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南アルプスの女王への旅路をポンポン山から始める【2012.02 ポンポン山】

またいつかいつか、そう想っているだけでは何も起きないことに気づいた大学の冬。教室に行けば先生がいて何かを教えてくれ、グラウンドに出れば練習ができる、その場に行けば誰かが施しをしてくれる環境にはもう戻れない。そうやって南アルプスの女王、仙丈ヶ岳を目指すことにした。

森林限界を超えて、稜線を縦走する。甲斐駒ヶ岳や鳳凰三山を横目に見ながら、太古の氷河の痕跡、藪沢カールを目指す。アルプスを表現する言葉には日常離れした言葉が連なる。言葉との距離はそのまま日常との距離であり、その言葉を口にするだけで、一陣の爽やかな風が吹き抜けるような気分になる。言霊、みたいなもの。気持ちがもっていかれる。

とはいえ登山には2回も失敗していることもあり、夏の登山に向けて真面目に計画と準備を進めた。幸い、関西圏にはバリエーション豊かな山がそろっているので、いろんな地形的シチュエーションを楽しめる。私は、例の砂丘の友人といっしょにポンポン山から始めた。

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夏までにやらなければならないことは、装備の取捨選択、消費水分量や食料の把握、行動可能時間を延ばすこと、山での歩き方・ペースの確立、自分なりに服装調整をすること、天候の予測、地形図を使った適切なルート計画など、要点を絞って検証を重ねることにした。

「鏡の法則」という言葉を高校のときの担任の先生が言っていたのを思い出す。入ってくる光以上のものは返さないのが鏡であるように、なんの想い入れのない物事が自分に何かを返してくれることはなく、逆に想い入れが深いからこそ、喜んだり悲しんだりするのだ。行動した分だけ返ってくるものがある、行動もしていないのに結果に対してつまらないだの言うのはおかしいということだ。ポンポン山で踏み出す1歩が、南アルプスへと繋がっているという、その私たちにしか見えない道程が、私たちの登山を豊かにしてくれた。

ポンポン山の登山はというと、それほど変わったことはなく、あっけないほどに順調にいった。

そこに山がなければ決して乗らないであろう路線のバスに乗り、降りるのは終着地点。バスの果てに登山口はある。そういう果てまで来た緊張感や初めてのプチ雪山体験、寒くてこまめに小便行きたくなる感じ、地図通りの地形が目の前に広がっている面白さ、改めて見る山の景色は以前とはぜんぜん違った。二人ですごく楽しんだ。小さなことの発見、その積み重ねがとてもうれしい。

ポンポン山の名前の由来は諸説あるが、ポンポン山を歩くとポンポンいい音が鳴るから、という説を気に入っている。山頂に着いたとき、おれら男二人は山頂をジャンプしたり歩き回ったりして、「ポンポン鳴らんな」とはしゃいでいた。青春を終えた二人の、無邪気な登山だった。

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