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生活と文化、そして自然による相互作用【2015.01 剣尾山】

大阪北端の山、剣尾山。京都や兵庫との県境付近にある山で、大阪とはいえど、土地柄は兵庫の丹波篠山の文化圏に近い雰囲気を感じる。修験の山とされるだけあって、岩場の露出した険しい山容をしている。能勢電鉄山下駅よりバスに乗り込み、登山口を目指した。麓には集落が広がっているため、生活の息づかいが感じられる。

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修験の山とはいわれるが、標高は決して高くはなく、里山的景観の続く丹波篠山地域の延長にあるかのように聳えている。アカマツの分布が目立ち、広葉樹による二次林が広がっている。つまり、修験の山として宗教的利用がされてきた一面、集落の人々による生活的利用もされてきたが、薪利用がなくなってからは広葉樹林に手をつけなくなり、広葉樹が育ってきたのだと思う。

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炭焼きの跡地もみられる。丸太が転がっているのをみると、いまでも手入れをしている人がいるのがわかる。良い山ではないが、山を大事にしている人がいるということが何よりも大事なことだ。人々の生活と文化、その営みが剣尾山の自然的景観を形づくり、その相互作用によって、いまの山がある。

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天候が下ってきた。風が吹きはじめる。

ひとつとして同じ生活や文化がないように、この風もまた、この土地にしかない温もりや冷たさ、匂い、湿度、そうしたものを運ぶ唯一無二の風だ。どこからやってきて、どこへと向かうのだろうか。風の行方は、誰にもわからない。

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雪が降り始めた。立地が少し違うだけで、劇的に気候が変わるのが山岳地の常である。私たちのもつ土地の名前と天候のイメージは、人口の集中する平野部の多数派のためのイメージであり、日本の面積の7割近くを占める山林には、そのイメージは当てはまらない。


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山岳地形が日本の国土にもたらしたダイナミックな環境と、尾根や谷で構成される細かく微細な地形が、多種多様な気候条件を生み、生物多様性の源泉となっている。剣尾山にも、短時間で雪が降り積もるほどの寒気と湿度が流れ込むようで、あっという間に冬山へと様変わりした。

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とても静かに、それでいて劇的に、風景は一変した。雪に染まった登山道に足跡はない。前にも後にも、真っ白な雪だけが広がっている。その場に立ち尽くすだけの価値がある時間に、私は身を委ねる。何かが生まれる時間ではないが、何も生まれない時間の流れに、私たちは何か学ぶものがある気がしてならない。

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下山途中に振り返った剣尾山の山容が、綺麗な三角錐をしており、修験の山として信仰の対象となった理由が垣間見れた。こういう幾何学的形に対する美的感覚は人類共通なのか、富士山がある日本ならではなのか、とにかく期せずして目の辺りにした秀麗な剣尾山の姿は、いまでも心に刻まれている。

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