「悪学のマニエラ」第1話
【あらすじ】
逮捕不可能と言われた、第一次世界大戦後の、裏のアメリカを統べるマフィア『カルネ・アルヴァーン』の娘を名乗る『セリル・アルヴァーン』という少女が、ある日カルネの悪事の証拠を持って出頭してきた。
その事により失脚した、自分の父に成り代わり、その幼き少女は組織のボスの座へ、着くこととなる。
セリルを危険と感じた捜査局は、監視役兼抑止力として、『首輪』と呼ばれる特殊訓練を受けた少年をセリルの元へ送り込むことに。
カルネが捕まった影響で、秩序の無くなった、群雄割拠の裏社会の制覇を目論むセリルと、セリルに出会った事により、正義と悪の狭間で揺れる『首輪』の少年レン・ヒミヤの2人が、この世界をひっくり返す・・・!!
【本編】
■舞台設定(1930年代初頭アメリカ・シカゴ)
<『狂騒の20年代』>
<後にそう呼ばれた、第一次世界大戦後のアメリカは、まるで乱気流の中。どんな予測や予定も意味をなさない。今朝目覚めた時まで常識だったものが、日が暮れる頃には非常識に。誰もが焦燥に駆られ、急かされ、あちらこちらへと、定まらない方位磁針に踊らされ続ける>
<そんな時代で、ただ己が信じた道を、ひたすらまっすぐ歩き続けた男がいた>
<『カルネ・アルヴァーン』>
<ボルサリーノ帽に、頬の傷跡がトレードマークのその男は、「スカーフェイス」という通り名で呼ばれた>
<そんなカルネが信じた道とは・・・『悪道』>
<マフィアのトップへと、その身一つで上り詰めたカルネは、シカゴ『暗黒街』を拠点にアメリカ裏社会の勢力図を次々と塗り替えていった>
<その圧倒的なカリスマ性に加え、知略に武力。どれをとっても他の追随を許さなかったが、カルネの真の恐ろしさとは、決してそのしっぽを掴ませない事だった>
<地元警察と捜査局は、すぐにカルネをブラックリスト入りさせ、全力を持って捜査にあたったが、まさに雲を掴むような状態に>
<捜査を難航させたのは、痕跡を一切残さないよう細心の注意を払い、徹底した偽装工作をカルネが行ったというのは勿論だが、理由はそれだけでは無かった>
<なぜなら、カルネはメディアに度々顔を出し、時には白昼堂々と悪事を働く事もあったからだ>
<カルネはそれらをメリットと考え、積極的に世間からの支持を得ようと働きかけたのだ。慈善事業なども行う事で、裏社会の人間でありながらも、いつしかカルネの人気は、市長すらも凌駕する程だった>
<そういった民意や、それに乗っかったマスコミが、カルネの隠れ蓑として機能しており、二つの顔を使いこなす事で、不動の地位を確立したカルネは最早、誰の手にも負えない存在となっていた>
<しかしそんなある日、眼帯をつけた、まだ年端もいかない隻眼のブロンド少女が、警察署に出頭してきた>
<そして、その少女の口から、誰も予測していなかった、できるはずがなかった言葉が飛びだした>
セリル「私は"セリル・アルヴァーン"。『スカーフェイス』、"カルネ・アルヴァーン"の一人娘だ」
<そして少女は、周囲の戸惑いに構わずこう続けた>
セリル「私が『スカーフェイス』の娘であるという証拠と、『スカーフェイス』の逮捕に十分すぎる情報、証拠を持ってきた」
<女性関係に関しても、痕跡を残さず、子を成すことは足がつくだけのリスクと考えていた、あのカルネに娘がいた事。カルネを逮捕するための確たる証拠がある。どちらも、長い時間をかけて捜査した結果から、導き出す事のできなかったモノだ。それを、突然現れた幼き少女が持ち込んできたとなれば、最初は誰も少女の言うことを信じようとしなかったのも、当然と言えるだろう>
