見出し画像

私を支えた「ミュージシャン本」たち/椎名林檎,YUKI,BUMP OF CHICKEN...

自粛要請によって終わりの見えない引きこもり状態が続いているいま、なんだか中学生の夏休みを思い出すなぁ、とふと感じました。
ただ時間だけはあったあの頃。
焦燥感と無気力が交互に訪れて、何かしなきゃ、何か作りたい、という欲が先走っていた自分。

そんな日々の中で、中学生だった私が何かのヒントを求めてしがみつくように読んでいたのは、好きなミュージシャンの本ばかりでした。

10代の頃、周りの大人が「読書する子」をやたらと褒め讃えるのに違和感があったからなのか、
私は自分が本を読むことがきらいなのかも、と思い込んでいた時期がありました。
たしかにその頃は、雑誌を読んだり、音楽を聴いたりしているほうが楽しかった。
でも、雑誌や音楽の中で何かをもっと知りたくなったとき、もっとヒントがほしくなったとき、手を伸ばすのは不思議と本でした。
私の好きなものについて書かれているのは、
学校の課題図書の中には入ってない、
大人に薦められるような本じゃない。
好きなミュージシャンの本は、宙ぶらりんな自分を支えてくれるような気がしたのです。

BUMPの「藤くん」は思春期の神だった

「何かしなきゃ」「自分が変わらなきゃ」という気分を奮い立たせてくれた、という最初の記憶があるのは、中3の頃に読んだこの雑誌(特集)でした…

『ROCKIN'ON JAPAN』に掲載された、BUMP OF CHICKENにヴォーカル・藤原基央さん2万字インタヴュー…
今Amazonを見るとなかなかのお値段がついている…!
当時(2005年)の私はBUMP OF CHICKENの大ファンで、初めて行ったライヴもその頃のBUMPでした。
藤原基央さんの書く、神か天使のように超越した視線から弱い自分に寄り添ってくれる詩世界に幾度となく支えられ、どんな人からこんな曲が生まれるんだろうといつも注目していたのです。

これはよくあるミュージシャンの長編インタビュー記事なのですが、生い立ちから活動遍歴、最新の作品解説まで突っ込む内容で、好きなアーティストからちょっとでもヒントを吸い取りたいというエネルギーが凄かった思春期の私には、とてつもない栄養源でした。

考えてみれば、もっと成長したいけどうまく進めない、とか、頑張りたいのに身体が動かない、というようなとき、私はいつもミュージシャンの本を読んでいる気がする。

そんな本を読みながら、好きなものと好きなものが繋がるのを実感して、さらに深くdigることを続けて…
遠回りしながら、10代の頃の課題図書にあった「名作」の中にも好きなもののルーツがあったんだな、ってことに気づいていくのです。

前に進めないぼんやりとした日々の中、救いを求めるように読んだ本こそが、今の自分も無駄じゃないよって囁いてくれる。
学校では教えてくれない本だって、私にとってはバイブルだ。

2020年春のいま、私はまた無意識で、いろいろなミュージシャン本に手を伸ばしていました。
私の好きなアーティストに偏ってしまうかもしれませんが、それぞれにカルチャー的な関連性もあるので、おすすめをご紹介します。

女として、表現者として…椎名林檎

椎名林檎さんのデビュー10周年を記念して刊行されたインタヴュー集。
(私が大学生になって最初に大学の書籍部で購入したのは、授業に関する本ではなくてこの本でした…。)

ロングインタヴューのほか、過去の発言から印象的な一節ずつを抜き出して名言集のようにまとめたページが印象的。

「大っ嫌いって言われるのと大好きって言われるのは、同じくらいうれしいことじゃないですか。そういうふうに言っていただけるものを、常に作らなければいけない仕事だと思っているので。J-POPである限りは」
(『RINGO FILE 1998-2008』rockin'on/2007年1月のインタヴュー)

10代の頃からの林檎さんの言葉が詰まっているので、やっぱり私自身10代のときに触発されました。
林檎さんは19歳でデビューして瞬く間にミリオンヒットを飛ばしたようなアーティストですが、考えていることはご本人が「普通」とおっしゃるように、本当に自分に近かったりする。
だから曲を聴いたり言葉を読んだりして、それが憂鬱だったり過激だったりしても、どこか安心するような気分になるんだと思う。

