
起業で一番大切なことは『一度決めたことを最後までやり遂げること』
第13回 起業セミナーレポート
セミナー講師:南 彰悟 氏(イデア総研税理士法人福岡支店 支店長)
早稲田大学卒業後、2011年に公認会計士試験に合格、有限責任あずさ監査法人に入社し、上場会社の監査業務や、DD業務、IPO業務に従事。2015年公認会計士登録、その後2020年に税理士登録をしてイデア総研税理士法人に入社。2022年に福岡支店の支店長就任。税務だけでなく、M&Aや事業承継支援、財務コンサルなどを担当。
テーマ:「M&Aや事業承継支援のプロが教える!成功する起業に必要な会社の作り方」
黒字倒産する会社も増えている。それは、なぜか?理由は、誰も引き継ぐ人がいないから。会社をたたむという選択しかない。1社なくなると、お客様、従業員や取引先など多くの影響がある。1社でも多く残すために、また、残された家族や従業員のために、自分が会社を辞める時の会社の譲り方を考えておくことが大事だと南氏は言う。
高く市場や社外に譲るのか、安く身内に譲るのか。選択次第で経営の在り方が変わるのだと。
会社設立時に企業の出口戦略を考える
永遠に自分が働き続けられるわけではない。
会社を作るからには、残された家族や従業員のために、会社を作る時に、最後の出口(ゴール)を考えておくことが重要である。

いつか自分が設立した会社を手放す時に
① ビジネスを譲るのか
② ビジネスをたたみ廃業とするのか
ビジネスを譲る場合は、
① 市場に譲るのか
株式を市場に公開して、誰でも自由に株式を売買できるようにすること。
IPO(Initial Public Offering)、新規公開株式などと呼ばれる。
② 身内(社内)に譲るのか
親族や従業員にビジネスを譲ること。
③ 社外に譲るのか
親族や従業員以外の者や他企業にビジネスを譲ること。
M&A(Mergers&Acquisitions)などと呼ばれる。
どれを出口と決めるかで、設立する会社形態や会社の経営方法など経営の在り方が変わる。
また、一人なら会社を設立せずに、個人事業主という選択肢もある。しかし、2006年の会社法改正により、会社が作りやすくなったこともあり、最後の出口で会社を譲りたい場合は、会社形態の方が価値が高くなることが多いというメリットがある。
設立する会社形態の選び方
会社法で定義されている会社形態は4つあり、責任の範囲が異なっている。

会社が経営破綻した場合、会社の債権者に対して、負債の全ての責任を負う(無限責任)必要がある「合名会社」「合資会社」。
会社が経営破綻した場合、会社の債権者に対して、出資額以上の負債を負う必要がない(有限責任)「株式会社」「合同会社」。
今は、「株式会社」又は「合同会社」で設立する方が多い。
では、「株式会社」と「合同会社」のどちらを選ぶのか?
「株式会社」と「合同会社」の違い
1.「株式会社」について
所有者(出資者)と経営者は異なるのが原則。
みんなでお金を出し合って会社を作り、経営者を選任する方式。
《メリット》
●合同会社より社会的な信用度が高い
●幅広い資金調達方法が使える
●経営が混乱しにくい
●権利譲渡・相続・事業承継しやすい
《デメリット》
●設立・維持のコストが大きい
●経営の自由度が低い
2.「合同会社」について
所有者(出資者)自身が経営を行うため所有者と経営者は同一。
人が集まって会社を作る方式で、人も資源となる。 1人でとりあえず早く安く法人化したい場合は問題ないが、例えば、3人集まって会社を作る場合は、3人全員が経営者として出資しなくてはならず、1人が役員を外れたい、他の人に譲りたいとなった場合は、全員の同意がないと譲渡ができない。子会社は経営の自由度の高さから合同会社も増えており、AmazonやGoogleの日本法人は合同会社。
《メリット》
●設立や維持にかかるコストが小さい
●経営の自由度が高い
《デメリット》
●株式会社より社会的な信頼度が低い
●資金調達手段の選択肢が少ない
●経営の混乱を収束させにくい
●権利譲渡・相続・事業承継しにくい
3.「株式会社」「合同会社」設立手続きと期間

「合同会社」設立は、2週間程度で可能だが、「株式会社」は、公証人役場の定款認証が必要になるため、1か月程度かかる。会社設立日は、法務局へ登記申請書を提出した日。登記完了まで2週間程度、その後、謄本作成、銀行口座開設などの手続きもあるため、会社の本格稼働は、会社設立日から1~2か月かかると考えておいた方が安心。
※定款:事業目的、会社の商号、本店の所在地、資本金の金額等会社のル―ル

