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水深800メートルのシューベルト|第380話

 竜の口元から長く伸びた二本のヒゲのうち、男とは反対側にある方に、黒くて短いスカートの女性が立っていた。黒髪で黒目がちの女性で背が高かった。彼女は、ハンドバッグを持っていない方の手で、短くなったタバコを摘まんでいた。その瞳は一瞬僕を捉えたが、相手が自分の探している人間でないとわかったのか、そっぽを向いて、冷たい陶器のような横顔を向けてきた。


 女の人にあからさまに無視されて気恥ずかしくなったので、数十メートル後方に残した車に戻ることにした。

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