深読み バック・トゥ・ザ・フューチャーvol.9(『深読み LIFE OF PI&読み書け』第176話)
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2019年9月19日
スナックふかよみ
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『It Happened In Brooklyn(邦題:下町天国)』
確かに…
登場人物もストーリーも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』そっくりだったかも…
フランク・シナトラ演じる主人公ダニーが「マーティ」で、変わり者の天才老人ニックが「ドク」だわ…
その通り。
故郷へ帰って来たのに、なぜか知り合いが誰もいないダニーを、唯一「覚えていた」人物ニック…
故郷なのに行くところがないダニーを、ニックは自分の「家」である「学校の用務員部屋」に泊めてあげた…
そして、これからどうすればいいのか悩んでいるダニーの支えとなり、彼の「ミッション」を実現させるために尽力する…
教育者を志していたニックは、さまざまな言語を操り、古典や芸術に精通し、歌も楽器も何でも出来る天才老人だ…
しかも「ドク・ブラウン」と言ってましたよ…
え? まさか…
映画の1時間32分30秒あたりで…
この動画では1分31秒からです。
なにこれ…
言ってるわ… 確かに「ドク・ブラウン」と…
その通り。
物語のキーワードでもある「dark brown」が「Doc Brown」に聞こえるんだよね。
「ドク・ブラウン」という名は、ここから取られたに違いない。
もう、そうとしか思えない…
ちなみにドクは、何かあると偉大な御先祖様の肖像画に話しかけていた。
ニックにも同じクセがあったよね。
御先祖様じゃなくて、理想の師と仰ぐ「チップス先生」だったけど。
うわあ、確かそうだったわ…
ところでチップス先生って、どんな人だったっけ?
ニックの大切な写真では、白髪でモジャモジャヘアーの老人に見えたけど…
ニックが部屋に飾っていたチップス先生の写真は、これだ。
ドクがビデオを見るシーンだ!
笑えるよね(笑)
そして、ピーター・ローフォード演じるジェイミーは、マーティの未来の父「ジョージ」だわ。
超がつくほどシャイで、今まで女性と付き合ったことがなくて…
誰かにバカにされても、何も言い返せない…
ジェイミーは作曲の才能があり、ジョージはSF小説を書く才能があった。
だけど両者とも、自分に自信がまったく無い。
そして、キャスリン・グレイソン演じるヒロインのアンが「ロレイン」です。
主人公ダニーのミッションは、ブルックリンでジェイミーとアンに恋をさせ、ふたりを結婚させることでした。
なのにアンはダニーを好きになってしまう…
そして天才老人ニックは、それを何とか修正しようと尽力する…
口下手なジェイミーのため、ダニーは彼の曲に歌詞をつけた。
「TIME AFTER TIME」というフレーズで始まる、たっぷりと愛のこもった歌詞をね。
BTTFでもそれは再現された。
なんと…
アンとロレインの髪型もよく似てるわ…
自分に自信を持つことが出来た「未来の夫」とのキスシーンもそっくりだった…
そして両作品において、ヒロインは主人公ともキスをする…
本来「してはいけなかった」キスを…
だからどちらも顔が隠されたアングルになっていて、唇の接触が見えなくなっていた…
どんだけ…
・・・・・
「してやったり」じゃな。
ロバート・ゼメキス、ボブ・ゲイル、そしてスティーヴン・スピルバーグのニヤニヤ顔が目に浮かぶわい。
ですね。
そして…
冒頭に登場して、すぐに離れ離れになってしまった金髪のナースは、1985年におけるマーティの恋人「ジェニファー」です…
どちらの映画でも登場するのは最初だけ。そして主人公は、ミッション達成の後、彼女のもとへ向かう…
あの髪型…
完璧に「再現」されてるね。
そういえば、あの金髪ナースが登場するシーン…
なんか、すっごく違和感があった…
違和感ですか?
うん…
なんか変なのよね、彼女だけ…
ダニーは部屋から出て、いろんな場所で、いろんな人と会話を交わしてたでしょ?
彼女もダニーの行くところについてくるんだけど、彼女は誰とも会話しないの…
そうでしたっけ?
なんだか誰も彼女の存在に気づいてないというか…
ダニー以外は彼女のことが見えていないみたいなのよね…
あんなに目立つ風貌なのに…
ジェイミーの祖父である公爵と喋っていませんでしたっけ?
