第137話 ポール・サイモンの HEARTS AND BONES ⑥「ハーツ・アンド・ボーンズ」後篇Ⅲ~『深読み ライフ・オブ・パイ&読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
すべての準備が整ったようね。
ええ。
それでは『ハーツ・アンド・ボーンズ』からどうやって『ライフ・オブ・パイ』が生まれたのか解説しましょう…
その前に、もう一度、曲を聴いておきたいかも…
そう来ると思ったわ。
ミュージック・スターティン!
Paul Simon『HEARTS AND BONES』
この曲が…
この物語になる…
『Life of Pi』
そう。
作者ヤン・マーテルとアン・リー監督による、実に鮮やか過ぎる手口と言えよう。
『ハーツ・アンド・ボーンズ』は、こんな歌い出しで始まります…
One and one-half wandering Jews
Free to wander wherever they choose
Are traveling together
1と1/2のさまよえるユダヤ人
誰にも邪魔されずに目的地へと
共に旅をしている
流れ的に言うと…
この「1と1/2のユダヤ人」は、パイとトラのことを指していると思われますが…
その通り。
ヤン・マーテルが書いた『ライフ・オブ・パイ』という物語における最大のトリックは「パイはユダヤ人である」ということだった。
原作小説でのパイは、ポール・サイモンそっくりの風貌をした人物として描かれる。
そして作中における「インド人」というのは「ユダヤ人」のことであり…
「ヒンドゥー教」とは「ユダヤ教」のことを指していた…
だけどそのトリックは、映像化すると、全く意味をなさなくなる…
文字での描写だから可能なトリック…
だから映画版では、パイの外見が大きく変えられ、オチも変更された…
そういうことです。
だけどパイとトラは「1と1/2のユダヤ人」じゃないでしょ?
パイは「インド人」に偽装した「ユダヤ人」だからいいとして…
トラは「1/2」どころか、そもそも人間ではない…
あのトラは、ベンガルトラ… つまり「Indian Tiger」…
だから「Jewish Tiger」なんだよ。
あ、そっか…
でもなぜハーフ?
あのベンガルトラは、子虎の時にヨーロッパ人のハンターに拾われて、我が子のように育てられた…
しかし成獣になり、ハンターの手には負えなくなったため、動物園に売られ、「リチャード・パーカー」という西洋人風の名前が付けられる…
だから「ハーフ」。
なるほど…
では次のフレーズを…
In the Sangre de Christo
The Blood of Christ Mountains
Of New Mexico
サングレ・デ・クリスト山脈…
血を流しながら横たわるキリストの山…
ここは一目瞭然ね。
パイがキリストに出会った高原の遠方に見えた山並みと…
旅の終わり付近に辿り着いた「死と再生の島」の形…
どちらも「横たわるキリスト」の形をしていたわ。
次の歌詞も一目瞭然だよね。
On the last leg of a journey
They started a long time ago
The arc of a love affair
Rainbows in the high desert air
彼らがずっと前に出発した旅の
最終行程で見たもの
それは愛の円弧
砂漠の空に浮かぶ虹
これは、あの虹のことですね…
パイとトラが旅の最終行程で遭遇した大嵐の後の虹…
海は広大な砂漠…
目に見える大きさの生き物なんて、ほんの一部にしか住んでいない…
砂漠の中のオアシスみたいなところにしか…
そして1番の最後のフレーズ。
Mountain passes
Slipping into stone
Hearts and bones
山を過ぎ
これは「キリスト山の島」のことでしょう。
石の中に滑り込む
あの島の後に、滑り込んだ「石」…
つまりこれは…
わかった!メキシコの海岸ね!
ボートとパイが滑り込んだ砂浜は、小さな石の粒で出来ていた!
