青天井という不幸。

 『君たちには無限の可能性があります。』
 使い古された若者に向けた言葉で、私自身も小学校だか中学校の全校集会で聞いた記憶があります。しかし、無限の可能性があることは果たして本当に幸せなことなのでしょうか。

幸せの国ブータンの現状。

 少し前に、幸せの国として話題になったブータン。小さなアジアの内陸国は経済成長よりも国民総幸福量(GNH)と呼ばれる独自の指標を重視し、国民の幸福を大切にした国家運営を行ってきました。しかし、現在ではGNHの数値が低下し、国民の幸福度が低下していると言われており、その原因のひとつが他国からの情報の流入にあると言われています。
 1,970年代まで鎖国状態にあったブータンでは、近年まで国民が他国の情報に触れることが少なく、自国内だけの物差しで幸せを測ることが可能でした。しかし、昨今の急激なグローバル化とインターネットを通じたSNSの発達によって、国民が気軽に他国の情報に触れることが可能となり、先進国との比較によって、幸福度が下がったと言われています。

現状への満足を許さない社会構造。

 今の社会構造はどこまででも上がある青天井の社会であると言えると思います。例えば、私の関わるサッカーでは、国内で活躍すればヨーロッパへ移籍し、そこで世界のトップと凌ぎを削る訳ですが、リーグ優勝してもチャンピオンズリーグ、代表に選ばれるとW杯。W杯を制しても次の大会。さらに一部の選手には天文学的な報酬が支払われており、日本一の選手、あるいは有力国の代表選手であっても、まだまだ成績的にも報酬的にも上を目指し続けられる構造が出来上がっています。これはお金の面でも同じことが言え、例えば月収1千万円を得て、資産1億円を超えたとしても、世界中にはそれよりも多く稼いで資産を保有している人は沢山いて、青天井に上が広がり続けています。

無限の可能性とは。

 ブータンはグローバル化によって世界中の情報が入るようになり、海外への出稼ぎなど、国民の選択肢は格段に広がりました。また、サッカー界は活躍の場が世界中にあり、プレーしようと思えば無限の可能性があると言える状況です。そして、お金の面で考えても現在は、お金を稼ぐ方法はいくらでもあり、本当に上手くやれば際限なく稼ぎ続けることが可能な社会となっています。このように現代社会において、私たちの前には無限の可能性が広がっているわけですが、果たしてそれは我々の幸福と繋がっているのでしょうか。
 ブータンで他国との比較によって幸福度が下がったようなことが、日本でも起こっているように思います。例えば、小学校一勉強が出来るA君がいたとします。昔であれば、少なくとも中学校に行くまでは一番の秀才でいられ勉強が出来る子として周囲の尊敬を集め自己肯定感や自己有能感を高めることが出来るでしょう。しかし、今であれば塾の模試などで地域での順位や全国での順位が分かってしまうので、例え学校で1番であってもA君は十分な満足感を得たり、周囲からの尊敬を集めることが難しくなります。もちろん、A君の努力次第では地域で一番や日本一になることも可能ですが、早い段階から競争に巻き込まれて疲弊してしまう可能性もあります。今の社会では、このようなことが、様々な分野の様々な場面で起こっていると言えるでしょう。

青天井という不幸。

 このように今の社会では、幼いうちから否応なしに競争に巻き込まれ、青天井を目指して上に登り続けることが求められますが、果たしてそれは幸福なのでしょうか。競争では、他人と競って勝敗が生まれたり、例え勝ったとしてその上のカテゴリーへの挑戦が待っていて、際限がなく競争をし続ける限り、心が安まることはありません。もちろん、競争に身を置き、勝利の瞬間を求めて生きることに幸福を感じる人もいることでしょうし、その生き方を否定するつもりはありません。しかし、競争を制してトップに立てるのはごくごく少数ですし、大半は負けたという不本意な思いや、上に行きたいという満たされない思いを持ちながら生き続けなければなりません。

勝負を降りることで生まれる満足。

 『現状維持は衰退である』
 スポーツをしていると、指導者などからこう言われることは少なくありません。しかし、ここで言う現状維持は他者との比較が前提にあるモノであり、主観的に感じる幸福という視点に立てば、現状維持であっても幸せを十分に感じることは出来るのではないでしょうか。さらにいうなら、例え他者と比較して衰退している現状でも、本人の中に満足感や達成感があれば幸せを感じることは可能だと思います。
 このように、他者との競争や比較=勝負に幸せの価値を見出すのではなく、自分の中にある満足に焦点を当てることで、幸せを十分に感じることが出来、人生がより豊かになるのではないかと思います。もちろん、多くのお金があった方が選択肢は広がりますし、地位や名声があった方が心地よい瞬間もあるでしょう。しかし、そこを追い求めてこだわり、失う恐怖を感じるよりは、現状に満足し、今ある幸せを見つけ続けられる人生の方が穏やかで幸せなような気がします。
 そろそろ競争の世界から降りたいと思っているヲタクの戯言でした。

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