴って、どういうことなんでしょう」
 笑いとともに返ってきた言葉は、こうだった。
「飾らない。シンプル。ナチュラル。自分を変につくろうとしてない。たぶん、この仕事には、そういう人間がいいんだ」
 私の仕事は処刑人だった。
 毎日、午前10時に(「処刑人の手引」によると、午前10時は、人間の精神がもっとも穏やかである時間なのだそうだ)罪を犯した人が、黒い森の奥にある処刑場にひとり、送られてくる。
「どうも。おはようございます」
 私はそれ以外、必要がない限りは、とくになにも言わない。相手も、なにもかもわかっているから、短く返事をしたり、軽く頷いたりする。
 私の前任者は、送られてきた人に、その人がいかに極悪で忌むべき罪を犯したか長々と朗々と話して聞かせ、11時をまわるころ話を終えると、決して鮮やかとはいえない手際で処刑する。そんな人だったらしい。処刑人という仕事への意識がちょっと過剰だったのだろう。
 そんなのはいやだなあ。と私は思っていた。
 処刑なんて、淡々と、ふつうに、あっさりと、やるのがいいんじゃないかなあ。と。
 大仰にやるのはいろんな意味で痛々しい。それに処刑したあとにはなにも残らないのだ。なにも。
 処刑前にはいちおう、お茶か烟草か、お菓子か、お酒か、どれか勧めるが、きょう送られてきた人も──多くの人がじつはそうなのだが──それらを断った。
 その人は最後に言った。
「さっと済ましてくれ。あんた、いい腕してるそうだね。しかし聞いてたとおり素朴な感じだな。いいね。そういうのが、いいんだよ。処刑だなんだっていってもさ」