そして、あそこでパイが「十字架に掛けられるキリスト」のポーズしたので…
虎のリチャード・パーカーは「石の墓穴」の中へ入っていった…
洞窟だと行方不明にならないので、ジャングルの穴として描かれていたね…
「Mexico」とは「神に選ばれし者」という意味…
そして「x」の文字は、キリスト(Χριστος:クリストス)の「x」であり、十字架のことでもある…
つまりあの「メキシコの砂浜」は「ゴルゴダの丘」の投影…
一番はカンペキ。
『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ
どこまでも完璧だよ。
それでは次に2番…
2番は冒頭で「ちょっと時を戻してみよう」と歌われ、回想シーンが始まる。
Two people were married
The act was outrageous
The bride was contagious
She burned like a bride
二人の人間が結婚した
その行為はトンデモナイことだった
これはパイのお父さんとお母さんのことですね。
パイのお父さんはカーストが低い身分だったので、高い身分だったお母さんの両親は猛反対し、娘と絶縁してしまいました。
その通り。
だけど『ライフ・オブ・パイ』の中で「インド」に関することは全て偽装…
パイのお母さんは超正統派のユダヤ教徒で、お父さんは無神論者の非宗教的ユダヤ人だったんだ。
だからお母さんは結婚を反対され、勘当されたというわけ。
花嫁は伝染力が強く
花嫁のように燃えた
パイのママは、幼い息子たちに彼らの民族宗教の素晴らしさを伝えようと一生懸命だったわ…
シンボルの描き方や意味を教えたり…
ベッドで神話を聞かせてあげたり…
そして、神の神聖な炎に見入り、花嫁のように燃えていたわ。
そして、このお母さんの存在が、パイに大きな影響を与えた…
信仰心はもちろん、好きになる女性のタイプも、お母さんそっくりな人を選ぶことになる…
パイの彼女アーナンディは、インドの伝統文化を重んじる、とても古風な女の子だった…
These events may have had some effect
On the man with the girl by his side
後ろ姿、パイのママにクリソツじゃん。
ちなみにポール・サイモンの「SIMON」とは、ヘブライ語で「神は耳を傾ける」という意味…
だからアーナンディは「トラは私たちの話に耳を傾けているわ」と言った…
そしてパイは、彼女と「愛の円弧」を描く…
The arc of a love affair
His hands rolling down her hair
赤い糸の腕輪のことですね。
だけど二人は超プラトニックだったわ。
パイの両手「His hands」が、彼女の髪「her hair」に「rolling down」するシーンなんてなかったでしょ?
そうだったかな?
教官、そんなシーンはありませんでしたよ。
じゃあこれは?
あっ…
あのダンスにおける「大きな円」は「森」…
そして「小さな円」は、森の中央に湧き出る泉に咲く「蓮の花」だった…
これらは何を表していたっけ?
「森」は「陰毛」で…
森の中の秘密の泉に咲く「蓮の花」は…
「女性器」です…
その通り。
パイはお母さんから「蓮の花」のシンボルを教えてもらっていたけど、その深い意味までは聞かされていなかった。
これは伝統的に女性の間で伝えられるものだったから。
そしてパイは、旅の終わりに「キリストの島」へ辿り着く。
不思議な泉の水で「死と再生」を繰り返す島だ。
これは「洗礼」と「復活」の象徴であると同時に、「女性器」と「胎内」の投影でもあった。
そんな島の森の中でパイは…
彼女から渡された糸の腕輪を「木の根元」に結び付ける…
これが意味することは?
彼女のヘアに…
両手でRolling downした…
その通り。
「ヘア」は、髪の毛とは限らない。
てか、島に上陸するや否や、貪りつくように島にかぶりついて、陰毛を口にしてたし。
さすが16歳ね。がっつきまくり。
うふふ。かわいい(笑)
そして2番の最後のフレーズ…
Love like lightning shaking till it moans
Hearts and bones
愛は、光り輝き
震えて呻き声をあげる
心臓と骨
これのことね…
その通り。
パイは島の木になる不思議な実を手に取ってみた…
その内側には光る葉脈が広がっており、まるで本当に血が通っている心臓のようだった…
そして実の中央には、人間の歯が…
それを見たパイの手は震え、呻き声をあげる…
まさに、HEARTS AND BONES…
それでは次にCメロを見てみよう。
つづく
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