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続:エディトリアル演習 #002 【技】Adobe Illustrator:環境設定指南

先日の「デザインあ」の出演、お陰様で沢山の反響をいただきました。喜びを糧にして引き続き更新していきたいと思います。それでは本日はこちら。

【技】Adobe Illustrator:環境設定指南

以前、すでに社会人になった教え子を中心に「授業で何が印象に残ったか」を質問したところ、多く声が挙がったのが「環境設定についての指南」でした。私個人としては意外な答えが返ってきたため「もっと面白いことも教えていたはずなのに、環境設定か・・・」と少しがっかりもしていたのですが、なぜ環境設定が印象に残ったのか自分なりに考察しました。

まず、環境設定を教えるとはどういうことか。そもそも環境設定は、アプリケーションの使い勝手を良くするべくユーザーそれぞれがオリジナルな設定に変更できるというもの。自分好みのアプリケーションにカスタマイズできるというのが環境設定の最大の利点です。

逆に捉えると、自分好みのアプリケーションに設定するには、アプリケーションをある程度理解していないと設定できないということでもあります。アジア料理を提供する飲食店に初めて訪れて、卓上に置かれている数種類の謎の調味料に手が出せないのと似ています。(今日は下手な例え話が続きます。)

そのため、アプリケーションにまだあまり触れておらず苦手意識のある人にとっては、環境設定を変えるまでは遥か遠い道のり。しかしながら環境設定をあらかじめ適度に設定しておくことで、習得するスピードやコツをつかむ速度をぐっと縮められるのではと考えています。楽器を習う際に安価で粗悪な楽器を使うより、初めから良い楽器を扱う方が早く上達することと似ています。

そこで、私がこれまでデザイナーとしてAdobe Illustratorを扱ってきた上で、様々に環境設定を検討し熟成させた設定、いわば何十年も継ぎ足し味わいを深めてきた鰻屋の秘伝のタレのようなものを、皆さんにお裾分けしたいと考えています。

もちろんあくまでも一個人としての環境設定の好みですので、自分なりにアレンジしていただいて構いません。むしろ自分なりの最適解を探すためのお手伝いというつもりでお伝えしますので、最終的には千差万別な環境設定が出来上がることを望んでいます。環境設定を変更したことがないという方はまず一度試していただき、その後自分なりの設定を見つけていただけると幸いです。

それでは一画面ごとにそれぞれ説明します。
(設定画面のバージョンはAdobe Illustrator 2019です)

環境設定1:一般

まず設定して欲しいのが一般の項目。特に着目すべきは「キー入力」の数値です。これはオブジェクトを選択した状態(モノを持った状態)で矢印キーを押した際に、どのくらいの距離にモノを移動させるかを決めるための数値です。キー入力の初期設定値はかなり大きく、うまく矢印キーが機能しません。数値が大きければ大きいほどAdobe Illustatorでの矢印キーの挙動は大雑把でざっくりしたものになるので、少し悪い言い方をすれば出来上がるモノも大味になりがちです。

私自身、ディティールに神が宿るとまでの信仰心はありませんが、ロゴや書体制作時の細かな微調整や、パッケージの成分表示などの情報を過密にレイアウトする作業も含め、細かなキー入力値にしておくに越したことはないと感じています。ぜひキー入力を「0.01mm」に設定してみてください。

ちなみに、シフトを押しながら矢印キーを押すとで、キー入力値の10倍の値でモノを動かすことが可能です。0.01mmと0.1mmの移動を駆使して矢印キーを叩きまくってください。私が人生で最も多く叩いたキーは、おそらく矢印キーだと思います。

環境設定2:選択範囲

選択範囲は割と好みが分かれる部分かと思いますが、強くオススメしたいのが「オブジェクトの選択範囲をパスに制限」にチェックを入れること。初期設定ではチェックが入っていないため、色が塗りつぶされたオブジェクトなどはオブジェクトのどこを触っても選択することが可能です。

一見するとチェックが入っていない方が使いやすいように感じがちですが、実は大きな弊害が生まれます。そのひとつが「背後に隠れたオブジェクトを選択しにくい」ということ。複雑なビジュアルを制作していくと、必ずやオブジェクトが重なり、時に選択したいオブジェクトが別のオブジェクトに隠れてしまうこともあります。オブジェクトの選択範囲をパスに制限することで、背後に隠れたオブジェクトも瞬時に選択できるようになるのです。

