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#4 デジタルならではの「エセ芸術家」-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載

本連載は、Nintendo Switch向けソフト「レッツプレイ!オインクゲームズ」の制作過程をまとめたインタビュー記事です。2022/4/1から4/29まで、全5回にわたって毎週金曜日公開で連載していきます。冊子版はゲームマーケット2022春のオインクゲームズブース、およびオインクゲームズ公式オンラインショップで発売予定です。今後も追加タイトルについての記事を更新していく予定ですので、気になる方はぜひマガジン登録を!

本記事は、#3 スピード感ある開発の秘密-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 からの続きです。

インタビュー その2 (エセ芸術家ニューヨークへ行く、この顔どの顔?)

エセ芸術家とこの顔どの顔を追加タイトルに。

-「エセ芸術家ニューヨークへ行く」がリリース時のタイトルとして追加され、「この顔どの顔?」をアップデートでの追加タイトルとしたのは、どんな経緯がありましたか?

 (佐)「エセ芸術家ニューヨークへ行く(以下、エセ芸術家)」をリリース時に間に合わせようと思ったのは、among usのような人狼的ゲームを知らない人同士、いわゆる「野良」で遊ぶ流れができてきていて、同じように正体隠匿系のメカニクスをもった「エセ芸術家」も、ボードゲームという文脈じゃない方向からの流入を期待できるタイトルかもしれないと思ったのが理由です。人狼などの正体隠匿ゲームが、そもそもボードゲームを遊んでいる層より広いお客さんを持ってる文化だなというのは常々感じていました。「エセ芸術家」はテキストチャットがなくてもプレイできる正体隠匿ゲームなので、これが入っていたら良さそうだなと思いました。

 ボードゲームをコンソール化する時に、ボードゲーム文脈からデジタルへ、ということを考えていたんですが、普通にコンソールに出るゲームとして見たときに「エセ芸術家」はパワーがあるんじゃないかと思ったんですよね。売り上げ的にも、世界的には「海底探険」の次ぐらいにメジャーなタイトルなので、次に入れるなら「エセ芸術家」だなと。 リリースしてみて、やっぱり入れてよかったと思いました。最初の4本のバランスも良かったですね。「エセ芸術家」なしではボードゲーム層にしか訴求できなくてきつかったかもしれません。これがなかったら実況とかで取り上げられる機会も少なかったと思うので、年末に入れて出せたのはよかったですね。

 「この顔どの顔?」は、「エセ芸術家」からの流れです。ボードゲームをほとんどやらない人でも楽しめるて、さらには実況を見ているだけでも楽しい、みたいなタイトルをもっと入れておきたくて、「エセ芸術家」よりさらに簡単な「がんめんマン」を選びました。3月17日の無料アップデートで追加されるタイトルです。
その次に考えているのは「藪の中」ですね。ブラフ系、人の嘘を見抜く系のタイトルがあんまりないなと思っていて。バリエーションとしてもちょうど良いし、要望の声も大きいし、オインクゲームズを代表するタイトルの一つなので、追加を考えています。

 -「エセ芸術家ニューヨークへ行く」のデザインの考え方について教えてください。

 (佐)追加タイトルに関しても、僕が作ったコンセプトデザインを新藤さんに渡して、詰めていくという流れでした。どこまでパッケージ版を踏襲するかということが、コンセプトをつくるときにまず考えたことです。他のタイトルは、コンポーネントのデザインをほぼそのまま使ってデジタル化したんですよね。でも、「エセ芸術家」に関しては、お題はシステムから出題されるようにしたかったし、パッケージ版のコンポーネントにこだわる必要がないんじゃないかと思いました。それで、より作品の雰囲気に合うように、キャンバスや絵筆を使うデザインにして、ボードゲーム版とは全然違う見た目になりましたね。ざっと画面レイアウトを作って、新藤さんに渡しました。

 (新)他の3作はリアルコンポーネント路線だったので、こういうのもありなんだなと思いました。そこで、「エセ芸術家」は元々のボードゲームの雰囲気は重視せず、デジタルゲームとしての遊びやすさを念頭に作っていきました。他のタイトルと大きく違うのが、正体隠匿なので、全員が同じ情報を見ているわけじゃないというところですね。芸術家とエセ芸術家という、2種類の役割があって、それぞれ見ているものが違う。お題を決めるフェーズ、確認フェーズ、回答フェーズなど、意外とフェーズがたくさんあって、それぞれ画面を作っていくのがけっこう大変でした。
フェーズが多いのと、人によって見てるものが違うのとの掛け合わせで、この時のこの人の視点だと何が起こってるかわからない、みたいになってることがあったので、作りながら表示を足したりしていきました。例えば、エセ芸術家のプレイヤーがお題を確認する前に絵を確認している時間とか、他のプレイヤーにとっては、何も表示がないと画面が止まったように見えてしまうんですよね。

