栗麻呂ノ暗号最終章第1話あ

<ノーランと宮崎駿>最終章①「BACK TO 1989」

これまでのあらすじ

1989年から現代へタイムスリップしてきたクリストファーは、自分が未来において映画監督となり世界的巨匠とまで呼ばれることを知る。しかもその原動力となったのは、少年時代からの憧れ「宮崎駿」そして「ゲド戦記」への想いだったのだ。クリストファーは未来において『俺のジブリ美術館計画』『俺のゲド戦記計画』を実行することを知らされる。すべての謎は「7つの歌」の中に隠されていた。「ルージュの伝言」から『インセプション』の物語を、「やさしさに包まれたなら」から『インターステラー』の物語を構築した未来のクリストファーは、「テルーの唄」の”謎かけ”から『インターステラー』の登場人物の名前を考え出す。さらに、『コクリコ坂から』の挿入歌「紺色のうねりが」に衝撃を受け、『インターステラー』の中に「賢治愛」を組み込むという『俺の宮沢賢治計画』までも実行に移す…。そして「何も言えなくて...夏」を聴いたクリストファーは、恋人エマに会うために1989年へ帰り、再び戻ってきた。第6の歌「Love is Everything」で「時空を超えた量子データ送信」を達成し、第7の歌「さよならの夏」で『インターステラー』の物語全体を再現することに成功。ついに全ての計画は、世界で誰一人として気付かれることなく完遂された… はずだった…

詳しくは各曲の回でね!

しかしどえらい愛憎劇やったな…

宮崎駿への深過ぎる愛情と、表現者としての凄まじい執念を感じたわ。

もう思い残すことはないやろ…

でしょうね…

やりきった感があります…

でも…

はたしてこれで、未来の君は満足したんだろうか…

え…?

どういうことですか?

僕には、これで君が満足感を勝ち得たなんて思えないんだよ…

本当の満足なんて、決して出来やしないと…

どういうことだ、おかえもん…

だって、こんなことをして何になるって言うんだい?

ただの自己満足に過ぎないんじゃないのかな…

大きな犠牲を払ってまでも、やるべきことだったのだろうか?

犠牲?

そう…

「俺のジブリ美術館計画」「俺のゲド戦記計画」「俺の宮沢賢治計画」といった諸計画を実行するために、非常に大きな犠牲を払ってしまったんだよ。

さまざまなアイデアを詰め込んだ結果、映画の尺は大幅に伸びてしまい、多層化し、複雑化してしまった。描かれるテーマの明瞭さも欠けてしまったんだよね。日本みたいに”キャッチーなフレーズ”が好まれる国では、何の映画かよくわからないので敬遠されてしまった。

最新作『ダンケルク』では、そのあたりが大きく改善され、7年ぶりの来日を含めた盛大なキャンペーンも行われたけど、やっぱり「ノーラン映画=難しい」というイメージを払拭することはできなかった。興行収入も厳しい数字となってしまったんだね。

『インセプション』『インターステラー』『ダンケルク』の売上推移をみると、こうなっている…

右肩下がり…

しかも日本の貢献度むっちゃ低いやんけ…

・・・・・

未来の君が作品を通してこんなにも宮崎駿&宮沢賢治愛を示したのに、日本人は全く気付いてくれなかった…

いや、気付くどころか観てさえもしてくれなかったんだ…

これでは本末転倒だよね。

確かに…

あそこまでオマージュやりまくらないで、シンプルに2時間の尺に収めてたら、日本における『インターステラー』の落ち込みは無かったかも…

主演もマシュー・マコノヒーじゃなくて、『インセプション』のディカプリオみたいにもっと人気俳優を起用したらよかったよね…

せやで。

『ダンケルク』でも全く無名の役者を主役にしとったよな。

ハリー・スタイルズを主役にとは言わんが、せめて期待の若手俳優を起用しとったら、もうちょっと数字は上がっとったんとちゃう?

