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ここと向こうとの淵に立った日本画は、新たな深淵へと続いていく/谷保玲奈さん、第8回東山魁夷記念日経日本画大賞受賞

昨年、日本画家の谷保玲奈さんと、東北芸術工科大学芸術学部美術科日本画コース専任講師(前職/太田市美術館・図書館学芸員)の小金沢智さんとともに、谷保さんの縦2メートル弱、横4メートル近くにもなる日本画を2枚、「共鳴/蒐荷」と名付けられたそれらを、【横須賀のたたら浜と、横浜の三渓園・旧燈明寺本堂の2箇所に展示し映像記録をする】という体験をした。昨日、谷保さんよりそれら「共鳴/蒐荷」が、格式高い第8回東山魁夷記念日経日本画大賞の大賞を受賞したという知らせがあった。めちゃくちゃ嬉しい。

谷保さんとは、小金沢さんがキュレーターを務めた太田市美術館・図書館「現代日本画へようこそ」展で出会った。「現代日本画へようこそ」展は、東山魁夷の作品も含めた佐久市立近代美術館の日本画コレクションを主軸としながらも、そのコレクション作品の画家の中で現在も積極的に活動を続けている山本直彰氏、内田あぐり氏、岡村桂三郎氏、市川裕司氏、そして谷保玲奈氏にスポットをあて、5作家のアトリエを小金沢さんと僕とで訪問、撮影したインタビュー映像を展覧会内で「ふだん日本画を見慣れていない観客に向けて話しかけるように」思い切り放映するなどした画期的な日本画展だった。その時のインタビュー映像はyoutubeでも見ることができる。

太田市美術館・図書館「現代日本画へようこそ」出品作家インタビュー④谷保玲奈

昨年8月、谷保さんから「新しく描く絵を、海辺に立てたい。その映像を撮影していただけますか?」というメールをもらった。日本画を海に立てる?一瞬、地域芸術祭でのインスタレーション的な見せ方なのかと思ったが、そういった鑑賞者を対象にした行動ではなく、純粋に撮影のための行動だと言う。どんなことになるのか全く検討もつかなかったが、谷保さんのこのチャレンジに小金沢さんも個人としてがっつり関わっているということもあり「はい」と引き受けた。

昨年3月、谷保さんは画業をより突き進めるために1年間のメキシコ研修に行く予定だった。しかしコロナ禍により渡航は中止。精神的に一番つらい時には「命を削って描いた絵が、ゴミのように思えた」という(日経新聞記事より)。そこから、海外でも自分の作品が見られる方法ということで映像という表現方法を思いつき、結果小金沢さんや僕、造作施工の下田代さんや谷保さんの友人たちの「チーム谷保」によってたたら浜での撮影を決行(映像作品名「condition_gravity」)。浜のみではなく、横須賀各所、谷保さんが普段足を運ぶ山の公園や商店街、勤めている花屋等に自身の絵画を置いての撮影も行った(映像作品名「condition_01」)。そして最終的には昨年11月、横浜の三渓園・旧燈明寺本堂での鑑賞者ありでの「共鳴/蒐荷」原画の展示、上記映像作品の展示を行い、一連の旅(と言っても良いと思う)は終わった。そのあたりの谷保さんの心境・行動については、三渓園での展示の際に撮影した下記インタビュー映像をご覧いただきたい。

谷保玲奈「蒐荷」三溪園個展インタビュー

Reina Taniho - condition_akerukureru(short ver.)
※「condition_gravity」と三渓園での展示を合わせた映像

映像では伝わり方が弱いと思うが、谷保さんの絵を目前にすると「いのちはどこから来てどこに行くのか」という問いが静かに、ゆっくりと自分の中に湧いてくる。描かれているものも、海の生命体を主とした自然物であり、天然由来の画材を使用した日本画という影響も大きいのだと思うが、そういった「目で見えるもの/言葉にできるもの」を超えたところで呼びかけてくる何かが、谷保さんの絵からは感じることができる。そう考えると、映像撮影と展示のために「共鳴/蒐荷」が立てられた場所が、海を境界としたここと向こうの淵、旧燈明寺本堂を境界としたここと向こうの淵、であったことは、谷保さんが当初から強く意識していた事ではなかったかもしれないが、必然だったように思う。

上記個展インタビューで、海で展示した時の感想を求めたところ「ここに全てを詰め込みたいと思って描いても、結局海へ持ってっちゃったらただの断片っていうか(中略)自分が影響を受けたものを、実際のものとして海へ持って行ってそこに置きたいというのは、浄化じゃないけどどうしてもやりたかったことなので。でも実際置いてみて、ちっぽけで笑っちゃうような感じがすごく良かった」という答えが返ってきた。その「ちっぽけだと思う心と手応え」があれば、彼女はさらに自身の表現の深みへと歩を進めることができるのだと思う。

東山魁夷記念日経日本画大賞受賞は日本画業としてのあがりではなく、コロナ禍において渡航が叶わなかった谷保さんにとっての「迷わず行けよ」というパスポートなのだと思う。「チーム谷保」の一員として、今後のご活躍を益々期待したい。

谷保玲奈HP

東山魁夷記念日経日本画大賞

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