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「居場所」としての職場の再構築

 私たちはコロナ禍を経て、社会の様々な変化を経験した。職場では、リモートワーク、オンライン会議、ワーケーションなど働き方が多様化し、プライベートでは、移住、多拠点生活、VR(仮想現実)、メタバースなどライフスタイルも進化した。
 コロナ以前は、平日は、職場と家庭の2つの場所を往復し、貴重な休日で趣味や気の合う仲間とリラックスした時間を過ごす。「職場」、「家庭」、「もう一人の自分」という具合に、自分らしさ(アイデンティティ)のポートフォリオを組むことで、人生を充実させる人が多い。アフターコロナでは、ソーシャルディスタンスを意識し、オンラインツールも駆使しながら新しい日常に適応していった。ここで考えみたいのが、自分らしさが発揮できる「居場所」にどんな変化が生じたのかということ。
 「居場所」の定義は様々だが、ここでは「人間が世間や社会の中で落ち着くべき場所。安心(心理的安全性)が確保されている場所。」とする。某調査機関が2021年に実施した居場所についての意識調査結果では、10代から60代の約90%が「必要」だと考えています。更に、持っている「居場所」の数では、平均2.64か所となり、家庭、職場、社会的居場所(つながり)の3か所を下回る結果となった。家庭と職場以外の社会的居場所(つながり)が確保できていない環境が垣間見える。一方で、個人が社会的居場所(つながり)を自力で確保するのは難しい。
 多くの人が1日の大半を過ごす職場は、「滞在時間こそ長いが、自分の居場所だと思われていない」ことが調査結果から見出された。職場は、様々なストレスや不満を抱えた人たちが、長時間滞留し、生産性の高くない環境で、居心地の悪さを感じつづける場所だという。コロナ禍を経て、出社を促したい経営層とリモートワークを継続したい社員との間に軋轢が生じたことも頷ける。こうした状況から少しでも早く脱却しなければならない。
 職場に社会的居場所(つながり)機能を持たせることはできないのか、そのためには何が必要だろうか。人間は身勝手な存在で、ひとりでは孤独で寂しく、大勢では煩わしい。気心の知れた仲間とリラックスした関係になれる空間を用意できないか。生産性や効率性優先のワークスペースやDX化の推進ばかりでなく、社会的居場所(つながり)や体験を意識してみる。かつて活発に実施されていたサークル活動や同好会、社員旅行や懇親会といった枠組みを、心のよりどころとなる関係性や安心感(心理的安全性)が感じられる場に再構築できると理想である。職場が社会的居場所(つながり)としても機能するようになると、生産性や組織・仕事へのコミットメントも変化し、企業価値向上も期待できるであろう。

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