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男は選んだ。女は迷っていた。


 なんの用だったのかは憶えていないけれど、その深夜、2人でいっしょにコンビニにいたときのことを憶えている。

 おかしな話なのだけれど、私は店の前のベンチに座っていて、彼は赤い自転車を駐車場でぐるぐる大きな円を描くように運転していた。駐車場には車が1台も停まっていなかった。時間を持て余しているような顔をしたコンビニの店員が、窓の外から見えた。

 彼が、私たちのこれからについてどうするかどうか決めかねているのだと、私にはわかっていた。すると彼は自転車を停め、それにまたがったまま私のほうを見て言った。

「僕は決めたよ。僕は決めたから」

 彼が確信をもってそう言ったわけではないのが、私にはわかった。けれど、彼は、

「もういい。君がどう思うかは僕にはわからないけど、僕はとにかく決めたんだ。決めたんだよ」

 それで私は、自転車に乗っている彼に向かって言った。

「あなたがそう決めた理由は完璧に理解できるわ。だって理由はあなたの側にあるんだもの。でも私は、私にはまだ準備ができていないの」

 駐車場の角には、そのコンビニのロゴマークが配された街灯が立っていた。それは白々しいほどに輝いて見えた。

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