その点に関しては同感だ。

知名度の高い俳優を起用した場合、私の試算では、日本で+20億円、グロスで100億円の上積みが可能だった。

でもね、インステもダンケも、あの二人を主演に起用する理由があったんだよ…

ノーランの中で明確な意思のもとに選考された二人なんだよね…

なぬ!?

明確な…意思?

『インターステラー』のマシュー・マコノヒーは、井上順へのオマージュなんだ…

1980年某月某日に放送された「夜のヒットスタジオ」での井上順を再現するために起用されたんだよ…

同じように黄色いジャケットまで着せてね…

ハァ!?

い、井上順?

そして『ダンケルク』の主演に大抜擢されたフィン・ホワイトヘッドは、『耳をすませば』の天沢聖司のイメージをもとに選考されたんだ。

言われてみれば、髪型も雰囲気もそっくり!

『インターステラー』でアメリア・ブランドを演じたアン・ハサウェイが「さらば愛しきルパン」の小山田真希そっくりの髪型で、同じ”尋問”というシチュエーションで同じような演技をしてたのと一緒だ!

ノーランは特に、髪型に対してこだわりが強いようだ…

自身も「魔女の宅急便」のトンボに憧れて髪型を一緒にしてたくらいだからね…

そういえばそうだった!

いやあ…照れますねェ…

だから自身の作品内で宮崎アニメの登場人物の髪型を真似ることに徹底してこだわっているんだ…

『ダンケルク』内のオマージュシーンでも、髪型の細部まできっちり再現させている。

こんな風にね…

風(笑)

しかもあの砂浜での不自然な行列は、多摩川と橋を表しとったんか!

どこまでこだわっとんねん!

もう、何と言っていいのやら…

でも…

フィン・ホワイトヘッドと天沢聖司はわかるんですが、マシュー・マコノヒーがなぜ井上順なんでしょうか?

というかそもそも…

井上順という方は、いったいどのような人物なんですか?

宮崎駿作品とどういう関係が…?

せや!

ワイらの世代には懐かしいけど、今の若いもんらは知らんやろ!

しかも宮崎駿作品とも何の接点もない!

なんで井上順やねん!

これを話すと、また10話くらいかかってしまう…

一日おきに更新しても三週間はかかってしまうよね…

さすがにもう飽きてきたでしょ、僕の長話にも。

い、いや…

そんなことは…ないけど…

いいんだよ、無理に慰めてくれなくても。

PV数も全然上がらないし、ちっとも話題になっていない。

これじゃあまるで「俺のジブリ美術館計画」と一緒だ。

ここまで一生懸命作っても、誰の目にも止まらなかったら意味が無いよ。

やった意味なんて無いんだ…

おかえもん…

だから悪いことは言わない…

君も1989年に帰ったら、きれいさっぱり忘れるんだ。

宮崎駿への想い…そして僕が話したこと全てをね…

・・・・・

君は才能に溢れてる。

その才能を無駄に使うべきではないんだ。

君は人類の宝なんだよ。僕がブログで茶化してる場合じゃないくらい大きな存在であるべきなんだ…

やっぱりボクは…

行かなきゃならないんですか…?

君はここに居ちゃいけない人間なんだよ…

君には帰らなければならない場所がある…

ボク…ここに残ります!

ブロガーのお仕事、きっと覚えます!

あなたたちのお手伝いをさせてください!

クリストファー…

バカなこと言うんじゃないよ…

こんな45歳のおじさんと一緒に映画産業の底辺で暮らしたいというのかい?

君は映画界の星になるんだ。映画監督を目指す世界中の若者たちが憧れる大スターになるんだ…

僕らのように薄汚れちゃいけないんだよ…

オッサンなに言うとんねん。

「ら」は余計や。一緒にすな、ボケ。

僕はどんなことがあっても絶対に君のことを忘れない…

君が作る作品を、地球の裏側からずっと応援しているからね…

おかえもん…

(おかえもんって今年の8月までノーラン映画を観たことなかったんじゃ…?)

ええじゃろう、何か言ったかい?