<しかし、実際にその証拠を手に取ると、捜査官達の目の色が徐々に変わっていった>
<ソレは、疑いようのない、しっかりと裏付けられた情報、証拠ばかりが並んで、いたからだ>
<そして何より、その幼き見た目にそぐわない、利発な少女の言動には、捜査官達を頷かせる程の、冷やかしとは思えない、揺るがない意思と説得力があった>
<そうして、20年代の終わりと同時に、栄華を極めたカルネの一人舞台は、前触れもなく唐突に、いとも簡単に、呆気なく幕切れを迎えた>
<逮捕と同時に、セリルにより明かされた様々な悪事が世間一般に公開されると、大衆は手のひらを返したように、カルネを社会悪として糾弾し、マスコミは嬉々として、『悪夢の終わり』と報道した>
<しかし、カルネの逮捕は決して平穏をもたらすものではなく、混迷を極めた、新たなる暗黒時代の幕開けだったのだ>
<カルネなき裏社会は、まさに群雄割拠。空席となった玉座を狙うべく、血で血を洗う抗争が、日夜各地で頻発した>
<そんな中、次の筆頭と目されたのは、今回の騒動で一躍裏社会へとその名を知らしめた、他でもないセリル・アルヴァーンだった>
<幼い少女であれど、カルネの実子。残されたカルネの財とコネクション、そしてカルネを追い詰めた行動力を加味すれば、そう難しくないと言われた>
<その事に危機感を覚えた捜査局は、元は第一次世界大戦の長期化を懸念し、秘密裏に組織した研究機関で、戦争へ単騎で投入可能な特殊訓練を受けた『首輪』と呼ばれる少年達を流入し、監視役兼抑止力としてセリルの元に派遣する事を決めた>
<そうして、狂騒の20年代をも凌ぐ、セリルを中心とした暗澹の30年代へと、世界は漕ぎ出していったのだった>
■場面(イリノイ州・スプリングフィールド郊外にある根城・セリルの寝室)
白いネグリジェに身を包んで眠っているセリル。
その手にはテディベアが握られている。
その優雅さとは対照的な、ドタドタという忙しない足音が扉の外から聞こえてくる。
マロウ「・・・ボス〜!」
その声の主は、髭を生やし、小太りでサングラスをかけた中年体系の、セリルが率いるファミリーの幹部"マロウ"。
勢いよく扉が開く。
マロウ「ボス・・・!どうやら来たみたいですぜ!次の『首輪』が・・・!」
しかしセリルから返って来るのは、ムニャムニャという寝言と寝返りだけだった。
マロウ「ボス・・・!起きてく_____」
マロウが言い終わる前に、セリルが今度は、返事の代わりに、寝返りと左手に握られたレボルバーを打つ。
銃弾がマロウの顔のすぐそばを通過し、すぐ後ろの壁には弾痕が出来ている。
マロウ「ギャァァァァァ!!」
そして、ムニャムニャと眠るセリルの手に握られるリボルバーから連続で6発の弾が発射され、それを必死に躱すマロウ。
銃撃が止み、汗だくになって、肩で息をしながら座り込むマロウ。
マロウ「はぁ・・・はぁ・・・死ぬかと・・・思った」
すると扉から、タキシードでばっちりキメた、すらっとしたモデル体型のイケメンが現れる。
イヴァン「マロウを虐めるのも、ほどほどにしてやってくださいよ・・・ボス」
セリルの右腕でもあるアンダーボス(副リーダー)、イヴァンだ。
セリル「・・・グハァッ!まぁ、そう言うなイヴァン。これぐらい派手な目覚めじゃないと、朝からスッキリしないんだよ。それに、最近太り気味だったマロウも、ちょうどいい運動になっただろう・・・?」
悪魔のような笑みを浮かべながら、マロウに同調を求めるセリル。
マロウ「えぇ、そりゃもう・・・(いつかぜってぇブッコロス・・・!)」