「こういう方法でいくしかないんだって10代の頃に気付き始めて。で、曲がどんどん出てきてさ、『私はもうこれしかやることがないんだ』とか思ってるうちに、『もっとすごいことができる』と思ったのかもしれない。すごい小っちゃなこともあるけど、ほんとにバカらしい大それたことも考えてたかもしれない」
(『RINGO FILE 1998-2008』rockin'on/2000年のインタヴュー)


こちらは2014年刊。
雑誌『SWITCH』に掲載されたインタビューをまとめたもので、聴き手は内田正樹さん。
東京事変での曲作りに悩んでいる様子や、子育てのこと、様々な男性アーティストとコラボするときのスタンスなど、より具体的で参考に(?)なります。

「誰かと一緒にスタジオで制作するっていうのはセックスみたいなものだから。こうしなきゃああしなきゃって言い過ぎると服も脱げないでしょ? そこは一番気をつけます。あまり褒め合うのも駄目だし、自分だって緊張しちゃうもの。そもそもオファーしている時点で、相手が魅力的だという前提は間違いないわけですから、あとは変に空回りしないよう、どうベッドに持ち込むか。誰かに何かをお願いする時は、むしろそこしか気にしていないです」
(『音楽家のカルテ』Switch Library)

↑一番と言っていいほど好きな名言!

ガールズ・パワーの根源! YUKI

YUKIさんの「Girly」シリーズは、JUDY AND MARYやYUKIのファンでなかったとしても読んで楽しい本たちです。

この本、どっかの(たぶん福岡)ヴィレッジヴァンガードで、「アイドルになりたいとは思わないけど、YUKIちゃんにはなりたい!」と書かれたポップと一緒に並べられていたのがずっと記憶に残ってる。

そして帯には、「いじめも失恋も停学も、50キロの体重もピアスの跡も、全部元気のPOWER SOURCE!」というコピーが。
この煽り文句に、10代の頃「こんな私でもいいんだ」と(なぜか)何度励まされたことか…!

『Girly Rock』はYUKIの半生(ジュディマリがヒットするまで)が宇都宮美穂によって小説調で綴られた一冊です。
YUKIは音楽的なことだけでなく、自身の恋愛エピソードとか、ダイエットの話とか、包み隠さず取り繕わず語ってくれるのがいい。

その後のストーリーが小説タッチで描かれているのは、『GIRLY★FOLK』です。

そして私はYUKI自身が作るプリ帳のようなコラージュやイラスト、エッセイが好きなんです。
それはこのへんを読むと存分に楽しめます。 

食べたもののこと、恋愛観、オフショット…
直筆の連載「YUKIの果てしないたわごと」をまとめた部分も細かいところまで読み応えがあって楽しいし、「ホテル」「引っ越し」「料理」「喫茶店」などさまざまなキーワードについて1ページに短く綴るコラムも好き。

「ていねいな暮らし」っぽいところもあれば、ばーんと大胆なところもある…そのバランスが本として心地よいし、YUKIの魅力でもあると思う。

バンドブームの寵児・大槻ケンヂ

バンドブームのことが知りたくて読んだ、大槻ケンヂさんの自伝的小説。
先ほど触れたJUDY AND MARYもバンドブームの流れのなかにありますね。

90年代始めのバンドブームの渦に巻き込まれ、無名だった若者=大槻ケンヂ(筋肉少女帯)が一夜にしてスターになる、その栄枯盛衰が描かれている(衰、と言うのは語弊があるかも。バンドブームの勢いは消えても、大槻ケンヂさんは活躍し続けている)。
何もない「バカが服着て歩いていた」時代から、デビューの華々しさ、プレッシャーや混乱、そして恋…それが終始、軽快でユーモアにあふれ、ちょっと遠くからニヒルに見つめるようでありつつも時にエモーショナルな文体が彩っています。

不意に手に入れたデビューや名声が、けっしてゴールではなく、むしろむこうは荒波の断崖絶壁にたどり着いたに過ぎないのだという事実は、若者を不安な想いに駆り立てるに十分過ぎた。実際に、急激に人気をなくし、早くももとの、食えないバンドマンに戻る者も多数現れていた。失速の原因は周りにも本人たちにもわからない、神様がいいかげんにサイコロを振って決めているようにしか思えないのだ。不運(?)のサイコロは僕らの頭上を転がり続け、やがてゆっくりと、だが確実に、誰かの上でピタリと止まるのだ。
(大槻ケンヂ『リンダリンダラバーソール』新潮文庫)