 (佐)他の3作に関しては、ボードゲームのコンポーネントをそのまま使った方が遊びやすいんですよね。「海底探険」ならチップの裏表という属性が大事だし、ダイスとかも、あの形で出ることが大事。「スタータップス」も、カードに裏と表があり、それが何枚残っているかというフィジカルなコンポーネントに依存したゲームデザインなので、それを使うのがメタファーとしてわかりやすい。テーブルゲームを一緒にやってる雰囲気も出したかったですし。一方「エセ芸術家」はそのメタファーを必要としません。テーブルの上に紙を置いて囲むという案もあったのですが、8人とかを並べるのが大変で。それなら、全然違う雰囲気でやった方が合理的なんじゃないかとなりました。

「エセ芸術家」のコンセプトデザイン。オリジナル版とは違った、キャンバスや絵筆の使われたデザインになっている。

芸術作品を演出するUIとリザルト画面のこだわり

-オリジナル版とはだいぶ雰囲気が違っていますよね。

(佐)プレイ画面とか完成した画面に関しては、リッチな感じ・・・芸術家たちがキャンバスを囲んで描いていて、美術館に飾られるみたいなイメージですね。お題はアクリルで、金で飾られているような雰囲気にしました。

(新)それに合わせて最初のお題の選択のところでも、アクリルで候補が6個並んでいるものを作っていたのですが、それはリッチすぎるということになりましたね。

(佐)プレイ画面とか完成した画面はリッチにしたかったんですが、他のところにも汎用的に使われているのはちょっと重かったんですよね。リザルト画面に関しては逆にリッチにしたくて、解像度*を高くしたりと調整しました。

(浦)「エセ芸術家」のリザルト画面に使われている画像の解像度は、かなり高いものになってますね。

 (佐)大きい画面で遊ばれると、解像度が低いのが分かってしまうんですよね。デザイナーとプログラマーで、解像度のやり取りは色々ありますよね。データは小さくしたいけど、綺麗に見せたい。一枚絵だと解像度が目立つから・・・額縁だけ別画像にするとか。リッチに見せるところはリッチに、それ以外はフラットにしていく調整をしましたね。

*解像度とは:ここでは画像の解像度を指しており、 大きければ大きいほど、細やかで綺麗な表示ができる。

 -リザルト画面はこだわって作られているんですね。

 (佐)リザルト画面では、描いた絵が美術館に飾られたくて。感想戦が面白いと思うし、リザルト画面はSNSなどでシェアされやすいと思うので、豪華な感じにしたかったんですよね。エセ芸術家が混ざっているコラボレーションだけど、美術館に飾られちゃっている、というのも面白いじゃないですか。

 (新)感想戦といえば、このゲームでは、エセ芸術家がバレずに勝ったとしても、どのお題だったと思うかというのをエセ芸術家に聞くようになっているんですよね。それを正解するかは勝敗に関係ないのに、わざわざ聞くんです。このゲームへのこだわりを感じますよね、どういうゲームなのかという。

 (佐)なんだったと思う?って聞きたくなるんですよね。このゲームって、エセ芸術家にバレないように描くゲームじゃないですか。ちゃんとバレていなかったか最後に確認したいなと。エセ芸術家は、正体がバレなければそれで勝利ですが、それで終わってしまうと、芸術家側からすると「エセを見破れなかった」というフィードバックは得られるんですが、エセにお題が伝わらなかったかどうかのフィードバックは得られない。そこは知りたいところでもあるし、次に遊ぶときのためにも知れた方がいいんですよね。最後に「ちなみにこれはなんだったと思いますか?」という問いは必要だなと思いました。

それから、回答の選択肢を何個にするかという問題もありましたね。オリジナルオリジナル版では回答はフリーワードとして答える場面ですが、デジタルだとそれは難しくて。でも例えば、3択だったらわかってしまうし、100個だったら多すぎる。その間のどこが最適かというところで、今は18になっています。なるべく多く、でも、ちゃんと画面に収まって見づらくならない量です。本当は20入れたかったんですが。それと、絵を見ながら答えさせたくなるところを、絵を隠して選択肢を選ばせるようにしたというのも工夫した点です。絵を見ながら選択肢を眺めていると、なんとなく答えが分かってきちゃうんですよね。それでエセ芸術家のプレイヤーには、お題はこれだ、と決めてから、選択肢に入ってほしくてそうしています。

(浦)リザルト画面では、スクショ用にお題を隠せるボタンをわざわざ準備しましたね。

 (佐)浦さんが実況文化に詳しくて、その仕様を準備しました。SNSで答えを隠したリザルト画面を「これは何だと思いますか?」と上げてる人、たまに見かけますね。

「エセ芸術家」のリザルト画面。絵が美術館に飾られているような雰囲気。お題を隠した状態でスクショできるボタンが用意されている。

 -お題が用意されていて、マスター(出題者)が必要ないというのも、オリジナル版からの大きな違いですよね。

(土)マスターがいなくなって、プレイ人数が変わっていますね。オリジナル版と少し変わっているのが、得票が同数の場合の処理です。エセ芸術家と芸術家が同じ得票数の場合、オリジナル版ではエセ芸術家が負けなのですが、デジタル版ではエセ芸術家が勝ち、になっています。