野心家なマロウは、はらわたが煮えくりかえる思いを隠しながら、セリルに従う。セリルはそれを見抜いており、わざと煽るような言動をしている。
イヴァン「ボス、そのテディベア、そろそろ替えないか?」
セリルの持つテディベアは、中綿が飛び出し、両手両足は取れかかっていて、片目は完全になくなって隻眼になっている。
セリル「・・・いや、ようやく私好みになってきたところさ。コレクター達はそのままの姿で保存したがるが、私は違う。人形は、使い潰してこそだろ・・・?」
ゾッとするマロウ。
マロウ<趣味悪ぃ〜・・・>
リゾ「そんで、どーすーのボス?ここにあげていいの?」
今度は、20代前半ほどの見た目の、グラマラスな女性が現れる。
幹部の"リゾ"だ。
セリル「あぁ・・・構わないよ、リゾ。私もその間に支度をしておこう」
リゾ「・・・ふぁーい」
階段を降りていくリゾ。
マロウ「ボス・・・!あんなヤツ、門前払いでいいんじゃないんすか!?それか、いっそ始末しちまっても」
息巻くマロウ。
イヴァン「・・・仮にも国から派遣されてきた奴だぞ。それに奴らは掛け値なしの化け物だ。襲ったところでこっちが返り討ちにあうのが目に見えている」
セリル「化け物というよりアレは・・・人形だよ」
自身が持つテディベアに目を落としながら、呟くセリル。
■場面(郊外・本拠・セリルの書斎)
オキタ「レフィア機関から来ました、セイジ・オキタです!今日から『首輪』としての任に着くことになりました!よろしくです!」
レフィア機関専用の軍服に身を包んだ、セリルよりは少し背が高いが、年齢としては対して変わらない、幼き少年が元気よく挨拶をした。
書斎の中心には、足を組んで椅子に座る、上は白いシャツとネクタイにサスペンダー、下はチェック柄のスラックスという、比較的フォーマルな装いに着替えたセリルが居て、その側に四人の部下が立っている。
リゾ「・・・ちったいね〜」
マロウ「この辺じゃ見かけねぇ顔立ちだが、どこの国のもんだ・・・?機関は世界中から人材を集めていたらしいが・・・」
イヴァン「アジアンだろ・・・?」
オキタ「え〜と・・・」
セリル「日本人____のはずだ」
オキタ「はい!そうです!」
マロウ「なんで分かったんですか・・・?」
セリル「前任のフランス製の『首輪』とは反りが合わなくてね・・・日本人で発注しておいたのだ。やはり愛でるのは日本人形に限るからな・・・」
オキタ「あははは・・・すっかり人形扱いじゃないですか・・・」
イヴァン「気を悪くしたなら、悪いな。うちのボスはいつもこんな感じなんだ」
マロウ「そうそう!変わり者で、変人で、変態で、変質者で____」
リゾ「マロウそれ、ボスへの悪口・・・?もしそうだったら、リゾがお前を消し飛ばすけど」
マロウ「おいおい・・・!そんなわけ無いだろう?もちろん尊敬が一番にあっての褒め言葉に決まってるじゃねぇか!えへへへ・・・・(こいつもいつかブチコロス!)」
椅子から立ち上がるセリル。
セリル「歓迎しよう、オキタ。私がこのファミリーのボス、セリル・アルヴァーンだ。気軽にセリーと呼んでくれて構わない」
オキタ「よろしくっす、セリーさん!」
セリル「ここにいるのは、アンダーボスのイヴァン、幹部のマロウとリゾだ。何分うちのファミリーは零細組織でね。豪華な歓迎はできないが、許して欲しい」
オキタ「いえいえ!そんな!カルネ・アルヴァーンの実子ではあるものの、出自の謎やあまりの幼さから、ほとんどの側近から相手にされず、ファミリーを追い出される形で今に至ったんですから!そんなの気にしなくたっていいですよ!」
マロウ「コッ・・・コイツ!!バカにしやがって!」
