栗麻呂ノ暗号第5話a

<ノーランと宮崎駿>最終章⑤「take me home...」

これまでのあらすじ

1989年のロンドンから現代にタイムスリップして来た大学生クリストファー(19歳:以下「過去クリ」)は、自分が未来の世界で映画監督となり、自身の作品において「俺のジブリ美術館計画」をはじめとする3つの計画を実行していることを知らされる。それらの計画は、深い宮崎駿愛と、彼自身の目標でもあったジブリスタジオへの思いを込めたメッセージでもあったのだ。しかし、壮大すぎた計画は彼の作品に複雑で難解というイメージを与え、興行収入は減少の一途に。過去クリは「俺のジブリ美術館計画」の封印と、込み入ってない映画作りを心がけることを決意し、1989年へと帰っていった。その直後、元の時代へと帰る過去クリを止めようと、現在世界のクリストファーが現れる。1989年のロンドンへ戻るはずだった過去クリは、時空の歪みによって、日本の山奥に飛ばされたのだ。そしてその場所で、ある親切な人物に窮地を救われる。その人物こそ、後に世界的巨匠となる宮崎駿。しかしその出会いによって、歴史は変わってしまった。さらに悪い方へと…

前回はコチラ!

いちいち言わなくてもわかると思うけど念のために言っておくね。本シリーズはフィクション、つまり、おかえもんの妄想です。登場人物の発言は、実在の人物・団体の事実を表してるわけではありません。エンタメ作品として、突っ込み入れながら、笑い流してください。

せやけど妄想や偶然とは言い切れんようなことも仰山あったで…

信じるも信じないも、あなた次第や…

では、第5話「take me home...」のはじまりはじまり!



1989年・夏・信州

< とある山荘での宴 >


うむ…

意外とイケますね…

クリス君が大瓶1本分のビールを入れた時は、どうなることかと思いましたよ…

でも、タレの余計な甘味がビールのほろ苦さで取れて、肉本来の旨味が引き立てられたように感じます…

すみませんでした…

入れれば入れるほど美味しくなるのかと…

『死の翼アルバトロス』で次元がやってるのを見て、そう思い込んでいたんです…

スキヤキといえば、あれしか見たことなかったので…

いいんですよ、気にしないでください。

思いのほかイケてますから。

試しに北さんたちB班のスキヤキと食べ比べてみたらいいです。

はい。ではお言葉に甘えて…

こらこら、肉ばかり取らないでくれよ…

何事もバランスが大切なんだ。好きなものばかり取ればいいってもんじゃない。

北さんはスキヤキのバランスにもうるさいんだな。

うわっはっは!

ところでクリス君…

君のその恰好は『魔女の宅急便』のトンボのコスプレだよね?

い、いえ…

あの…その…

こ、これはウォーリーです!

『ウォーリーをさがせ!』のウォーリー!

またまた…

だってその黄色い肩掛けセーターといい、前髪を右側にかき上げた髪型といい、誰がどう見たってトンボにしか見えないよ。


いやあ…その…

バレましたか。てへ。

私もね、最初あなたが見えた時に、「ああ、トンボのコスプレした人ですか…」って思いました。

「こんなところまで追いかけて来るとは厄介なファンだな」ってね…

もし少しでも鬱陶しい様子だったら、集落の駐在所まで乗せていって、すぐに家に帰るよう諭そうと思っていたんですよ。

でもあなたは私のことに気付かなかった。

だから安心したんです。

そうだったんですか…

大ファンなのに本人を目の前にして気が付かないなんて、ほんと恥ずかしい限りです…

そんなものですよ。

私だってヨーロッパの片田舎でタルコフスキーと遭遇しても、気が付かないでしょう。

「苦み走ってイイ顔したヒゲオヤジだなあ…」って思うくらいです(笑)

ははは…そうでしょうね…

欧米ならどの町内にも一人はいる顔です…

ん?

ク、クリス君!

君はもう大瓶4本あけてしまったのか!?

え?

あれ…?

ホントだ…

でも、1本はスキヤキに入れちゃいましたから、飲んだのは3本です…

3本でも十分凄い…

さすがビール好きの英国人だけあるな。たったあれだけの時間で、もう三本もあけてしまうとは…

いやあ…

なんだか恥ずかしさを紛らわすためにグイグイ飲んじゃったみたいです(笑)

赤い星が見事に4つ並んで撃墜王みたいですね。

まさにレッド・バロンだ。

レッド・バロン!

第一次大戦期に人気実力とも世界No.1だった飛行機乗り、リヒトホーフェンのことですね!

紅く塗られた愛機「アルバトロス D.III」は、紅い悪魔として恐れられたんです!


マンフレート・フォン・リヒトホーフェン
(1892-1918)

ドイツ女は皆、彼に恋したらしいね。

彼のブロマイドは争奪戦だったそうだ。まさに国民的アイドルですよ。

でも彼が撃墜された時、遺品となった財布の中から、一枚の写真が出て来たそうです…

一人の美しい少女が写っていた写真が…

それ、いい話ですね。

紅い悪魔と少女の淡い恋物語ですか…

私はレッド・バロンよりも、イタリアのフルコ8世だなあ。

彼は本物の貴族にもかかわらず、イタリア空軍のエースパイロットだった。


ルッフォ・ディ・カラブリア公フルコ8世
(1884-1946)

わお!

アドリア海の黒い髑髏、フルコ8世!

彼の娘は、ベルギー国王レオポルト3世の息子であるリエージュ公爵アルベール *¹ に嫁ぎました。

(*1:1989年当時。1993~2013年ベルギー国王。現国王フィリップの父。つまりフルコ8世は、現ベルギー国王の祖父にあたる)

そんじょそこらの貴族じゃなくて、大物貴族だな~

でも撃墜王と言えば、やっぱりエーリヒ・ハルトマンじゃあないですか?