注釈の豊かさ、そして登場する固有名詞の豪華さも楽しいポイント。
10代20代の若者だったころのオーケンさんが目撃してきた人々や場所がリアルに思い描けて、テレビなどで知っていた人の意外で素敵な一面が覗けるようなドキドキ感があります。

誰もがサブカルチャー史の一部だ。アーバンギャルド

そんな筋肉少女帯を聴いて育ったと自身でも語っているバンドがアーバンギャルドですが、そのメンバー・松永天馬さん、浜崎容子さん、おおくぼけいさんによる初のバンド自伝がこちら。

ここ30年くらいのサブカルチャー史を網羅するような注釈が凄い、との告知を見て最近購入しました。

私はアーバンギャルドの音楽が本当に好きなので、純粋にバンド史としても事細かに暗記してしまうくらい面白かったのですが、
これを読むと酒鬼薔薇事件や東日本大震災など、さまざまな社会的背景と音楽(・サブカルチャー)との影響関係を、実感をもって理解することができます。
(そういえば9.11の同時多発テロが母である自分自身や音楽に及ぼした影響については、先に触れた『RINGO FILE』の中で椎名林檎さんも語っていましたね)

何より今までに挙げた書籍とこの本が違うのは、アーバンギャルドのメンバーは10代20代でいきなり大ブレイクしたのではなく、紆余曲折と葛藤を経てさまざまな活動を展開してきたこと。
苦悩も失敗も納得がいっていないことも、赤裸々に語られている。
そしてその紆余曲折があるからこそ、膨大なサブカル的キーワードがエピソードの中に織り込まれるのではないかなぁとも思います。

「少女元年」は(中略)、「自分の時代を生きましょうね」っていう応援歌……という言い方は嫌ですけど(笑)、実際そういうものなのかもしれない。自分自身が主人公である人生を生きようという、ある種のメッセージソングかもしれない。世の中は、変わらないことを諦めていると思うんです。選挙にいっても政治が変わらない、声を発しても世の中は変わらないという空気が蔓延している。時代や世界を変える一番簡単な方法は、自分自身を変えることなんだよ、と。
(『水玉自伝』ロフトブックス/松永天馬インタヴュー)

そしてこの本は、滑り込み的にでも、いまのコロナ渦について初めて触れたバンド本なのではないでしょうか…!
その点でも、どこか心強い気分になれるのです。

サブカルに支えられるタイプだから、今までに紹介してきたようなミュージシャンの本を読む私。そんなミュージシャンたちのことは、すべてこの『水玉自伝』の注釈に載っているではないか!

自分自身もサブカルチャー史の一部に巻き込まれているのだと…さらにメタ的に俯瞰できるような本でした。

= = =

私がミュージシャンの本を読むのは、音楽が好きだからでもありますが、自分を支えてくれている音楽を作っている人もまた、悩んだり、ダメな時期があったり、平凡な生活者であったり、同じカルチャーを受けてきていたり、そういうところにリアルなヒントが見つかるからだと思います。
そこから私たちの日常を照らしてくれる音楽が生まれるわけだから、本の中で語られるノンフィクションがどんな内容であれ、残るのは希望なんです。

不安で閉塞的な時期にこそ、「安心」と「刺激」が必要です。
ミュージシャン本は、その両方をくれる。

これを読むべき、とか、何冊読むべき、とか、他人が作ったルールをROCKに壊しPOPに爆発させて、生き抜くための本に出逢いましょう!

======================

PROFILE
大石 蘭 / ライター・イラストレーター
1990年 福岡県生まれ。東京大学教養学部卒・東京大学大学院修士過程修了。在学中より雑誌『Spoon.』などでのエッセイ、コラムを書きはじめ注目を集める。その後もファッションやガーリーカルチャーなどをテーマにした執筆、イラストレーションの制作等、ジャンル問わず活動中。









この記事が参加している募集

読書感想文

記事・執筆活動への応援サポートをよろしくお願いします。 今後もより良い執筆に役立てていきたいと思います!