リゾ「・・・殺していい?」
忍ばせた銃に手を伸ばす二人。
オキタ「ま、待ってください!別にバカにしたつもりじゃ・・・!ただ客観的な事実に基づいたものを言っただけですよ・・!」
懸命に敵意がないことを主張するオキタ。
イヴァン「・・・ナチュラル畜生ってやつか」
一触即発の緊迫した空気が漂いかけたその時、
セリル「・・・グハァッ!全くもってその通り」
セリルが、いつもの下品な笑い声を発する。
セリル「それ故にお前の働きには期待させてもらうぞ?私は見てくれのとおり、人形遊びは嫌いじゃ無い。せいぜい退屈だけはさせないでくれ」
オキタ「ご期待に添えるように、善処します・・・!」
■場面(郊外・本拠から、パン屋へと降りるための階段)
セリルとオキタが並んで階段を降りると、一階にはパン屋で、気の良さそうな中年のおばさんが、レジに入って店を切り盛りしていた。
そのおばさんが二人の存在に気づき、声をかける。
パン屋のおばさん「おや、セリー・・・!友達とお出かけかい?」
セリル「ごきげん麗しゅう、シニョーラ。少しこの街の案内をしようかと思ってね」
セリルに倣って、頭を下げるオキタ。
パン屋のおばさん「そうかい、そうかい。遅くならないうちに帰ってくるんだよ~!」
■場面(郊外・街頭)
オキタ「でも、なんでこんな片田舎のパン屋の上なんかに・・・?」
セリル「誰も思わないだろ・・・?こんな片田舎のパン屋の上をマフィアが根城にしているなんて」
オキタ「それはそうかもしれないっすけど・・・」
セリル「まぁ、小腹も空いてくる頃だ。行きつけの日本食店がある。続きはそこでしよう」
■場面(郊外・日本食店)
食事する二人。
この時、食べ終わった後の箸の並べ方が違い、セリルは横向きに、オキタは縦向きに並べている。
■場面(郊外・公園)
6歳くらいの小さい子に手を引かれ、一緒になって遊ぶオキタ。
ベンチに座り、読書をするセリル。
■場面(郊外・カフェ)
街路沿いのオープンカフェで座って、注文を待つ2人。
オキタ「なんだかマフィアの日常なのに平和すぎて、拍子抜けしちゃうな〜・・・」
伸びをするオキタ。
セリル「平和・・・美しい響きではないか」
オキタ「・・・え〜?そうっすか?」
セリル「あぁ・・・平和というのは、束の間だからこそ、美しいと感じられる」
ウェイターが、持ってきた注文の品を並べた後、いきなり銃を構えた。
そう、それは扮装したヒットマンだったのだ。
ヒットマン「непростительный!!」
虚をついた襲撃に、瞬時に臨戦態勢に入るオキタ。その一方、セリルは微動だにせず、置かれたミルクティーに手をつけていた。
素早く的確な体術で、オキタがウェイターを無力化し、ウェイターが持っていた銃で、躊躇うことなく脳天を打ち抜き、トドメをさすオキタ。
その一方、席から立ち上がることもなく、店から客が逃げ出し、がらんとしたカフェで優雅に、そして呑気にティーカップを口元に持っていおり、カップの中に、ヒットマンの返り血が飛び散り、ミルクティーが赤く染まる。
セリル「・・・ふむ。どうやら、ミルクティーを頼んだつもりが、アールグレイがきてしまったようだ」
そして、その返り血で赤く染まったミルクティーを、一気に飲み干すセリル。
セリル「・・・グハァッ!これはまた・・・平和の味がするな」
■場面(本拠・セリルの書斎・夜)
マロウ「襲撃があったって、本当か!?もしかして、ボスの身に何かあったとか?もしかしてもしかして、瀕死の重体とか、すでにもうあの世にいっちまったりとかしてねぇか!?いや、してるよなぁ!?」
