バック・トゥ・ザ・フューチャー vol.1 第168話『深読み ライフ・オブ・パイ＆読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
あっ…
もしかして…
わかったの？
おそらく、これのことですよ…
『BACK TO THE FUTURE（バック・トゥ・ザ・フューチャー）』のプロム…
ダンスパーティーのシーンです…
ええーーーっ！？そうなの？岡江クン！？
そうだよ。そっくりだったでしょ『受胎告知』に。
まず背景には、光沢があってメタリックなヒダヒダの幕…
幕には光る複数の球体もついている…
その幕の前には、炎の剣を持つ赤い天使…
その天使は自由自在の車輪に乗る…
少し離れたところにいるカップルの女の方は不安な表情をしていて…
男は右手を気にしている…
そして、もうひとりの男が、カップルの男の方を突き飛ばす…
た、確かにそんな気もするけど…
詳しく教えてよ！
いいだろう。
それでは『受胎告知』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の関係について、少しだけ話そうか…
はたして…
「少し」で済むじゃろか…
済まないでしょうね。どう考えても…
お主もそう思うか？
誰でもそう思うでしょ（笑）
確かにな。ふぉーっふぉっふぉ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は大好きな映画だから、「少し」じゃなくて「たっぷり」聞きたい気もします…
そうよね。
岡江クン、もう３時過ぎだし、ここまで来たら時間とか気にしないでいいから、たっぷり話してくれない？
『受胎告知』と『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の関係について…
そこまで言うなら…
いいだろう。
やたッ！
そもそも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』という物語は、主人公マーティの視点で見れば…
「まだ夫を知らなかった《ひとりの処女》を妊娠へと導き、歴史の流れ、つまり世界を正しいものにする」
というもの…
うんうん。確かに。
そして映画のヒロイン、マーティの母であり1955年当時は処女だったロレインの視点で見れば…
「突如現れた《未来を知る男》によって、自分が将来、運命的な男の子を産むことを暗示される。しかもそれは、自分がよく知る男の子」
というもの…
そういうふうに言われると、確かに『受胎告知』ですね。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の「運命の日」である「魅惑の深海パーティー」は、まさに『受胎告知』を再現したものになっている。
だから「運命の子の受胎が確定される場面」で歌われる曲が『EARTH ANGEL』なんだね。
「地上に降りた天使」とは、美しき乙女のことでもあり、混乱するマリアを受胎に導いた天使ガブリエルのことでもあるから…
『The Annunciation』
Fra Angelico
この夜バージョンの『受胎告知』って、確かに「深海」っぽいかも。
そしてこれは「魅惑の深海パーティー」の場面だけじゃない。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』では、多くの場面で『受胎告知』が再現されている。
まだあるの？
「BTTF」は『受胎告知』によって出来ている、と言っても過言ではない。
たとえば…
1955年にタイムスリップしたマーティが、未来の父の代わりに交通事故で気を失い、未来の母ロレインの寝室で目覚めた時のシーンでも、フラ・アンジェリコの『受胎告知』は再現されている…
このシーンが？
まず最初に映し出されるロレインは、上着を羽織った姿だった…
あれって不思議な演出だと思わない？
そういえば、そうですね…
すぐに脱がせるくらいなら、最初から着せなければいいのに…
そしてロレインは、両手を胸にあてるポーズをする…