 (佐)オリジナル版ではマスターがエセ芸術家の味方というルールだったのですが、それがなくなってエセ芸術家が厳しくなってしまったので、エセ芸術家を少し優遇することにしました。それと、基本的にはこのゲーム、エセ芸術家が勝った方が良いゲームだと思っているというのもありますね。心理的な負荷が、全然違うので。

(浦)お題は全部で19カテゴリあって、それぞれに2-30個のお題があります。

  (佐)世界の人にわかるお題にしなきゃいけないのが難しかったですね。

 (浦)日本語では違うのに、翻訳で同じになっちゃう言葉とかもありましたね。あと、プテラノドンが英語圏ではあまり有名じゃないと指摘されて省いたり。 

 (土)想像上の生物やおとぎ話とかも、文化に依存するので難しいですよね。

 (佐)お題としては人気があるんですけどね、意外と知らないんですよね、メデューサ知らないとか。マチュピチュとかビッグベンみたいな観光名所も、よく知らないって言われる定番ですね。

(土)カテゴリは、同じカテゴリが連続すると嫌だなと思って、投票形式にしています。その中でランダムに決められていますね。 

デジタルならではの描画線にこめられた工夫

-デジタルならではの工夫は、それ以外にもあったのでしょうか。

(新) ペンは最初、色の違いがあるだけでした。全体的に色には配慮していて、見分けづらい色は入れないようにしてるんですが、8人となるとどうしても見分けづらい色が出てきてしまって。そこはオリジナル版のコンポーネントでも配慮し切れていないところで、どうにかしたいなと思っていました。判別しやすい8色を選ぶのが難しいので、何かしら、色以外に目印になるものを入れたくて。まず思いついたのは、書いた線に丸とか四角とか図形のパターンを入れることです。でも、例えば赤い線に丸のパターンが入っていると、タコの足みたいに見えて要らぬ情報が入ってしまう気がして。それとは別に、手番がどう回っていくか分かりにくいというのがあったので、筆に番号をつけていたんですが、ふと、その番号をそのまま入れたらいいんじゃないかなと思って試しに入れてみたら、ちょうどいい情報量になりました。あとは、ペンの大きさとかも調整しましたね。ペンの書き味については、浦さん土江さんが協力して調整してくれました。

「エセ芸術家」の描画画面。どのプレイヤーが描いた線かが重要となるので、色が異なるだけでなく、線に数字(プレイ順)のパターンが入っている。

(浦)一番の課題だったのは、いかにデータ量を少なく、それでいて正しく同期するかというところでした。ペンの同期については、かなり最初から手をつけていました。

 (佐)ペンを滑らかに描けるようにしたいけど、そうすると通信量が多くなるし、かといって同期するポイントを少なくするとカクカクになってしまうんですよね。

 (浦)最終的に出来上がった線と、線を描いている時のペンの位置の合わせ方をどうするかも難しかったですね。それを、コントローラーでもタッチでも操作できるようにするのが大変でした。普段からiPadなどを使っていると、綺麗な線が引けるのは当たり前に思ってしまいますが、あれ結構大変なんですよね。

 (土)今タッチしている点を取得して、線を作っていきます。通常、1秒間に60回画面が行進されるんですが、それと同じ頻度で点を取ると通信量が多くなるので、頻度を減らしたいですが、減らすと今度はカクカクになる。なるべく少ない点から線の軌跡をきれいに復元する必要がありました。今回は、3つ点があった時に滑らかにつながる線を関数で計算して出しています。そこの補完の仕方のバランスやパラメーターを試して、通信量的にもちょうどよく、描いていて線が遅れすぎないバランスを目指しました。 

(佐)補完の仕方が少し違うと、自分で描いている線じゃないように感じてしまうんですよね。でもちゃんとリアルタイムに描写されていくようになっていますね。

 (浦)自分の画面だけリアルタイムに出るようにして、他の人にはちょっと遅れて届くようになっています。
あとは、書いている時の音にもこだわりがありますね。書いている感を出すために、筆を置いた瞬間と、書いている間で音を変える工夫をしています。

-お客さんの反応はどうでしたか?

 (新)ゲームマーケット2021秋のオインクゲームズブースで試遊したんですが、盛り上がってよかったですね。

 (浦)あの試遊で見つかったバグもありましたね。3人プレイの時限定で出るバグがあって。そのおかげで、発売時には修正したバージョンを出せました。

 (佐)「エセ芸術家」はプレイ時間が短くて、会場で試遊するのにちょうどよかったですね。

ゲームマーケット2021秋のオインクゲームズブースでの試遊の様子。

#5 「この顔どの顔」をスムーズに楽しめる工夫-「レッツプレイ!オインクゲームズ」デザイナーノート連載 に続きます。


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