期待に胸を膨らませながら、駆け込んできたマロウ。
オキタ「大丈夫です!自分がしっかり傷一つなく、お守りしておいたんで!」
椅子に座り、優雅に読書するセリルが目に入るマロウ。
マロウ「・・・チッ」
リゾ「マロウ・・・?なぜ悔しそうなんだ?」
マロウ「いや〜、本当は俺が身を挺してボスを守りたかったなぁ・・・って思っただけだよ(もっとしっかりやれ、ド下手ヒットマンがっ!)」
オキタ「何か狙われる心当たりとかってあるんですか・・・?」
イヴァン「・・・ボスは、あの、"カルネ・アルヴァーン"の一人娘だ。それだけで、ほとんどのマフィアから狙われたとしても、説明がついちまう。しかし、こっちに本拠を移してからは、こんな派手な襲撃は久しくなかった・・・なんだか不穏な匂いがする。皆、気を引き締めろ」
■場面(本拠・セリルの書斎・次の週の昼間)
マロウ「そっちはどうだ・・・?」
リゾ「・・・昨日合わせて3人」
イヴァン「俺のところが2人で、マロウのとこが・・・」
マロウ「・・・3人だ」
険しい顔で顔を突き合わせる3人と、その一方、テーブルで、オキタとチェスを嗜むセリル。
イヴァン「まさかここ一週間だけで、構成員が10人近くも殺られるとは・・・」
マロウ「畜生・・・!いったいどうなってんだ!犯人は殺したんじゃなかったのかよ・・・!」
リゾ「・・・別の単独犯による私怨か、そいつが所属していたどこかのファミリーが抗争を仕掛けてきたか・・・」
イヴァン「特に手がかりもない現状じゃ、どちらとも言えないな。中途半端すぎる・・・もう少し前提から考え直さないと・・・」
マロウ「でもよぉ!そんなに悠長にしてらんねぇだろ・・・!こんなに殺られてんなら、次は俺達が標的になってもおかしくねぇよ!」
オキタ「会議に参加しなくてもいいんすか・・・?こんな時にチェスやってる場合じゃないんじゃ・・・」
セリル「・・・構わんよ。お前はただ、私のチェスの相手をしていればいい」
そんな呑気なセリルを見て、苛立ちがマックスになるマロウ。
マロウ「俺は、俺はこんなところで死ぬわけにはいかねーんだよぉ・・・!」
静止を振り切り、飛び出していくマロウ。
イヴァン「・・・おい!どこへ行くマロウ!ったくあいつは・・・」
リゾ「今回は仕方にゃーかも。リゾもお手上げ。はーぽーふさがり」
匙を投げ出すリゾ。
オキタ「そうっすか・・・そんじゃ、チェックメイトで」
コマを進め、チェックをかけるオキタ。
セリル「チェックメイト・・・か。面白い・・・!」
その絶体絶命の盤上を見て、笑うセリル。
■場面(郊外・街頭・夜)
人気の無くなった深夜の街頭を、1人大きな荷物を背負って、急ぎ足で歩くマロウ。
マロウ「はぁ・・・はぁ・・・もうこんな街に、あんなファミリーに居られるかってんだ・・・」
逃亡しようと急いでいたマロウだったが、その歩みをいきなりピタリと止めた。
誰かに尾けられている事に気づくマロウ。
マロウ「来やがったかクソッタレ・・・!」
なんとか撒こうとするが、その足音はどんどん迫ってきていた。
そして、足を躓いて転んでしまうマロウ。
マロウ「畜生・・・!俺のゴッド・ファーザーへの道のりはこれからだってのによぉぉぉぉ!」
死を覚悟したマロウだったが、
オキタ「マロウさん!自分っすよ、じ・ぶ・ん!オキタっす!」
するとその追跡者は、他でもないオキタだった。
一安心するマロウ。
マロウ「なんだお前か・・・びっくりさせんじゃねぇ!」
オキタが、転んだマロウへと手を差し伸べる。
オキタ「すいません、イヴァンさんにマロウさんが心配だから手分けして探そうって事になって、みんなで探してたんですよ・・・!それでマロウさんっぽい人影を見つけたんで追いかけてたら____」