い、いえ…何も…

TARS…

君ともお別れだ…

ああ、BOSS。

2013年の撮影開始の日に、また会おう。

うん…

でも最後に…ひとつだけ…

お願いを聞いてもらえるかな…

お願い?

何だ?

ボクのことを…

そ、その…

遠慮するな。

あなたは私の未来のBOSSだ。

じゃあ...

ボクのことを…


あの...


お...

お姫様抱っこして!



へ!?

お安い御用だ。

ほれ!

ああ!

ターズ!ターズ!

アハハハハ!


ズコっ!

カールとクラリスか!

(カリオストロの城』より)

カールは喋らないけどね…

「クラリス様!」は、お爺様のセリフだ…

グスン... グスン...

これでもう思い残すことはありません…

皆さんどうも、お世話になりました…

今度こそ本当のお別れです…

ばいばい、クリストファー…

元気でね…

はい…

ええじゃろうも元気で…

クリ坊の映画で鶴が必要になったら、いつでも声かけてや…

そん時はカムパネルラみたいに叫ぶんやで…

「鶴は居ますかっ!?」って…

ワイは一目散に飛んで駆け付けるで…

それじゃあ…達者でな…

はい…

そんな機会は無いかと思いますが…

もう戻ってくるんじゃないよ…

あと、エマさんを大切にね…

剛腕プロデューサーの彼女なくして巨匠ノーランは誕生し得ないから…

はい、わかってます(笑)

「何も言えなくて...夏」みたいにならないようにしますね…

それでは…

皆さん…


さよ…

おなら…


プッ




く、クリストファーっ!


BOSS...

最後まで「運動の第三法則:前に進むには何かを後ろに残していかなければならない」を遵守して…

さすが、こだわりの人…


ああ…

ついに行っちゃったね…

いい子ぶっててたまにムカつくところもあったけど、基本的には気持ちのいい奴だった…

せやな…

呑み込みも仕事も早くて、昔から一緒にやっとったような気がしたわ…

クリストファー...

きっと…

きっといつか必ずまた会えるよね…



ちょっと待ったァーーー!


ねるとんか!

なんやねんこのオッサン急に…

人がせっかく感動の余韻に浸っとるっちゅうのに!

どっから入って来よったんや?

ここは関係者以外立ち入り禁止やで!

私はクリストファー・ノーランだ!

過去ではなく正真正銘、現在の!


まっ・・・

へ?

BOSS!

す、すみません…

この者たちの無礼の数々...

私は何度もやめるように忠告したのですが…

何卒お許しください…

全部お前だろっ!


あーーー!

こんなことをしてる場合ではないのだ!

私はどこだ!?

1989年の私はどこにいる!?


ちょうど入れ違いになっちゃったよ…

入れ違い?

せや。

28年前のあんさん、19歳のクリ坊は無事に1989年へ帰ったで。

しかしまあ危ないとこやったなァ…

もしあんさんがもうちょっと早よ来とったら、鉢合わせしてタイムパラドックス起こすとこやったで。

タイムパラドックス?

時空を超えた本人同士の御対面や。

しかも本棚通さずに…

プッ(笑)

そんなところで私の作品を被せなくていい!

ああ…

なんてこった…

一足遅かったか…

あー

ひとつだけお聞きしてもよろしいでしょうか?

な、何だね古畑さん?

さすが隠れ日本通…

よくご存知で…

だってあの時あなたは、19歳の私に向かって、さんざんその物真似をやってみせたじゃないか…

後年そのおかげで私は『古畑任三郎』のドラマを見る度に、あなたの物真似が目に浮かんで推理に集中できなくなってしまったんだ…


そうだ思い出したぞ!

古畑じゃなくて、おか畑もん三郎だ!

はっはっは…そうでした…

私は19歳のあなたの前で、これをやっているのですね…

あなたのような世界的巨匠に覚えていて頂けて光栄です…

あー、ところでこのまま続けてもよろしいでしょうか?