パスのみを選択するには少しの慣れが必要ですが、慣れてしまえば作業効率が随分と上がるはず。初めはやりにくくても、ギターの習いはじめのバレーコードのようなものだと思って諦めずに続けてみてください。ここがクリアできると様々な作業に応用でき、大きく前進できると思います。

環境設定3:テキスト

地味な内容が続きますがお次はテキスト。こちらで大事なのは3点です。「サイズ/行送り」は0.5pt、「トラッキング」は5/1000em。これは明確な根拠があるわけではなく、私が色々試した上で落ち着いた数値です。オブジェクトの移動に比べ文字間の調整などは圧倒的に矢印キーを押す回数が増えるため、細かすぎず粗すぎずの塩梅を狙った数値を設定しています。

トラッキングやカーニングなど用語の意味と共にまた別の機会に細かくお話しますが、まだまだ文字間は手作業で調整しないと心地よい間隔にはなりません。そのためにも、文字間を手詰めしやすい設定にしておくことが何より重要です。ちなみに、チラシやポスターなんて序の口、展覧会の会場キャプションのテキストを全て手詰めで文字間調整することもあります。手作業の文字詰めをディープラーニングしてくれる機会がやってくることを切に願います・・・。

また、先ほどの環境設定2とは逆で、テキストのオブジェクトについては選択範囲をパスで制限しない方が良いです。通常のオブジェクトと違い、テキストオブジェクトはパスの位置が特殊というのが理由のひとつです。目に見えない場所にパスが隠れているため、パスに制限するとかなり選択しにくい状況になります。また、テキストは基本的に読む目的のものとして、オブジェクトの背後に隠れることが少ないということも理由に挙げられます。(画像内テキストの下線部がテキストオブジェクトのパスです。)

環境設定4:単位

続いて単位。Adobe Illustatorを操作する上で使用する単位をカスタムできます。初期設定では線はポイントになっているかと思いますが、これまでの人生でポイントという単位で線を引いた経験のある方はどのくらいいるでしょうか?単位は、自分の身近に存在し身体感覚を伴うことではじめて効果を発揮します。自分の身体感覚に合わせた単位を選択しましょう。

しかしながら、文字に関しては馴染みがなくてもポイントか級を選択してください。デザインに携わる限り、文字の大きさはポイントか級でコミュニケーションすることがほとんどです。この単位は馴染みがなくても使い続けましょう。いずれ「8ptはこのくらい」「あと0.5pt小さくすると良さそう」というように身体感覚が芽生えてくるはずです。ポイントか級かは業種によりますが、私はほとんどの案件がポイントです。

また、Adobe Illustator上でwebサイトやバナーのデザインを作成する際は、迷わずピクセルに単位を変更し作業してください。このように媒体によっても単位が異なるため、それぞれの単位をきちんと把握しておくこともとても大切です。

環境設定5:ユーザーインターフェース

最後にユーザーインターフェース。こちらはカンバスカラーを「ホワイト」に設定してください。授業をしていた頃、アートボードの中だけで作業し完結させてしまう学生が非常に多かったのですが、カンバスカラーが初期設定のグレー色だったということが原因のひとつだったようです。

もちろん、最終的な入稿データとしてはアートボードの中だけでデータが完結していることが望ましいです。しかしラフとして草案を制作している間は、複数案を制作したり、細かなレイアウトの違いを比べてみたり、色違いで並べてみたりと、様々に検証する必要があります。その検証をするためにも、Adobe Illustatorのドキュメントを時には白紙の落書き帳のように扱うこともあって然るべきだと思います。広大な白紙を使って自由に発想を拡げられるよう、カンバスカラーはホワイトに設定してください。

以上、私がオススメしたい環境設定をいくつかお伝えしました。もっと細かな話もいろいろあるのですが、とても文章では書ききれそうにありません。最低限の設定をお知らせしましたので、まだまだ操作に不慣れな方はこの設定でしばらく作業を続け慣れていった上で、自分なりの好みを模索していってもらえればと思います。

地味な記事過ぎてちょっと不安になってきましたが今日はここまで。読んでいただきありがとうございました!


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