「鏡に映る男」Man in the Mirror(マン・イン・ザ・ミラー)後篇 ~『深読み LIFE OF PI(ライフ・オブ・パイ)& 読みたいことを、書けばいい。』
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2019年9月19日
スナックふかよみ
実は、そうじゃないんだよね…
『Willow weep for me』は恋愛の歌ではないし、ヤナギとは何の関係もないんだ...
なに言ってんの?
だってタイトルが「柳よ、アタシのために泣いて頂戴」なのよ。
そもそも《willow》は《柳》ではない…
は?
ごめんなさいね。
あたしが VERSE を省いて歌っちゃったから…
ヴァース?
歌の本編に入る前の導入部のこと?
そう。1930年代40年代に作られたジャズのスタンダードナンバーと呼ばれる曲には、VERSE がついているものが多い。
VERSE の役割は、大きく分けて2つ。
1つは、歌の世界観にスムーズに入って行けるような小芝居みたいなもの…
つまり、主人公の置かれている状況を説明するものだね。
そしてもう1つは、歌の本編で使われるキーワード的な比喩が何を意味しているのかを伝えるもの…
いわば、タネ明かしというかネタバレみたいなものだ。
『Willow weep for me』は、どちらなのでしょうか?
もちろん後者だよ。
今から流す VERSE のついたフルバージョンをよく聴いてみてほしい。
この歌における《willow(柳)》が何を意味しているのか、一目瞭然だから…
Oh Lord, why did you send the darkness to me?
Are the shadows forever to be?
Where's the light I'm longing to see?
Oh Lord, once we met by the old willow tree
Now you've gone and left nothing to me
Nothing but a sweet memory
主よ、なぜ私を暗闇の中に?
この闇は永遠に続くのでしょうか?
私が切望していた光はどこへ?
主よ、私たちは柳の木の傍らに共にありました
だけど今、あなたは去ってしまった
私の中に甘い記憶だけを残して…
何コレ?
柳の木で会っていた《あなた》は、恋人じゃないの?
主によってもたらされる暗闇…
主と最後に会っていた場所は《柳の木》のそば…
そこから去ってしまった主…
これは、つまり…
昼なのに夜のように暗くなった空…
ゴルゴダの丘に立てられた十字架…
そしてその上で無惨にも処刑されたイエス・キリスト…
『十字架のキリスト』エル・グレコ
つまり Willow(柳)とは Lord(主)のこと…
willow tree(柳の木)とは、十字架のことだったんだ…
そういえば2番で、去ってしまった愛する人は《summer》のようだって歌ってるじゃん…
『Man in the Mirror』に突然出てくる《summer》は、これが元ネタだったのね…
《the wind》についても歌われています…
Whisper to the wind
And say that love has sinned to leave my heart breakin'
答えは風の中でささやかれる
人の原罪を取り除くために愛の人は罰せられた
『Man in the Mirror』で突然《willow》が出てくるのは、隠れゴスペル・ソング『Willow weep for me』を想起させるため…
和歌で言うところの《本歌取り》だったというわけだ。
だから《柳の引用》に続くサビでは、こんな聖歌隊のコーラスが入るのよね…
I'm starting with the man in the mirror
(Who?)
I'm asking him to change his ways
(Who?)
なるほど…
イエス・キリストが投影されている「the man in the mirror」に対し「それは誰のこと?」と煽ってるわけですね…
そういえばさ…
《mirror》と《willow》って似てない?
あ、確かに…
そして何度かサビが繰り返され、最後にキメのフレーズが登場する。
この歌のオチと言ってもいいキメ台詞だ…
If you wanna make the world a better place
Take a look at yourself and then make the change
You gotta get it right, while you got the time
'Cause when you close your heart (You can't)
Then you close your mind (Close your, your mind!)
なぜなら、あなたが心を閉ざした時
(そんなことは出来ない!)
あなたの魂も閉ざされてしまうから
(魂を閉じこめてしまうことは!)
ですよね?
これのどこがオチなのですか?
定番中の定番でしょ?
《close》と《cross》の駄洒落は…
あっ!
トム・ウェイツの『CLOSING TIME』や、その元ネタになったフランク・シナトラの『One for my Baby(and One More for the Road)』と一緒。
close(閉じる)と cross(十字架)のダジャレなんだよね。
やられたわ…
今まで全く気がつかなかった…
ここからマイケル・ジャクソンと聖歌隊のコール・アンド・レスポンスが展開される。
そして、エクスタシー(法悦)状態に入ったマイケルは、ある言葉を何度も繰り返すんだ。
「Shamone!Shamone!」と…
しゃもん?
この「Shamone!」連呼も、『Man in the Mirror』の元ネタになった歌へのオマージュね。
元ネタへのオマージュ? 今度は何の歌?
その歌とは…
ゴスペル・ソウル・グループの大御所 The Staple Singers(ザ・ステイプル・シンガーズ)の代表曲『I'll Take You There』…
私はあなたをそこへ連れてゆく?
聞いたことありません。どんな曲なのですか?
これだよ。
確かに『Man in the Mirror』と同じようなメッセージの歌ね…
だけど「Shamone!」なんて言ってないわ。
レコード録音バージョンでは言わないんだけど、ライブでは連呼するんだよね。
リードボーカルのメイヴィス・ステイプルは「Come on!」の部分を「Shamone!」と歌うんだ…
ホントだ…
てかシャモンって何? 沙門?