あっ！上着も手のポーズも『受胎告知』のマリアの再現だ！
その通り。
そしてまだバージンのロレインに「将来、男の子が生まれる」ということを暗示させてしまったマーティは…
「花柄の布団」にくるまっていた…
天使ガブリエルの花柄の服だわ…
なんてことなの…
しかもマーティとロレインの背後には「円形のもの」があります…
あれは聖人の頭の後ろに描かれる後光「光背」の再現…
完璧じゃん…
それだけじゃないよ。
この有名な描写も『受胎告知』を再現したものだ。
は？ マーティの下着がチラッと見えたシーンが？
これは『受胎告知』昼バージョンが元ネタ。
天使ガブリエルの下着がチラッと見えているんだよね。
えっ？
マーティと同じ薄紫の下着が見えていて…
まるでマリアがそれを凝視しているかのように見えるんだよね…
なんてこった…
おそるべし、ロバート・ゼメキスとスティーヴン・スピルバーグ…
ちなみにマーティの下着には「Calvin Klein」のロゴが書いてあった。
だけど１９５５年にはカルバン・クラインは無かったので、ロレインはそれをマーティの名前だと思い込む…
マーティがいくら「なぜ僕をカルヴァンと呼ぶ？僕の名前はマーティだ」と説明しても、フルネームが「マーティン・カルヴァン・クライン」なんだと信じていたんだよね…
「Marty」とは「Martin」の愛称、つまり「マルティン・ルター」のこと…
そして「Calvin」とは「ジャン・カルヴァン」のこと…
宗教改革の指導者で、後にプロテスタントの二大潮流「ルター派」と「カルヴァン派」の祖となった二人の名前を使ったジョーク…
真田広之が出ていたＳＦ映画『ＬＩＦＥ（ライフ）』では…
「Martin」じゃなくて「Martian（火星人）」の「Calvin（カルビン）」だったよね。
そして「息子を別の名前で呼ぶ」の元ネタは『マタイによる福音書』ですね。
1:21 彼女は男の子を産むであろう。その名をイエスと名づけなさい。彼は、おのれの民をそのもろもろの罪から救う者となるからである」
1:22 すべてこれらのことが起ったのは、主が預言者によって言われたことの成就するためである。すなわち、
1:23 「見よ、おとめがみごもって男の子を産むであろう。
その名はインマヌエルと呼ばれるであろう」
これは、「神われらと共にいます」という意味である。
その通り。
そして極めつけは、あの有名なオープニング・シーン…
こ、このシーンも『受胎告知』なんですか？
そうだよ。
まず無数の時計が映し出されるよね…
これは古典的ＳＦ映画『タイム・マシン 80万年後の世界へ』のオマージュだと聞きましたが…
だけど、こんなにたくさん時計は要らないでしょ？
しかも時刻は「８時」ではなく「７時５３分」になっている。
少しあとのシーンで「８時」に目覚ましを鳴らせるためじゃないですか？
だけどこの時刻は間違っていた。「２５分」進んでいたんだよね。
それなら別に「７時５３分」である必要はない。
「７時５０分」でもよかったはずだ…
では、どんな意味が？
『受胎告知』を再現するためだよ。
マリアが座っていた椅子の模様をね。
椅子の模様？
丸い円の中に「米」の字というか、２つの十字架「十」と「Ⅹ」がある模様…
８等分されたピザみたいな模様だ。
あの模様を時計に見立て、その中から「十」を抜くと、「４時７分」と「７時５３分」が導き出せる。
「４時７分」では「学校へ行く前の時刻」にならないから、「７時５３分」になったというわけ…
げえっ！
唯一のデジタル時計の隣にある「文字盤が金色の時計」は、あの椅子の「時計模様」とそっくりです！
でしょ？
わざわざ目立つデジタル時計の横にあれを置いたのは、そういうこと。
そして数多くある時計の中に、ひとつだけ特別な時計があった…
「丸い文字盤の中に男がいる時計」だ…
これは、後にというか、過去に起こった出来事でのドクの姿よね…
１９５５年の「魅惑の深海パーティー」のあった夜、この映画の舞台ヒル・バレーの中心部にある時計台の避雷針に雷が落ちた時の…
その通り。
そしてこれも『受胎告知』を再現したものだ…