彼女が「ブルックリン」と言ったから、公爵はダニーに「君はブルックリンから来たのか?」と聞いていたような…
ううん。彼女はダニー以外の誰とも会話していなかったわ…
その通り。
「ダニー、彼女、公爵」のスリーショットのシーンでも、彼女と公爵は一言も言葉を交わしていない。
まず最初にテラスでダニーと彼女が一緒にいた。
彼女が「ブルックリン」と言うと、それを聞きつけた公爵が近付いてくる。
そして公爵は、一度だけ彼女にチラッと視線を向けただけで、後はずっとダニーと話していたんだ。
遅刻切符を渡す時だけジェニファーに視線を向け、後はずっと彼女を無視してマーティと話していたストリックランド先生と同じようにね…
ああ、髪型…
というか、肌ね…
ちなみに熱血教師ストリックランド先生の「鼻」は、熱血教師になりたかったニックの「鼻」が元ネタだ。
ニック役のジミー・デュランテは「大きな鼻」がトレードマークだから。
うひゃあ…
だけどなぜ公爵は金髪ナースに話しかけなかったのかしら?
「ブルックリン?私のママもブルックリン出身だ!」って興奮するくらいなら、「ブルックリン出身の美女」である彼女に話しかければいいのに。
そうしなかったことには理由がある。
理由?
あの冒頭シーンの「元ネタ」では…
「公爵」が「金髪美女」に話しかけることはない…
は? あのシーンにも元ネタがあるんですか?
そこでは、彼女は「天使」の姿をしている…
男装にも女装にもとれる服装で…
そして、その天使の姿が見え、会話を交わすのは…
頭に「白い布」を巻いて、部屋に籠っていた人物だけ…
ええっ!?
またフラ・アンジェリコの『受胎告知』ですか!?
Fra Angelico『The Annunciation』
そう。またフラ・アンジェリコの『受胎告知』だ。
も、もしかして…
Frank Sinatraだから、Fra Angelico?
フラ・アンジェリコの「フラ」は、フランクの「フラ」なの?
「Fra Angelico」はペンネームで、元々の名前は「Guido di Pietro」でした…
絵描きになってから「Fra Giovanni Angelico」と名乗るようになったのです…
これは英語にすると「Angelic Brother John」、つまり「天使の修道士ヨハネ」という意味…
いっぽうフランク・シナトラの「Frank」の原型は「Francis」、つまり「聖フランチェスコ」のことですね…
フラ・アンジェリコの「フラ」は「ブラザー」って意味だったのか…
フラ・アンジェリコの『受胎告知』夜バージョンでは、マリアの膝の上に、ページの開かれた聖書が置かれている…
そして『It happened in Brooklyn』では、フランク・シナトラ演じるダニーが膝元に写真を置いていた…
しかも折り畳み式の写真を…
そ、それでは『It happened in Brooklyn』も「受胎告知」の物語なのですか?
その通り。
ここだけではなく他のシーンでも「受胎告知の有名絵画」が再現されている。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、これを踏襲していたんだ。
ホントに「そのもの」なのね…
そういえば…
『It happened in Brooklyn』のミッション「将来が不安な孫をブルックリンの女と結婚させる」は、そのまま「公爵の両親の話」と重なります…
その後に描かれるブルックリンでのドラマが、まるで数十年前の公爵の両親の話みたいに…
そうなんだよ。
だから『It happened in Brooklyn』は、あたかもタイムスリップしたかのように描かれているんだね。
ダニーが「故郷」へ戻って来たのに、なぜか誰もダニーのことを知らなかったのは、そういう理由だ。
1955年のヒル・バレーの住人は、誰もマーティのことを知らなかった…
なぜなら、当時マーティはまだ生まれていないから…
まさにBTTFの原型だわ…
それだけじゃない。
BTTFでは、ミッションをコンプリートさせるために『Johnny B. Goode』、つまり「ヨハネ」の存在が必要だったよね。
これも『It happened in Brooklyn』を踏襲したものなんだ。
そうなの?
フランク・シナトラ演じるダニーは、来たるべき主の道を整える「前駆ヨハネ」の役割。
だから映画の中でダニーが登場する際には、「ヨハネ」の名がキーワードとして頻出する。
「ヨハン」「ジョン」「ジョニー」「ジョヴァンニ」としてね。
だから、いろんな言語で歌が歌われたんだ…
英語、ドイツ語、フランス語、ロシア語、そしてイタリア語…
そういうこと。
すべては福音書に書かれている「受胎告知」のストーリーを完璧に再現するため。
「受胎告知」はヨハネについての言及で締め括られていた。
「救世主キリストの誕生」は、ヨハネによる洗礼で完全なものになるからね。
マジですか… 信じられない…
では簡単に解説するとしようか。
BTTFの原型ともいえる『It happened in Brooklyn』に仕掛けられたトリックの数々を…
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『It Happened In Brooklyn』
つづく
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