Shamone はメイヴィス・ステイプルの造語…
元々は Ja'mone だったらしいから、おそらく「Jah, come on」が短縮されたものだろうね。
つまり「主よ、来たりませ」という意味だ。
なるほど。それならマイケルが法悦状態で連呼するのも納得です。
『マン・イン・ザ・ミラー』ってゴスペルっぽい曲調だから、何となくそうなんだろうなって思ってたけど、やっぱりそういうことだったのね。
歌詞に出てくる謎の言葉の意味もわかったし、なんかスッキリしたわ。
まだ、残ってると思います…
は?
『Man in the Mirror』には…
まだ隠された秘密が…
秘密? 何ですか、それ?
いわゆるひとつのコレですね。じゃん!
しげしげさん…
それ、逆さまのやつですよ。「こじつけ」じゃなくて「けつじこ」バージョンのやつ。
うふふ(笑)
実は「Man in the Mirror」って…
「左右が逆さまに映るMAN」って意味でもあるのよね…
え?
どだっ!
《MAN》を鏡のように左右反対にすると《NAM》になる…
なむ?
仏教用語にもある《南無》のことだ。
南無阿弥陀仏や南無妙法蓮華経の南無。
つまり…
I'm startin' with the Man in the Mirror
とは…
南無から始めよう
という意味にもなっている(笑)
ええっ!? 何ですかそれ?
南無とは、《帰命・帰依》を意味するサンスクリット語《namaḥ》(ナマハ)を漢字にしたもの。
「おまかせします」とか「従います・敬います」とか「そのとおりです」という意味だ。
それって、AMEN(アーメン)と同じじゃん…
その通り。
そして《南無》は、英語では《NAM》とか《NAMU》と表記される。
これが「Man in the Mirror」というフレーズに隠されていた、もうひとつの秘密…
ちょ、ちょっと待ってよ…
いくらなんでも、これは《こじつけ》じゃないの?
ねえ? アンタもそう思うでしょ?
うーん。どうでしょう。
んもう!このジャイアンツ、全然アテにならないわ!
絶対こじつけよ! こ・じ・つ・け!
これは決して《こじつけ》ではない…
「キーワードを鏡のように左右反対に読む」というのは…
作詞の世界では、よくあるトリックなんだよね…
マジで?
『ライフ・オブ・パイ』の元ネタにもなった《ある有名な曲》にも、このトリックが使われています…
難解な歌詞を読み解く鍵が、歌のキーワードを左右反対に読むというものなのです…
『ライフ・オブ・パイ』の元ネタになった歌?
『SOUND OF SILENCE』とか『ALL ALONG THE WATCHTOWER』とか『LIFE ON MARS?』とかじゃなくて?
まだ他にもあるの?
@スナックKEMPY!
スースー... スースー
そろそろ、よね…
良ちゃんが夢を見る時間は…
ムニャムニャ… ムニャムニャ…
ほら始まった(笑)
今度はどんな夢かしら。
ヒドイ... ヒロクン…
ウワキスルナンテ…
グスン… グスン…
あら...
浮気された夢?
ヒドイ... ヒドスギル...
ジョアンナ... ルイ...
フタリモ...
二人も?
じゃあ良ちゃん、三股かけられたってこと?
グスン...グスン...
......
...
.
・・・・・
なんで黙ってるわけ?
すみませんでした…
夢だった本の出版のために、編集者と打ち合わせしてたんじゃなかったの?
はい…
だから、その打ち合わせを…
なんでキャバクラなのよ?
打ち合わせなんて喫茶店とかで出来るでしょ?
わたしもそう言いました...
しかし昨日会った編集者が、どうしてもキャバクラじゃないとダメだと言うので…
仕方なく…
うそ!そんなの絶対に嘘!
じゃあなんでキャバ嬢の名刺を大切に持ってたのよ!
また行くつもりだったんでしょ!
いえ、そういうわけでは…
もらったものをすぐに捨てるのも失礼かなと思って…
そんな言い訳、聞きたくない!
しかも2枚も…
なんなの? このジョアンナとかルイとかいう女…
ちょーキモい!
この VISIONS というお店、ルーマニアン・パブなんです…
ジョハンナとルイは、夢を叶えるために遠い日本まで来て、とても苦労してて…
そんなこと聞いてないでしょ!
何が「彼女たち苦労してて」よ!
んもう!ホント悔しい!
アタシが一生懸命稼いだお金で、ヒロくんがキャバクラ行ってたなんて…
ジョアンナとルイの苦労は気になるのに、アタシの苦労はこれっぽっちも気にならないってわけ?
そんなことは… 決して…
グスン... グスン…
泣かないでください… もう二度と行きませんから…
じゃあ…
名刺を破り捨てて…
は?
今すぐここで名刺を破り捨ててって言ってるの!
この世から跡形もなくなるまで!
は、はい…
ビリビリ... ビリビリ...
これで許してもらえますか?
うん…
だけどね…
アタシの心の傷跡は、一生消えることはないって覚えといて…
・・・・・
きっとジョアンナとルイの影は、一生アタシの脳裏から離れないのよ…
消したくても消えない、焼き印のように…
・・・・・
アタシ、歌う…
え?
こんなつらい気持ち…
歌わないと、やってられないでしょ!
ヒロクンノ… バカ...
グスン... グスン...
可哀想な良ちゃん…
口には出さないけど、いっぱい辛い想いをしてたのね…
スースー... スースー...
つづく
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