だから１９５５年のドクは、ビデオカメラに録画されていた１９８５年の自分を見て「髪がある！」と喜んだのね…
「神」だけに…
その通り。
さて、次に映し出されるのは、かなり古い新聞の切り抜き…
その見出しには、こう書かれていた…
「BROWN MANSION DESTROYED」
「BROWN ESTATE SOLD TO DEVELOPERS」
「ブラウン・マンション」とは、ドクが昔住んでいた豪邸のことですよね。
かつてこのガレージの隣の小高い丘の上にあった町一番の豪邸…
それが「destroyed」になり、ドクは土地を手放した…
だけど「destroyed」はちょっと物騒な表現じゃない？
確か火事で焼け落ちただけのはず…
あの２つの見出しはダブルミーニングになっているんだ。
え？
この映画の舞台 HILL VALLEY（ヒル・バレー）にある RIVERSIDE STREET（リバーサイド・ストリート）沿いの、小高い丘の上にあった豪邸「BROWN MANSION」は…
ある時「DESTROY」され、その土地は他者の手に渡った…
そして二度と再建されることはなかったんだ…
知ってるわよ。だから切り抜きを飾ってるんでしょ？
その時のことを忘れないようにと…
まだ気付かない？
「MANSION」の中には「何」があるかな？
マンションの中？
あっ…
MAN… SION…
つまり、シオンの丘です…
え？
「ZION」の文字が隠された「ARIZONA」と同じトリックだ。
映画に「アリゾナ」が出て来たら、まずこれだと思っていい。
コーエン兄弟の『RAISING ARIZONA（赤ちゃん泥棒）』とか…
キャリー・フィッシャーのお母さんデビー・レイノルズ演じる未亡人が荒野のアリゾナを旅し、子供の「新しい父」を見つける物語『The Second Time Around（今度こそ）』とか…
つまり「DESTROYED」され、土地を手放すことになった「BROWN MANSION」とは…
エルサレム神殿…
『エルサレム神殿の崩壊』
デヴィッド・ロバーツ
そういうこと。
だからここで「偉大な先祖たちの肖像画」と共に「ＪＶＣ」という文字が映る。
「偉大な先祖たちの肖像画」は「偉大な預言者たち」のことですよね…
しかし「ＪＶＣ」は、家電メーカーのブランド名…
特に意味があるとは思えないのですが…
この映画における「ＪＶＣ」は「Japan Victor Company（ジャパン・ビクター・カンパニー）」を意味しない…
え？
「ＪＶＣ」とは「聖書」のことだ。
ど、どういうことですか？
イングランド王ジェームズ１世の命によって１６１１年に刊行された『欽定訳聖書』…
その美しい文体から、４００年たった今でも世界中の人々に愛読されている『King James Version』…
通称「ＫＪＶ」…
それじゃあ「ＪＶＣ」は「ＫＪＶ」の駄洒落ってこと？
そうだよ。
ていうか、なんでこのタイミングで聖書が出てくるの？
だって「受胎告知」は、マリアが聖書を読んでいた時に起きたことだから。
なるほど…
あの「ＪＶＣ」の中には…
未来に起きる出来事、つまり「預言」の数々がレコード（記録）されていた…
マーティから「ＪＶＣ」を見せられたドクは、手乗りサイズの物体「ＪＶＣ」の中に「未来に起きる出来事」がレコードされていることを知って衝撃を受けたんだ…
しかも１９８５年には、これが一般家庭に普及しているという…
１９５５年当時はまだビデオテープは存在せず、レコードされたものを見るには、映画館へ行くしかなかったからね…
つまり、家にビデオが無かった１９５５年とは…
グーテンベルクの活版印刷で聖書が家庭に行き届くようになる以前の時代みたいなもの…
その通り。
そして「ＪＶＣの中の預言」通りに、ドクは後にタイムマシンを完成させた。
預言が… 成就する…
さて、「ＪＶＣ」に偽装された「ＫＪＶ（欽定訳聖書）」が映し出された後は、興味深い描写が連続する。
まずは「コーヒーメーカー」だ。
下で受けるポットが無いので、上から注がれたお湯が、ホットプレートでさらに熱せられて、一瞬で蒸発していましたね…
なぜ下にポットが無かったのか、わかるかな？
え？ あれにも何か意味があるのですか？