その言葉に、その手を取ろうとしたマロウの手が、止まる。
マロウ「・・・待て。イヴァンが俺の事を手分けして探す事を提案しただと・・・?」
オキタ「・・・?」
マロウ「アイツに限って、そんな命令を出すはずがない。あぁ見えて、何よりもボスの事を考えてるのはアイツだ。そんなアイツが、この非常時にボスの周りが手薄になるような策はない。それにお前は『首輪』だろ・・・?ボスから目を離してまでこんな所に来るのは、お前の責務ともかけ離れた行動______」
マロウの言葉を、銃声が遮る。
撃ち抜かれたのは、マロウの右の太腿。
そして撃ったのは、いつもの笑顔を崩さないまま銃を握ったオキタだった。
マロウ「があぁぁぁぁぁ!いってぇぇぇぇ!!」
オキタ「へぇ〜、そうなんだ〜・・・知らなかった。まぁ、今になったらどうでもいいんだけどね」
マロウ「何してくれてんだテメェ・・・!まさか、お前が襲撃犯だったのか!?」
オキタ「え〜・・・それ聞いてどうするの・・・?別にもうどうでもいいじゃ〜ん・・・どうせ死ぬんだし」
銃に手を伸ばそうと、腰に手を近づけた瞬間、マロウの腕が撃ち抜かれる。
マロウ「クソがあああああ!いてぇぇぇ、いてぇよぉぉぉ!」
のたうち回るマロウ。
それを横目に、マロウの大量の荷物を漁るオキタ。
オキタ「君が帳簿係なのは分かってるんだから。早くいいなよ。帳簿をどこに隠したのか」
マロウ「はぁ・・・はぁ・・・何言ってるか分からんが・・・ぜってぇいわねぇ・・・お前も・・・どうせ死ぬんだからよぉ・・・」
オキタの興味が、初めてマロウに移る。
オキタ「・・・は?この状況で何言ってんの?」
マロウ「はぁ・・・はぁ・・・お前も相当な悪だがよぉ・・・ボスはお前以上の巨悪だ・・・お前の程度の悪は・・・すぐに飲み込まれちまうぜ・・・」
街灯の下で、仰向けになったマロウの額に、立ったまま拳銃を突きつけるオキタ。
オキタ「・・・あっそ」
引き金に指がかかったその瞬間、外灯の届かない暗闇から声がした。
セリル「・・・グハァッ!いい格好してるなぁ・・・マロウ」
マロウ「・・・ったく、相変わらずな笑い声だぜ・・・そんで、来るのが遅いんだよぉ!」
その声と共に、暗闇からセリルが姿を表す。
セリル「正義が遅れてくるのは、見え透いた子供騙しのご都合主義だが、悪は遅れて登場すればするほど、箔が付くからな」
オキタ「セリーさん!ちょうどよかった!マロウさんが襲撃者に襲われて____」
その言葉を聞き終わる前に、銃口をオキタに向けるセリル。
セリル「最初から貴様のその、今にも剥がれそうな軽薄な笑みは、見ていて気分が悪かったよ」
続け様に連射し、オキタが近くにあった廃ビルに逃げ込む。
セリル「喜べ・・・お前にもう少し、その痛みを堪能する時間をくれてやろう」
そう言って、オキタを追って廃ビルの中へと消えていくセリル。
マロウ「もう少し・・・っつったからなぁ・・・」
■場面(廃ビル・夜)
廃ビルの中で、激しい銃撃戦を繰り広げた後、銃口を向け合い、正面から対峙する2人。
オキタ「なぜ僕が、襲撃犯だと分かった・・・?」
セリル「いくつかの違和感を結び合わせただけだよ・・・まず、日本食を食べた時、貴様は箸を縦に置いていたが、本来の日本式だと、箸を横に置く。そして
、カフェで襲ってきた時の襲撃犯。あれは最初、私を襲ってきたヒットマンだと思っていた。しかしあの襲撃犯の本当の狙いは、私ではなく、貴様だった。あの時、襲撃犯は、ロシア語で『許さない』と言っていた。つまりヤツは、ロシアンマフィアであり、怨恨で襲ってきたということ。あいにく私は、ロシアンマフィアから恨まれるような心当たりはなくてな・・・」