352機は歴代最多記録ですよ。金田・王・張本クラスです。

Erich Alfred "Bubi" Hartmann
(1922-1993)

第二次大戦期No.1の飛行機乗りですね。

童顔ゆえに「Bubi」、英語でいうところの「ベイビー」と呼ばれていました。

彼はドイツ人医師の父と飛行機乗りの母のもとで育ちました。この時代に飛行機を乗り回していたような母親ですから、さぞかし彼に自由と誇り高き精神を植え付けたのでしょう。そのおかげもあって彼は、当時の飛行機乗りたちの中で、最も騎士道精神にあふれた人物として敵味方問わず尊敬されていました。決して記録狙いのワンマンプレーではないんですね。1405回の出撃で、一度もチームの僚友を戦死させていないのですから、その美学は本物です。

そして、妻ウルスラとの純愛物語も有名ですね。

そういえば『魔女の宅急便』にもウルスラという女性が出てきましたね。

ちなみにウルスラの英語読みは「アーシュラ」、『ゲド戦記』の作者アーシュラ・K・ル=グウィンが有名です。

あれ?

これは偶然なんでしょうか?

はっはっは。

御存じかもしれませんが、私は彼女の作品の大ファンでね。数年前に『ゲド戦記』映画化の許可を頂こうと手紙を出したこともあるんですよ。

でも、残念ながら、良い返事はもらえなかったのですがね…

でも私は諦めてませんよ。いつか必ず映画化してみせます。

まあ、そんなことはいいとして…

せっかく英国人のクリス君がいるというのに、イギリス空軍の話がまったく出て来ないじゃないか!

メッサーシュミットよりもスピットファイアでしょう(笑)

わはは!確かにそうだ!

イギリス空軍RAFの撃墜王といえばジョニー・ジョンソンだろう!

James Edgar "Johnnie" Johnson
(1915-2001)

確かに彼は英国の英雄です。

でもボクの中でRAF一番の飛行機乗りといったら、この人しかいません…

ロアルド・ダールですか?

Roald Dahl
(1916-1990)

『南から来た男』など、彼の小説は好きですけどね…

あと、『チャーリーとチョコレート工場』や『ビッグ・フレンド・ジャイアント』などの児童文学も子供の頃は大好きでした。

でもやっぱり…

英国空軍史上最高にカッコいい男は、アドルフ・マランです!

Adolf Gysbert Malan
(1910-1963)

ああ、やっぱりそうでしたか。

アドルフ・マラン、またの名をセイラー・マラン…

船乗りから飛行機乗りになり、英雄となった男…

彼が唱えた「空戦十則」は、全てのイギリス空軍部隊に配布され、空の男たちのバイブルとなったのだったね…

はい。

彼は1940年5月26日~6月4日に行われたダンケルクの大撤退作戦「ダイナモ作戦」が初戦闘で、ここでドイツ戦闘機を5機も撃墜して華々しくデビューしました。ダンケルク海岸から英仏海峡を渡る兵士たちにとって、本当に心強い存在だったそうです。

そして、セイラー・マランほど気持ちのいい男はいなかった…って祖父がいつも言ってました。

それは、海と空の両方が奴の心を洗うからだって…

だからセイラー・マランは船乗りよりも勇敢で、陸の飛行機乗りより誇り高いんだって…


ボク、スタジオジブリって…

セイラー・マランに似てると思うんです。

どの映画制作会社よりも勇敢で…

どのアニメ制作スタジオより誇り高い…


そうだ!言われるまでもねえ!

それが俺たちジブラーってもんよ!

彼らの一番大事なものは、金でも女でもない…

名誉だって…

そうだ!その通りだ!

兄ちゃん いいぞ!

ジブラー万歳!!!

とんでもねえ小僧だぜ…

だけどセイラー・マランの本当に偉大なところは、戦争が終わっての退役後にあります。

彼は故郷の南アフリカへ戻ると、反アパルトヘイト運動に身を投じたのです。

南アの退役軍人やその家族たちを束ね、ネルソン・マンデラら黒人組織の指導者とも共同戦線を張り、人種差別撤廃を訴えました。

しかし志半ばで病に倒れ、53歳の若さで亡くなってしまうのですが、南ア政府は彼のカリスマ性と影響力を死後も恐れ、その功績を消し去ることに必死になったそうです。

でも、人々の心の中にセイラー・マランは生き続け、その後も闘争の火は消えることなく、ついにアパルトヘイトは終焉の日を迎えました。

彼こそが、真の英雄と呼ぶにふさわしい男だと、ボクは思います…

(動画の前半部はエースパイロットとしての半生、9分以降は人種差別と闘う半生のダイジェスト)

か、感動したァ!

カリスマ死すとも…ジブリは死せず!

勝手に殺さないでください…

クリス君!

君は本当にイイ人だなあ!

この素晴らしい出会いに感謝です!

そしてこの喜びを分かち合おう!

一緒に歌おうじゃないか!

は、はい!



とっとろ とっと~ろ~ ♪

とっとろ とっと~ろ~ ♪


クリス君、なかなかやるじゃないですか!

はい!

皆さんの演奏でこの歌を歌えるなんて…

ほとんど天国にいるみたいです!

あの…

お礼と言っては何ですが…

ボクから皆さんへ1曲プレゼントさせてください。

おお!

クリス君からのプレゼント!?

はい!

北さん、リュート借りてもいいですか?

いいとも!

あと…

栓抜き借ります!

栓抜き?

うん…

ちょうどいい…

いったい何を…?

それでは…

今日の感謝の意を込めて…

ボクからジブリの皆さんへ捧げます…

聴いてください…

『take me home , country road』 ...



ーー第6話へ続くーー


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