部屋を代わって欲しい

先日見た夢。

 家内の部屋が羨ましくてならない。
 三畳間にみっしりと布団が敷いてある。布団のほかは何もない。入り口はそっけない柄の片引きの襖で、壁はのっぺりと白い漆喰。入って正面の壁の手が届かぬ高さに灯りとりの小窓が一つある。天井は他の部屋と同じで煤けた黒に近いた焦げ茶だが、囲炉裏から遠い分他の部屋より色が薄い。
 納戸として使われていた北側に飛び出している部屋なので冬は冷える。夏もじめりとした空気が淀んで居心地はよくない。
 私が寝んでいるのは庭に面した十二畳ほどの部屋だ。東側には縁があり風通しが良い。床の間には、値打ちはないが出しゃばらないところが気に入っている掛け軸が下げてあるのみで、花や籠はない。冬は火鉢を置き、床屏風を立ててある。この辺りでは京間なので、学生時代を過ごした江戸間の部屋より同じ十二畳でも随分と広く見える。
「また部屋を代わってもらえないだろうか」
「いやですよ。あなたのお部屋ではわたしは寝られやしません」
「どうして。日当たりも風通しも良いし、水屋も手水も近い。君に損はないだろう」
「お断りしますよ。あんな広いところじゃ安心して寝られやしませんもの。先日代わって差し上げた時も、夜中までどうにも寝付けなくて、最後は南西の角にぴったりと布団を動かして、隠れるように屏風を立てて、やっとこさ朝までうつらうつらできたんですよ」
「慣れてしまえば、なんとでもなるものだよ。なんなら、もっと背が高くて大ぶりな屏風を誂えたっていい」
 他にもやれ反物だの簪だのと餌を出してみたが、普段の彼女に似つかわしくなくきっぱりと断ってくる。
 こうなれば屋敷は引き払ってどこぞの下宿へでも移ろうかと考えたところで目が覚めてしまった。なぜ家内の部屋を欲しがったのかはわからない。

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