オキタ「・・・」
セリル「その一方、私はロシアンマフィアに恨み持たれているであろう存在には、心当たりがあった。それは、今現在ロシアンマフィアと抗争中の、チャイニーズマフィアだ。そして、箸を縦に置くという文化は、日本ではなく中国のもの。そこからお前が日本人ではないと確信した。そしてそれ以外にもお前は『首輪』だというのに単独行動があまりにも多すぎた。まるで別の目的があるとでも言わんばかりにな。それらの点から、貴様が『首輪』ではなく、襲撃者である可能性が極めて高いだろうと推測した」
セリル「そして、チャイニーズマフィアが私を襲う理由は一つしかないからな。それは、カルネ・アルヴァーンが持っていた、脱税の証拠となり得る"帳簿"と、それを記入していた生きる証拠"帳簿係"。当時、カルネとチャイニーズマフィアのボス"クォン"は、親交が深く、同じ帳簿係を共有していた。これは、どちらかが裏切らないようにするための、契約のようなものでもあった。しかしカルネが捕まった今、証拠品として帳簿、もしくは証人として帳簿係が出廷することがあるとクォンの逮捕にも繋がりかねない。そう考えたクォンは、その帳簿と帳簿係の行方を知っているであろう私の襲撃命令が降り、『首輪』のフリをして潜入してきた、という所だろう。しかし、正攻法で探し出す事を不可能だと悟ったお前は強行策に出た。それにより、不安に思った私が帳簿と帳簿係を、この街から逃すだろうと踏んだからだ。そして貴様は、実際にこの街から逃げ出そうとしていたマロウを"帳簿係"だと決めつけ襲撃し、まんまと釣られたというわけだ」
オキタ「これはさすがと言った方がいいのかな・・・?でも、それが分かったところで、君がここで死ぬ事には変わりないけどね。君らファミリーを皆殺しにしてから、はゆっくり探させてもらうよ」
セリル「だがオキタ、お前のリボルバーの最大装填数は6発。もう全て撃ちきって、弾切れのはずだ」
オキタ「それは君もだろ?6発既に撃ち切ったはずだ・・・」
リボルバーを地面に落とすオキタ。
オキタ「しかし僕は、知っての通り体術が得意でね。この距離で君を殺すのは、雑作もない事なんだよ」
セリル「・・・そうか、それは残念だ」
オキタ「ここで消えろ、セリル・アルヴァーン・・・!」
振り下ろされる拳よりも速く、セリルのリボルバーから放たれた銃弾がオキタの頭蓋を貫く。
オキタ「な・・・ぜ・・・」
セリル「この"呪われし短銃"の装弾数は"無限"なんだよ。悪に常識など通じると思うなよ?貴様は、チェックメイトをかけると、慢心してしまう悪癖があるようだが、本当の勝負とは、チェックメイトをかけられてからが本番なのだよ」
■場面(郊外・本拠一階のパン屋)
外出用の装いをしたセリル。
パン屋のおばさん「おや、セリー!今日は一人でお出かけかい?」
セリル「ごきげん麗しゅう、シニョーラ。新しい友達が会いにきてくれたようで、迎えに行こうかと」
パン屋のおばさん「そうかい、そうかい。今度は仲良くできたら良いねぇ」
セリル「えぇ・・・そうなることを願います」
扉を開き出ていくセリル。
客「これとこれ、お願いしま〜す!」
パン屋のおばさんが、帳簿を鍵付きの棚から取り出し、つけ始める。
パン屋のおばさん「これとこれかい・・・?そしたら値段は___」
第2話
第3話
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