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カズオ・イシグロ『夜想曲集』徹底解説

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#歴史

「ナイトメアー・ビフォア・クリスマス」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第65話

しかし驚いたな。 イシグロが短編『降っても晴れても』の中に潜ませた『スペイン革のブーツ』に、あんな意味があったなんて… しかもそれだけではなく、松本隆のパクリ疑惑まで晴らすとは… お前ら大丈夫か? あくまでオッサンの「推測」に過ぎんハナシやで? このシリーズ全般に言えることやけど、何でも鵜吞みにしたらアカン。 どの口が言うんだ? ナンボクの言う通り、すべては僕の推測に過ぎないかもしれない… 本当の答えは、風に吹かれているんだよ… そうゆうのも要らん。イラ

「ぼくたちの失敗」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第63話

さて、居間を物色したレイモンドは、キッチンへ向かった。 それにしても居間で発見した3枚のCDの秘密には驚いたね! まさかあんな暗号になっていたとは! 特に「フレッド・アステア」は、サブイボMAXやったで。 有り得ないよな… 何度も言ってるだろう。 イシグロ文学においては「有り得る」ことなのだ。 太宰のように。 さて、レイモンドはキッチンテーブルの上に置かれていた「紫のノート」を目にする。 もちろんエミリのものだ。 もうパターンは読めたで! 「紫のノー

「イシグロの暗号」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第62話

さて、どんどん進めるよ。 前回を未読の人は、こちらをどうぞ~ 主人公の「ぼく」ことレイモンドとチャーリーがフラットに戻ると、エミリが「フィナンシャルタイムズ」を読んでいた。 エミリを見て「ぼく」は驚く。以前よりかなり太ってて、口元がブルドッグみたいだったからだ。 ひでえな(笑) なぜ「フィナンシャルタイムズ」なのか、わかるか? なぜ? たまたま読んでただけじゃないの? 『日の名残り』の「訳者あとがき」でも土屋政雄氏は「ニューズウィーク」を使っていたよな。

「エミリー・エミリー&メリイ・クリスマス後篇」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第60話

め、メリイ・クリスマス? そう… カズオ・イシグロの短編『Come Rain or Come Shine/降っても晴れても』は、太宰治の『メリイ・クリスマス』という短編を元ネタとして書かれているんだ… 前回を読んでない人にはチンプンカンプンだな。 まずはこれを読んで、衝撃の展開に備えたほうがいいぞ。 ほ、本当なのか? 間違いないですね。 だって「ブーツ」が重要なアイテムとして出て来るでしょ? 「ブーツ」といえば「太宰治」だ。 太宰治って当時の日本人として

「エミリー・エミリー&メリイ・クリスマス前篇」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第59話

やっと冒頭4曲の紹介が終わったね… 小説では、まだたったの5行目までなんだけど、実に濃厚で長かった… 「冒頭4曲」っちゅうのはコレのことやで。 驚きの連続だったな… 前回のロレンツ・ハートしかり… そういえば肝心の「登場人物の解説」が、まだだったじゃねえか。 こいつらにサクッと説明してやれよ、おかえもん。 いったい「エミリー」「ぼく」「チャーリー」が誰なのか… 誰? 第1話の『Crooner/老歌手』同様に、第2話『Come Rain or Come S

「ロレンツ・ハートの子守唄」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第58話

さて、『It Never Entered My Mind』と作者ロレンツ・ハートに関して、ちょっと紹介しようか… 歌の解説はコチラ! この歌は、1940年のブロードウェイミュージカル『Higher and Higher』のために作られた。 『サヨナラ』『南太平洋』で有名なジョシュア・ローガンが脚本・演出で、ロレンツ・ハートとリチャード・ロジャースの名コンビが曲を書きおろしたんだ。 『Higher and Higher』っちゅうたら、フランク・シナトラの映画デビュー

「こんなことになるとは思いもしなかった…(It Never Entered My Mind)」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第57話