お気に障るようでしたら普通の喋り方に戻しますが…

いいですよ、そのままお続けになって…

あー、これはどうもかたじけない…

さすがの私も急にあなたの前で喋るとなると、ちょっと照れますのでね…


さて、先程からあなたは過去の御自分の行方を気になさっておられるようだ…

タイムパラドックスの危険にも目をつぶって…

無事に元いた1989年へ戻ったというのに、なぜ「一足遅かった」と言われたのでしょう?

そんなことわかりきっているだろう!

私はそれを止めに来たのだ!


へ!?

止めに…?

でも過去のあなたは1989年の元いた世界に戻らなければ…

確かに私はあの時1989年に帰った…

でも私が辿り着いた先は、戻るべき場所ロンドンではなかったのだよ…

え?

では…どこに…?

ああ…

確かにそこは1989年の夏だった…

でもその場所は、エマの待つロンドンではなかった…

あの時私は何らかの理由で時空の歪みに巻き込まれ、全く違う場所に飛ばされてしまったようなんだ…

そして私はその場所で…

決して会ってはならない人と出会ってしまった…

・・・・・

私が行き着いた場所とは…

ゴクリ…


ーーーーーーーーーーーーー

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ーーーーーーー

ーーーーー

ーーー




いてててて…

いったい今のは何だったんだ?

ロンドンの街並みが薄っすら見えて来たと思ったら、急にあたりが真っ暗になって、そのあと一面の激しい火花が飛び交って、雷のような轟音が鳴り響き、目もくらみそうな光に包まれたと思ったら、その中に吸い込まれていってしまった…

しかしここはどこだ?

この鬱蒼とした茂みは…

もしかしてハイドパーク?

とりあえず、この茂みから出てみるとするか…

くそ...この小枝チクチクするなァ…

あっ!

茂みの外が見えるぞ!

もう少しだ!


ガサッ!


・・・・・

どういうことだ?

ここはロンドンじゃない…

いったいどこなんだ、ここは?

道路だ!下に道路がある!

あそこを辿れば、きっとどこかの集落に着くはずだ…

車だって通るかもしれない…

そうすれば、ここがどこなのかわかるぞ…


よいしょ…

よいしょ…

こんな崖が何だ…

ボクはエマのもとに必ず帰ってみせる…

ふう…

やっと道路まで降りて来たぞ…

でも、こんな山奥ちっとも車なんて通りゃしない…

道を下っていってみようか…

小さな村でもあるかもしれない…

あ!

車が来た!

やったぞ!

シトロエン?

てことは、ここはフランス?

いや…

ナンバープレートに漢字が書かれてる!

ここはまだ日本だ!


あっ!

ツイてるぞ!

止まってくれそうだ!

すいませ~ん!


あ、あの…

道に迷ったんです…

もしよろしければ…近くの村まで乗せていって頂けますか?

こんな辺鄙な山奥をひとりで歩いているとは、今時珍しい若者ですねえ。

見ての通り狭くてオンボロな車だが、それで良ければどうぞ乗りたまえ。

ちょうど下の集落まで買出しに行くところだ。乗せていってあげよう。

あ、ありがとうございます!

どういたしまして。

困った時はお互い様ですよ。

ボクの名前は、クリスト…

いえあの…クリスチアーノ・ノラリゲスといいます…

祖母が日本人で、父がスペイン人なんです。

イギリスのロンドンから来ました。

どうぞクリスと呼んでください。

ほう。それで日本語がお上手なんですね。

私のことは…そうですね…

「宮さん」とでも呼んでください。

では出発しますよ…

はい、宮さんお願いします!

はっはっは。

元気があっていいですねえ。

ところで音楽かけてもいいかな?

はい、どうぞ。

ボクも音楽大好きです!

じゃあクリス、運転してる私の代わりに再生ボタンを押してくれないか…

ポチっとね…

はい、これですね…

ポチっとな。

『お世話になりました』歌:まっしー


ーー 第2話へ続く ーー


<今回登場した映画>

インターステラー

(Amazonビデオ字幕版)


カリオストロの城

(Amazonビデオ)


耳をすませば

(Amazon:セル)



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