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心細くなった時、聞きたくなったのは大嫌いな母の声だった。

 今日の夕方、ふと母の声が聞きたくなって電話した。
「は〜い」、母の声を聞いた瞬間、涙が出て来た。

 家を出て10日。たった10日。なのだけど。
 なぜか今日、妙に心細くて寂しくて。
 だからいつも通りの、母の「は〜い」という声を聞いたら、一瞬で涙が出た。

 私は母のことが嫌いだった。
 嫌いというか合わないというのかな。顔を見れば口をきけば、いつもイライラしていた。
 会社員時代はまだ良かったのだけど、フリーランスになってからは家にいる時間が多くなって、イライラすることも多くなった。
 高齢の母に対して(この人、いつまで生きるんだろう。早くいなくなればいいのに)と思っていた。そんな風に思う自分も嫌だった。

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 だから、家を出たひとつの理由は「母から離れるため」でもあった。
 引越すまでの間「あと少し。あと少しで離れられる」そう念仏のように心で唱えて、離れられるのを心待ちにしていた。

 なのに。
 心細くなった時、聞きたくなったのは母の声だった。

「今、猫たちにご飯あげたところよ〜。今日寒くてさあ〜」と、相変わらず自分のことを話し続ける母の声を聞きながら、泣いてることに気づかれないように「へえ〜」「そう」と相槌を打ち続けた。

 私は母の前で泣いたことがほとんどない。幼い頃はあっただろうけど、大人になってからはほぼない。
 多分最後は、飼っていた猫が死んでしまった時。もう10年以上前。それが最後だと思う。

 なんでだろうね。弱いところを見せちゃダメと思ってるのかな。
 親だけど、心を許してないところがあるのかな。
「お母さ〜ん、寂しくて電話しちゃったよお〜。うえ〜ん(涙)」なんて言えたら良かったのかな。

 とりとめのない話を20分ほどして「じゃあね」と電話を切った。
 そのあとひとりで泣いた。猫を抱きしめてオイオイ泣いた。

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 44歳にもなって何を言っているんだか、である。
 もしいま自分が20代だったら、「寂しくて母に電話した」と言ってる44歳を「相当気持ち悪い」と思うに違いない。

 それから夕飯を作った。何も作りたくなかったけど、買いに行くのも面倒だし作ることにした。べそべそ言いながら、ドライカレーを作った。

 使ったルーは「バーモントカレー」。
 母が先日送って来た荷物に入っていた「バーモントカレー」。
「別にこっちで買えるからいいよ」と言ったのに「たくさん買いすぎちゃったから」と送って来た「バーモントカレー」。
 それを見てまたべそべそ泣いた。

 それでもちゃんとドライカレーは出来上がったので、べそべそ言いながら食べた。
「泣きながらご飯を食べた事のある人は強い」って言うから、きっと私はまたひとつ強くなったに違いない。

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 ところで、実はドライカレーを食べるのも作るのも、人生で初めて。なので、あれが正解だったのかどうなのかが分からない。まあ、それなりに美味しかったけど。カレーだし。

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