それにしても、あのジャズのスタンダードナンバー『Here's That Rainy Day』の「出自」には驚いたな。 ホンマややこしい歌やった。 いよいよ、イシグロの短編集『夜想曲集』の第2話『Come Rain or Come Shine/降っても晴れても』の「冒頭で提示される4曲」の最後の1曲『It Never Entered My Mind』の解説だね… 曲名やタイトルが混在するとややこしいな。 現時点までをまとめると、こういうことだ。 おお!わかりやすい

「なぜ人は《雨が降る=悲しい》と決めつけるのか?(Here's That Rainy Day)」~『夜想曲集』#2~カズオ・イシグロ徹底解剖・第56話

まさか小説の三行目までの解説で、こんなに回を重ねるとは思ってもみなかったね… ホンマやな。 出だしの3行で、もう6回も書いとる。 しかし、よくもまあ毎回毎回、驚愕の新事実が飛び出してくるよな… 前回もホントに驚かされた… 仕方ないですよ… カズオ・イシグロが「ややこしい」伏線を張り巡らすから… 第3の曲『ヒアズ・ザット・レイニー・デイ』も、これまでの曲に負けないくらいの「ややこしさ」だぜ。 いや、ひょっとしたら、最も「ややこしい歌」かもしれないな… マジ

「なぜ人はパリの春を愛するのか?」~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第54話

だけど、ホントなのかなあ… あの有名な歌『ビギン・ザ・ビギン』が「パレスチナ問題」の歌だったなんて… 間違いないよ。彼のほとんどの作品には「もうひとつの物語」が隠されている。 というか、これまで僕が紹介してきた歌は、ほとんど全部がそうだったよね? せやったな。 そのせいでこのシリーズがここまで長くなっとるわけや。 ボブ・ディランに至っては、2枚のアルバムの曲を丸々解説してきたしな。 コール・ポーターには他にも数多くの「暗号ソング」があるから、それらを解説しな

「アーヴィング・バーリンって誰?」~『夜想曲集』#2「 Come Rain or Come Shine /降っても晴れても」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第52話

~~~ 三日目:夜 福江島(長崎五島) ~~~ じゃあさっそく短編『Come Rain or Come Shine』を見ていこう。 前回を未読の方はコチラをどうぞ。 小説の冒頭で、いきなり「4つの歌」が登場する。 ヒロインのエミリが好きな歌として2曲、 アービング・バーリンの『チーク・トゥ・チーク』 コール・ポーターの『ビギン・ザ・ビギン』 そして主人公レイモンドが好きな2曲、 『ヒアズ・ザット・レイニー・デイ』 『イット・ネバー・エンタード・マイ・マインド

《惚れっぽい私》は、いったい誰に惚れたのさ?~『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」~カズオ・イシグロ徹底解剖・第49話

~~~ 三日目:夜 五島・福江島 ~~~ 『恋フェニ』の衝撃の余韻がまだ収まらんわ… ねえねえ、オイラ気付いたんだけどさ… トニー・ガードナーがヤネクに「キーをEフラットまで上げてくれ」って言ったのって… ジミー・ウェッブのことをほのめかしていたんじゃない? なんでや? だってホラ… 「Eフラット」は「E♭」って書くでしょ? 「Jimmy Webb」の中には「eb」が入ってる… ああ! 「Vincente(ヴィンセント)」の中に「Venice(ヴェニス)」

衝撃!カズオ・イシグロ『夜想曲集』#1「 Crooner /老歌手」で歌われる『恋はフェニックス』に隠された秘密のメッセージとは!?~『日の名残り』徹底解剖・第47話

~~~ 三日目・夜 五島・福江島 ~~~ さて、老歌手トニー・ガードナーは、主人公のギター弾きヤネクに対し、ある計画を持ち掛けた。 妻リンディのために、運河のゴンドラの上からセレナーデを歌いたいので、その伴奏をしてほしいと… ちなみに前回を未読の方はコチラをどうぞ! いよいよ例の3曲だな。 ベタな歌ばかりやったけどな。 ベタな歌だからこそいいのだ、ボケ。 あんなところで「ややこしい歌」を歌ってみろ。一気にムードぶち壊しだぞ。 長い歴史の中で、多くの音楽家や画家