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仕事と関係ないZINEを作ることにした(8)短歌に英訳をつける

2018年に作った短歌ZINE『半分くらいの』の制作記録です。ずいぶん間が空いてしまいましたが続きを。

そうだ、短歌を英語にしてみよう

自作イラスト+自作短歌の組み合わせのZINEはたくさんある。そしていわゆる短歌の力、歌のレベルはその方々のほうが絶対高い。ZINEのレッドオーシャンのようなフィールドに出すのではなく、何か一捻りしたい。

そこで思いついたのが短歌の英訳だった。

ただし、背景や言葉の裏にあるものを読み取って味わうスタイルの短歌は、ハイコンテクスト過ぎて直訳しても意味が通じない。どうせ作るのであればある程度の情況の説明も入れつつ、英語ネイティブの人にも自然な形で意味を伝えたい。

これは自力の英訳ではとても無理なので、ちゃんと料金をお支払いするお仕事としてプロの手を借りることにした。

頼ったのは、通訳案内士の資格を持ち英検1級のホルダーでもある馬上千恵さん。以前、プロフィールのお仕事をさせていただいた同い年の才媛だ。

プロフィール作成のやり取りでも、言葉に対する向き合い方、語彙へのこだわりなど自分と感覚がとても似ていると感じた(馬上さんはレベルが全然違うところにいらっしゃるけれど)。

短歌のような細かいニュアンスまでお伝えして受け止めてくれるのは馬上さんしかいないと思い、お仕事としてお願いできるか問い合わせてみた。すると普段はこういった翻訳系の業務はしないけれど、今回特別に引き受けていただけることになった。ありがとうございます!

どの日本語を英訳してもらうか

その歌を詠んだ作者が英訳するなら、言葉に込めた意味や表現したい描写が頭の中にあるのでそれを他言語へ変換すればいい。しかし作者と訳者が別の場合、同じ作業をするためには「訳者が歌を解釈する」という大きな一手間が入る。「解釈しなければいけない」と言い換えてもいい面倒な作業だ。

英語側の適切な言葉を探してもらうにも大変なのに、解釈までお任せするわけにはいかない(ただでさえ未熟な歌なのに)。そこで短歌をそのまま提出して英訳をお願いするのではなく、英語にしやすい「短歌解釈の短文」を訳してもらうことにした。

短歌→短文→英訳のプロセス

掲載歌)咄嗟には今来たという 待つほどに楽しみだとは絶対言わない
   ↓
短文)あなたに長い時間待ったとは言わない 楽しみだとは知られたくない

伝えたいニュアンスが英訳後も残るように、短歌上は表に出ていない事柄を含めた短文を作る。これを訳してもらう。短歌も参考にして、活かせる表現やリズムを考慮してもらう。改めて書くと凄いお願いをしているな。

馬上さん訳1)I won’t say that I have been waiting a long time for you
Because I don’t want you to know
That I am really looking forward to it.
   ↓
馬上さん訳2)I won't say that I have been waiting for you since long
Because I don’t want you to know
That I am really looking forward to it.

作った短文と短歌を並べて、短文を情景が載る英文に訳していただく。その段階で「ぴったりな語彙、その日本語に一番ニュアンスが近い英単語」をあてるのは絶対プロでないと難しい。

さらに馬上さん側のネイティブチェックなどを経て細かい修正をし、なぜその言葉を選び直したかも教えていただく。

上記の例は「since long」について「ノンネイティブは引っかかるかもしれないが文学的な表現であれば大丈夫」というネイティブからの指摘が注釈として入っていた。なるほど…。

また、短歌は分かち書きだけれど英文ではどうレイアウトするか、カンマを付けるか付けないか、などの細かい表記についても相談した。というか、正確に述べると「短歌を英語にした際、こういった表記の違いや受け止め方が発生するが大丈夫か」と馬上さんから教えてもらって「そんな問題が発生するのか!」と初めて知った。

やっぱり熟知している人は見るポイントが違う。異文化向けの最適なアウトプットのために何が必要か、何をチェックすべきかを分かりやすく指摘いただいて、新しい知識や情報を楽しみながら作業することができた。

15首でこの作業を繰り返す

今回のZINEでは15首を掲載。その全ての英訳で上記のような翻訳工程をお願いして、めでたく完成となった。

だから日本語の短歌部分は私が作者と言えるけれど、英訳部分は共同どころか馬上さんの作品と言ってもいい。おかげさまでZINEショップなどでは海外の方にも購入いただけているらしい。

現在はMOUNT ZINEさんの実店舗(世田谷区駒沢)、オンラインショップと、自分のBASEで販売している。短歌もだけれどぜひ英訳の付け方も見てほしい。

馬上さん、改めて、ありがとうございました!


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