Dark Age 第一章 分裂した世界の中で

 S.E.は、東京都の中心部に位置している。白の軽自動車が一台、その場所に向かっていた。
「世界は変わっちまったな……。」
 黒の半袖Tシャツにズボンは作業服の男は、無精ひげを生やし、口には煙草を添えながら呟いた。運転しているその腕は太く、手にはところどころタコができ、皮も厚い。ドアの窓に、肘をかけ、前方を鋭く睨んでいた。
「そうですね……。アレができる前は、そのようなことは一切なかったのに……。」
助手席に乗っている男は、肌は白く、体は華奢である。白のカジュアルシャツにタイトなジーパンを身に纏っていた。彼は、景色をぼんやりと眺めていた。
「憎いか……?アレが。」
運転している男は、そう聞いた。
「そういう土居さんは、どうなんです?」
「俺は、アレのおかげで店を潰されたといっても過言じゃない。本来なら、補助金が出るはずの予定が、手続きの関係かなんかで後回しにされ、有耶無耶にされたんだ。妻と子供を養うことができなくなり、このざまさ。清水もそうだろ?」
ゆらゆらと動く煙草の先端は、必死で感情を抑えているように見えた。
「私は、店をやっていませんが、勤めていた会社が倒産し、家族を養うことができなくなりました。アレがなければ、まだ会社が存続できていたかもしれないのに……。私は、新規プロジェクトのリーダーでした。」
「新規プロジェクトか……、企業も銀行も、将来の金よりも目の前の金だからな……。」
「初めてのリーダーで、家内はとても喜んでいました。成功すれば、出世も賞与も……、何もかもが良い人生送れる、養える、そう思っていました。」
清水は、両手をぐっと握って、涙を堪えながら、そう答えた。
「俺もラーメン屋に命張って、頑張っていたけど、情熱だけでは食っていけなかったな。」
「……でも、繁盛されていたんですよね……?」
「あぁ、そうさ。仲間もいて、お客さんもいい人ばかりでよ。そんでもって、仕入先の人には、よくしてもらってたさ。だから、旨いラーメンが作れた。俺にとって、ラーメンは、命そのものだった。……お互い、命張ってたな。」
「そうですね…。私も命張っていました。」
情熱だけでは、この世界は生きていけない。それは、どんな時代においても、同じである。知識、知恵、経験、能力、創造があって最後に情熱だ。しかし、情熱が運を運んでくることを忘れてはならない。運が奇跡を呼び起こすきっかけとなる。

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