これだよ。
神から与えられた杖の力で海を割り、剥き出しになった海底を歩いて渡ったモーセたちの再現…
あっ、そうか…
だから隣にはミルクと蜂蜜が…
そう。モーセ率いるイスラエルの民の旅のゴールは「乳と蜜の流れる地」だ。
そして次に映し出されるのは「テレビのニュース番組」…
たしか「消えたプルトニウムは盗まれたのか？」というニュースだったわ…
北アフリカのテロリストの関与が疑われているって…
こ、これは… もしや…
何？
「失われたアーク（聖櫃）」のことでは…
インディ・ジョーンズの？
その通り。
十戒の石板を収めた「契約の箱」は、ある時を境に聖書の中で言及されなくなる…
詳しいことはわからないけど、どうやら異教徒に奪われたか、もしくはどこかに隠されたようなんだよね…
だから「The Lost Ark」と呼ばれる…
『インディ・ジョーンズ』シリーズの第１作目『レイダース 失われたアーク』に登場する、恐ろしい宝物のことね…
箱を開けたものは、不思議な炎で焼き尽くされてしまった…
この映画の描写のように「契約の箱」と「プルトニウムの箱」はよく似てる…
核エネルギーは「神の炎」と呼ばれていたし…
付属している２本の棒を絶対に抜いてはいけない「契約の箱」のように、「プルトニウムの箱」も、棒を抜く際は死の危険が伴う…
そういえば、フラ・アンジェリコの『受胎告知』に描かれていた、楽園の門番である「天使ケルビム」は、契約の箱のボディガードでもあったわね…
そして次に映し出されるのは「トースター」だ…
もくもくと煙を上げながら、黒焦げの「２枚のトースト」が出たり入ったりを繰り返す…
これは一目瞭然…
立ち込める雲の中にいる神から授かった「２枚組の十戒の石板」です…
そして次は「缶詰」が映し出される…
ドクの飼っている犬アインシュタインのためのものだ…
マシンによって全自動で開けられて、上からドボドボ落ちてくるのよね…
しかも数日分たまってて、床もぐちゃぐちゃになってたわ…
なんであんな汚い描写にしたのかしら？
「上からドッグフードが落ちてくる」ことにも「床がぐちゃぐちゃになっていた」ことにも意味がある。
え？
よく考えてみて…
モーセ五書の中にも「空から降ってくるＤＯＧのＦＯＯＤ」が出てくるよね…
ＤＯＧのＦＯＯＤ？
ＤＯＧはＧＯＤの駄洒落じゃぞ。
空から降ってくる神の食べ物？
もしかして、マナ… かな…
その通り。
荒野で餓死しそうだったイスラエルの民を救うため、神は「マナ」と呼ばれる食べ物を天から降らせた…
朝になると地面にマナが落ちていて、それを人々は食べて飢えをしのいだとされる…
だからドクの犬アインシュタインの餌は、空から降ってくるわけだね。
「床がぐちゃぐちゃ」に汚れていたのは？
それは『受胎告知』を再現するため。
アンジェリコの描いたマリアの部屋の床は、泥のようなものでぐちゃぐちゃに汚れているように見える…
どんだけ？
あれ？
ここにある時計だけ「７時５３分」ではないですね…
そう。この時計だけ「３時１５分」になっている。
この時刻が意味するものは、説明しなくていいだろう…
イエス・キリストが十字架で絶命した時刻「３時過ぎ」…
でもなぜ、ここだけ？
「ＥＩＮＳＴＥＩＮ」だからだよ。
は？
「ＥＩＮＳＴＥＩＮ」とはドイツ語で「１つの石」という意味…
聖書の中でイエスは自分のことを、こう喩えている…
「家造りの大工らが捨てた石が、隅のかしら石（要石）となった」
つまり、ユダヤ人たちが価値が無いとして石のように捨てた自分こそが、この世界にとって最も重要な存在である、ということだ。
そしてこれは、世界を作った神の手によって捨てられた、つまり生贄になる自分のことでもある。
なるほど…
「ＤＯＧのＥＩＮＳＴＥＩＮ」に、そんな意味が隠されていたとは…
徹底して作りこまれているわね…
まだまだこんなもんじゃないよ。
ここから映画の主人公マーティが登場する。
マーティの発する言葉や行動は、完璧に『受胎告知』の再現になっているんだ…
つづく
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