企業の出口戦略
ビジネスを譲る場合、誰に引き継ぐのかが物凄く重要になる。また、引き継ぐ10年前から準備をしておいた方が良い。
子どもや兄弟、優秀な従業員など身内(社内)にビジネスを譲る「事業承継」の場合、急に「来年から社長よろしく」と言われても不安で引き継ぎたいと思えない人もいるため、後継者教育の期間を設ける必要がある。
事業承継の動向として、経営者の在任期間が長いほど、親族へ承継する割合が高く、在任期間35年以上40年未満の場合、9割以上に及ぶ。反対に在任期間5年未満の場合、親族以外の役員・従業員及び社外の第三者の割合が7割弱と、親族以外への承継割合が高い。近年の傾向としては、同族承継の割合が減少し、内部昇格及びM&Aの割合が増加している。
社外に譲る(売却する)「M&A」の場合は、会社の価値を上げて高く売るために、会社を良くしていく必要がある。
M&Aはどうやるのか?
同じM&Aでも、やり方によって、会社の持つ一部の事業のみを売却することも、会社自体を売却することもできる。
①事業譲渡
事業の全部又は複数の事業の内、一部を切り離して、他社に譲渡すること。例えば、2つの事業の内、1つを売却し本業に集中したい時や2つの事業の内、価値が高い事業を売却し1つは清算したい時などに行う。個別の契約変更も伴うため、手続きが複雑になり、譲渡まで手間と時間がかかるが、会社自体は売却しないので、経営権は残る。

②株式譲渡
株主が保有する株式を譲渡することであり、会社自体を売却すること。株主が入れ替わるだけのため、事業譲渡の手続きと比較すると手続きは簡単であり、中小企業は株式譲渡を行うことが多い。ただ、M&Aを円滑に進めるためには、株式が複数人により保有されている場合、株式を買い戻し集約しておく必要がある。

売却価格はどう決まるのか?
上場企業の場合、市場で株式が取引されているため、市場での取引価格が時価となるが、非上場企業の場合、中小企業の多くは、時価純資産+営業権法(年買法)を使うことが多い。
①時価純資産とは
今までの価値であり、20年経営していたら20年頑張ってきた成果。例えば、購入時1,000万円だった土地の今の価値が5,000万円なら、+4,000万円と評価する。
②営業権とは
今、毎年どれくらいの利益が出ているか、営業利益を用いる。
M&Aでの売却価格は、時価純資産に営業権の3~5年分を足すことが多い。理由は、1年間500万円利益を出せる会社だと、3年間で1,500万円稼げる。M&Aで購入した会社は、毎年利益をもらえるため、購入時に3~5年分程度の営業権を支払うことが多い。M&A時の会社の価値は、「これまで頑張ってきた分(時価純資産)」+「今後どれだけ収益を出せるのか(営業権)」をもとに決まる。
会社を高く売るためにすること。
会社を高く売るためには、時価純資産を高くするか、営業権を高くするか、のどちらかしかない。

①時価純資産を高くする方法
これまでの会社の利益の積み上げのため、今からすぐに改善するのは難しく、設立当初から会社に利益を残す体質にすることが必要である。方法としては、稼いだ報酬を将来売却のためにある程度会社に残しておくなど。ずっと赤字や売上はあるが利益が少ない会社は純資産が債務超過なことが多く評価がつかないため、売りたくても売れない状態となる。その時に鍵になるのは、営業権を高くすることである。また、事業承継で親族や従業員へ承継したい場合は、承継者が株式を買い取らなければならないので、純資産が低い方が承継しやすい。
②営業権を高くする方法
直近3年の平均営業利益がベースとなるため、M&Aをする数年前から準備をする必要がある。買い手は、自分達の不足を埋める目的でM&Aをするため、定量的な部分だけでなく、定性的な部分も評価される。評価事例として、新規開拓せずに顧客を増やせる、経験のある従業員を獲得できる、資格や権利などを獲得できるということもあるため、営業権を高くする方法として、企業ブランド力を磨く、従業員育成、顧客開拓、無駄な経費を抑える、経営計画を立てるなども大事になる。さらに、自分達の価値に気づいていない場合もあるので、外部の人の話を聞くなど、自社の魅力を見つけることも大事。

参加者からの質疑応答
Q.「合同会社」設立後に「株式会社」へ組織変更できますか?
A.組織変更はできるが、「合同会社」は社員全員の同意が必要になるため、一人でも反対するとできない。
終わりに
M&Aは、買い手が実現したい「価値」の提供です。対話の中で、買い手が何を欲しているのか、時間をかけて掘り下げて話すことで、買い手の「本当の目的」を理解して、その価値を提供します。それができた時に、自分達が大事にしてきた会社を価値あるものとして高く売却することが可能になるのでしょう。
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