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平成のとんかつ 豚肉奮闘編1

巻頭の画はロゼに仕上げたヒレカツのプレスサンドイッチに豚ロースのポテトサラダを添えました。


さて、自身の舌が確信となり「美味しい豚肉」が決まりました、銘柄をA豚としましょう。

シンプルで歴史ある料理「とんかつ」。どれほどの先人の努力でいろいろな形が作られてきたのでしょうか。

はじまり物語を紐解くことはしませんが、

美味しい「とんかつ黄金律」というような間違いないストライクゾーンはある程度はなぞっていかないといくら時間があっても足りません。

店舗物件も決まっているプロジェクト、ほぼ半年後には開業というスケジュールでした。

販売価格の策定を含めた料理そのものは商品政策、その他店舗のインテリアデザインや厨房設計の考え方、アルバイト・パートさんの募集や教育などの営業計画、店名やメニューなどグラフィック関係、開業告知販売促進から投資収支計画などなど「とんかつ屋」として全ての筋書きを同時にアップしなければいけません。


とは言っても主役となる「とんかつ」そのものが全て、

豚肉、下味となる塩、下粉、卵、パン粉そして揚げ油。以上です。


「とんかつ屋を作って欲しい」、と命じた社長にはかなり以前にお気に入りのお店があったとのこと。それは20余年以上前、都内でも最大級の現場(店舗)の責任者だった頃の社長の行きつけにしていた個人経営店の話です。

飲食に携わる者、当然美味しい秘訣をご主人から少し聞き出したそうです。

出入りしていた肉屋には数本のロースを持ってこさせ、そこからさらに何本か選定し置いていかせたとのこと、此処で主人の目利きがあったのですね。

当時は銘柄豚の認識などまだまだ低く、とんかつが調理人の長年の経験やカンなどに委ねられた時代と考えれれます。

そして選んだロース肉は「冷蔵庫で寝かされ」ました。

主人一人にスタッフが、のような店舗という話でしたからパーシャルやらチルド、氷温などという保存設備ではなく、当たり前の業務用冷蔵庫だったはずですね。


魚も同様ですが、俗にいう「活しめ」状態では素材の旨味よりその鮮度による歯応えや食感が優ってしまいます。

このプロジェクト以来、多くの試作食を繰り返してきた私自身、とんかつという調理工程を経てもこの「寝かす」工程が少ないもの、納品直後のものは「鮮度、新鮮さと瑞々しさはあるが旨味がそれに負けている」「旨さが弱い」と痛感した瞬間が幾度もありました。


さて主人は選定した豚肉をどんな温度で、どれだけの時間「寝かし」ていたのか。

美味しい料理には必ず理由があります。でもそこでは数値化される事なく、目で見た状態や手触りなどの感触から最適のタイミングを測っていた筈です。

熟練、匠の技には仕入れの目利きから仕込み前までにもこの必須がありました。


「寝かす」こと。俗には熟成などという言葉で巷では牛肉を初め様々な食材や調味料などに使われています。

「熟成」。食材そのものの特性、時間や温度、湿度などの状況によっては腐敗や痛めてしまうこともあります。

未だ確かなガイドラインが引かれていません。可能性の反面、十分に注意を払い慎重な取組が必要であるという事です。


さて美味しいタイミング、熟成の塩梅をどう図るかを私は商品開発の一つの大きなテーマとして掲げました。

ここから更に深掘りして、駄文が右往左往、行ったり来たりしていますが、開業日が決定の下で私が考える美味しい「とんかつ」ミッション、仕上げなければならない多くの事を同時に押し進めなければなりません。


銘柄A豚のロース肉1本は5kから5.5kありました。これを商品開発期間となった開業日までの約半年間にわたり週に三、四本。月曜から土曜日にかけ試作食し続けました。

秋から春に向けたこの期間、女房の理解もあり月曜から土曜までの晩飯晩酌は全て湯豆腐でした。もちろん朝食はほぼ無しです、冗談のようですがこれが年末年始の一週間を除いて毎日です。そして風邪をひくことも体調不良も一切ありませんでした。

14時ぐらいから17時まで本社テストキッチンで、サポート調理長の渾身の協力で日々喫食量にして500から800gほどのとんかつを私の考えるさまざまな仕様で調理し試作実食し続けました。一枚約150gで食べたのは真ん中、両端の3カット、口直しには山盛りに準備された千切りキャベツです。

一本5kのロース肉から可食部分が9割として4,500g、一枚約150gで30枚、週三本の納品で計90枚を6日、1日15枚換算です。これをほぼ半年間続けました。

このテストキッチンは大型の異なる業態の店舗とともに本社ビル内にあり、試作食したとんかつは同時に多くのスタッフの胃袋を満たし営業への英気を養いました。

美味しい豚肉のとんかつは試作品でも大変好評だったと記憶します。

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このプロジェクトに賛同とあり得ないほどの協力を頂いたA豚を扱うF社の担当から開業暫くして「これほどに試作したとんかつプロジェクトはかってなかった」と耳打ちされました。

オリジナルパン粉や選定した塩、揚げ油の選定などと共に、このプロジェクトで私がキモと考えていた「寝かす」、「熟成」について言葉にする事が多くなったそんな頃にサポート調理長がある仕込みをしていました。

ある日、テストキッチンの冷蔵庫からキッチンペーパーで包まれた一本のロース肉を私の前に出しました。

「一週間ほどしまっておきました」と。

表面に変化があり、その周りを削り下ごしらえ施し、そしてとんかつにしました。

いろいろな試みの下、ここまで多くのとんかつを食しましたが、明らかに旨味が増えていました、「美味しい!これだ!」と。

美味しい豚肉を、更に美味しい豚に。

つづきます・・・・









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