初めてお金とモノを交換した頃

世の中に「お金」というものがあって、差し出すと「モノ」が所有できると知ったのはたぶん4歳か5歳の頃だと思う。缶詰や調味料が並んでいる近所の雑貨屋さんで、弟を背負った母親から商品と幾ばくかの小銭を渡され、「これくださいって言ってきなさい」とレジへ送り出された。

生まれたときから顔見知りのおじさんが小銭をニコニコ受け取ってくれて、商品を「はいどうぞ」と返してくれる。もう何を買ったのかは忘れてしまったけれど、間違いなく「なんか大人になった!」と思った瞬間だった。

初めて「売る」体験をしたのもその頃だったと思う。

幼稚園の文化祭のようなイベントで「お店」を出すことになり、自分たちは「パン屋さん」担当になった。パン屋さんをやるからにはパンを製造しなければいけない。模造紙や丸めた紙を使ってパン型の塊をこしらえ、絵の具で美味しそうな色目を付ける。シンプルなコッペパン、小さめのアンパン、平べったい食パンなど商品数は結構豊かだ。

模擬店なので、私たちはお金も作らなければいけない。

確かダンボールを丸く切り抜いたコイン状のものにもキレイに色を塗った。お札はあったかどうか覚えていない。商品である紙のパンとコイン状の何かを前に、先生からルールを教えてもらう。

「このパンは、お金2枚と交換できます」
「あのパンは、お金3枚と交換できます」

おお、そうなのか。本当にお店屋さんだ。パン屋さんだ。

当日は机だったか床だったか、自分たちのスペースに「パン」を並べて、お客さんが来るのを待った。「これください」と言われたら「お金」をもらってパンを渡す。なんだか楽しい。もう一歩くらい大人になったんじゃないか。

*  *  *

私の商売の体験は、全部ここから来ている。大人になって本当に「自分の物販」を実行するまで40年くらいかかっているので、感覚があまり刷新されていない。

大人になってから自分でこしらえた商品はZINEだった。商品を並べるスペースはオンラインショップで注文はメール越しだけれど、手作りのものに値を付けて「売れるかな」とワクワク待つ気持ちは40年前と同じだ。

ショップに新商品を並べるたびに、あのときの「パン」を思い出す。





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