誘拐犯に、なぜ被害者母は「ありがとう」と言ったのか(未成年誘拐) 傍聴小景 #1
裁判ライターの「普通」と申します。
日々傍聴している裁判の中で、特に印象的だったものを毎週月曜日、水曜日にレポートしていきます。裁判に興味を持っていただいたり、皆様にとってなにかお役立てできたら嬉しく思います。
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それでは、早速裁判の紹介をしていきます。
はじめに
今回のテーマは「誘拐」。
刑事、探偵ものの作品ではしょっちゅうテーマとしてあがりますが、実際の裁判でほぼお目にかかることはありません。私も開廷表(当日の裁判の予定)で何度か予定を組まれているのは見ただけで、傍聴したのは今回が初めてでした。
「誘拐」と聞くと、やはり作品のイメージでは身代金をはじめ営利目的というのが浮かぶと思います。というか、それしか頭にありませんでした。
ただ、そもそも「誘拐」の言葉の定義ってなんなのだろう?と今回の事件の内容を聞くと思います。そうやって自主的に調べる知識ってなかなかタメになりますよね。
事件の概要(起訴状の要約)
事件の特殊性もさることながら、こういう事案は誘拐にあたるんだなぁと妙に納得してしまいました。確かに過去にもこういうニュースを見た気がします。
被告人には前科が3犯あり、うち2件は今回と同じく「未成年誘拐」によるものでした。これは根深そうですね。
被告人の名前でググったら、普通に以前の罪で逮捕されたときの記事が出てきました。罪を犯したとはいえ、半永久的に名前が残るというのは、やはり色々考えてしまいますね。
ちなみに私の本名は、ググると同姓同名の「お花屋さん」が出てきます。
さて、もう少し詳細に事件を見てみます。
検察官による証拠や供述提示
18歳未満の女児に対して性交を行っているので、それに関する罪はつかないか不思議だったのですが、恐らく被害者が自ら好意を抱いていると供述ことから児童買春や青少年健全育成法にはあたらないということなんでしょうね。
本気かどうかは知りませんけどね、40代半ばのオッサンが中学生をその気にさせている時点で、健全育成には法律でなく一般倫理としては十分反していると思いますがね。
弁護人による証拠や供述提示
弁護人は、被告人の反省文を弁護の証拠として提出しました。
被告人さん、私はあなたを本気でヤバいと思っております。決してふざけてなどおりません。
いやぁこの人、相当にヤバいな。
本気だからいいでしょというのが伝えたいんでしょうけど、あなたはね前科もあるし不用意に未成年の子に近づいちゃいけないの。その考えが決壊している時点で、この文章はもはや罪に対しての反省文の体をなしてないと思うんだけどなぁ…。
「離れて寂しくさせては本末転倒です」じゃないんだよ。語るな語るな。
被告人質問でもう少し細かいところを明らかにします。
被告人質問
なに、その法律関係者か前科者しか送れない、「ご両親の許可を得なかったら、未成年誘拐罪になっちゃうよー」という具体的、かつ的確な一文は。
私が仮にその女児とやりとりする立場だったら、「だだだだだ、だめだよ」としか返せないだろうな。
被害者も「未成年誘拐罪」って聞いて、何それ?ってならなかったのかな。それとも、被告人から前科関係は聞いていたのでしょうか。
4日も帰ってこない、連絡がつかない娘が帰ってきた。どこにいたのかを聞いたり、どれだけ心配したのかなど一通り話した。
そこで、娘の手に柿の葉寿司が握られているのを見て、
娘「未成年誘拐罪での前科二犯が、「これ、お母さんに」ってくれた」
母「まぁ!娘と本気で交際したい気持ちが伝わったわ」
となるとでも思ったのか!
傍聴している最中はそんな気にならなかったけどけど、改めて見るとこの柿の葉寿司エピソードも相当やべぇな。
家に帰ったら、問題になっていると思っていなかったのだろうか。
ずっと、弁護側は真剣だから仕方ないという方向に持っていこうとするので、検察官にしっかり詰めてもらわないと。
だ・か・ら、それを正してあげるのが大人なの!中学生は隠すの、逃げたくなるの。それを一緒になって付き合ってどうすんだよ。
この人、肝心なところで、さっきは「正常な判断ができない」と言っているその未成年のせいにしちゃうんだよなぁ。
不登校であれば良かったとでも?
もう突っ込むの、皆さんに任せよ…
ちなみに、これらの答弁において、被告人はどんな態度だとみなさん想像します?罪を反省していたり、裁判に委縮してモゴモゴしている人ってのが大半ですけど、
この人は終始堂々としていました。その姿勢自体は悪いとは言いませんが、どうもそれが「私は中学生と結婚したいと思うことに何も恥じていませんから!」という開き直りみたいに見えて、なんともな気持ちでした。
最後に裁判官からの質問です。
うん、君は本当にわかってないようだから教えてあげるね。君が未成年に近付かなければ、未成年に好かれることもないから安心していいよ。
でもちょっとだけ理解できるのが、この被告人って私と同じくゴリラフェイスなのですが、そのゴリラフェイスが優しかったり、話しやすかったりすると「お父さん感」が出てなんか安心されるというのは俺もわかる。
でも、それとは話が違うから。
裁判官かっけぇな。私が長々うだうだまとめられなかったことを、たった2つの質問でスリム化したな。
まぁ二文でまとめてしまっては、読み応え的によくないと思い長文になりました!…と私も被告人みたいな言い訳をしてみます。
最後に被害者の母親からの、今回の件について思いを検察官が代読しました。
被害者母による意見陳述(代読)
この最後の「ありがとう」が、なんとも深い気がして、今回のタイトルにしてみました。
もちろん、言葉の通り無事に帰って来たことによる安堵なんだけど、それを裁判の場でわざわざ言うってことは、母として娘に構ってあげていられなかったという思いがあったのかなと思ったり。
そんなこと口に出したら、被告人に「そうだそうだ!」と言われそうなので、私の心の中に留めておくことにします。
最後に検察官による論告と弁護人による弁論。
論告・弁論
後日、宣告された判決の日にも立ち会いました。
判決
被告人は、刑務所から出たら、今度は法に則りまっとうな交際を目指すと言っていたんですが、どうなるのでしょうか。
被告人本人への矯正教育はもちろんしてもらうとして、被害者はこれからの二年を経てどのように成長するのでしょうか。
と、考えると、当然周りの大人というのは大事。
でも、もし自分が職業としてでなくその「周りの大人」である場合、正しい指導がしてあげられるのか、正直あまり自信はありません。
こういう思いを抱くと、やはり生きていく以上、様々な社会的経験や知識って入れていき続けないといけないなと強く思います。
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