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【#あんクリ製作委員会】あんクリ小説版/いろり庵のあすかさん-7<後編>

タケダのおばあちゃんにもらったかぼちゃが入った、新作たい焼き。
時間が足りない中で試行錯誤したものの、味が安定しないまま、とうとうこども食堂のイベント当日を迎えてしまった。
ちゃんとしたものを作りたかったけど、お店を回しながらだとやっぱり難しいな。

会場である食堂は、ユウちゃんのお店で売れ残ったハロウィンのオブジェやお花も使い、華やかに飾り付けられている。
どこにどんなお花を使うか、真剣な表情で吟味するユウちゃんは、すっかり“お花屋さんの店主”が板についていた。

「子どもたち、楽しそうで良かったな」

会場の飾りつけを終え、イベントで使うお花を置いてそのまま帰ろうとしていたところを紗希子さんに笑顔で引き留められたユウちゃんは、最初こそ渋々といった感じだったものの、今は和やかな表情で子どもたちを見ている。

「本当にね。
かぼちゃあんの完成度が低くなっちゃったのが私的には悔しいけど、それでもみんな美味しいって食べてくれてるし、呼んでもらえて良かったな」

「ただでさえ忙しいんだし、そんなに頑張りすぎなくていいんじゃないの。
……俺も充分美味しいと思うけど」

「……そういうのは、ちゃんと目を見て言ってくれてもいいんじゃない?ね、ユウちゃん」

「……うるせぇ」

ふいっとそっぽを向くユウちゃんの横顔は、どこか赤い。
ふふ、照れちゃって。可愛いなぁ。

「ねぇ、こうやって子どもたち見てるとさ、小さい頃思い出さない?」

「あぁ。 ………俺ら、いつも3人一緒だったよな」

「そうだね~。ユウちゃんはいっつも後ろから半ベソかきながらついてくるんだよね。可愛かったなぁ、今も可愛いけど」

「うるせぇよ、つか可愛いとかやめろ、馬鹿」

「ふふ、ごめんごめん」

………ねぇ、ハルくん。
泣き虫だった私たちの弟は、ちゃんと立派な大人に成長したよ。
あの頃から変わらず一緒にいる私たちのこと、空から見ててくれてるかな?

「ねぇねぇ、お花屋さんのお兄さん!」

——子どもの頃にタイムトリップしていた思考を現実に引き戻したのは、足元から聞こえた女の子の声だった。

「ん、どうした?」

「お花で冠を作りたいんだけど、どうやって作ったらいいかわかんないの。お兄さん、教えて?」

「………じゃあ、あすかも一緒に、」

「ねぇ~、お兄さん、早く!」

「ちょ、待って……!」

若干恨みがましそうに私を振り返るのは、子どもは好きでも一緒に遊ぶことに慣れていないからだろう。

「頑張れ、お兄さん・・・・!」
私はにっこり笑って手を振ると、子どもたちの輪に引っ張り込まれるユウちゃんを見送った。

***

「今日はありがとうね~、あすかちゃんも悠人くんも!
たい焼き、やっぱりみんな喜んでたし、お花で冠作ったりアレンジメントするのもすごく楽しそうにやってたし。
また何かあったら相談しに行くかもしれないけど、その時はよろしくね?
2人も、もし何かあったら、私に出来ることなら協力するし!」

イベントが終わり、子どもたちも帰った後。
紗希子さんは、とても晴れ晴れとした表情で私たちに声をかけてくれた。

「こちらこそ、呼んでもらえて嬉しかったし楽しかったです!ありがとうございました」

「俺も、子どもたちが楽しそうにしてるところが見られて良かったです。
………この商店街を再興していくには、やっぱり俺ら世代が手を組むのは不可欠だと思うんで。こちらこそ、よろしくお願いします」

「そうね、せっかく繋がったご縁だし。助け合いの精神でやってかないとね! ……それじゃあ、私は片付けに入るわね。2人ともお疲れ様!」

紗希子さんは、ひらひらと手を振りながら厨房に入っていった。

「………帰るか、俺らも」

「うん、そうだね。
………やっぱりあんこは、子どもたちには人気がないなぁ。かぼちゃ餡みたいに、どの世代でも食べられる新作を打ち出した方がいいのか……」

分かりやすく多めに残ったあんこのたい焼きを見て、思わず苦笑いしてしまう。
………おばあちゃんが作ったものを守ることだけに囚われず、目新しさも少しずつ取り入れていくべきなんだろうか。

———その時、目の前にあったはずのたい焼きが不意に視界から消えた。
驚いて顔を上げると、ユウちゃんがたい焼きを両手に持って勢いよく食べている。

「え、ユウちゃん!?」

「俺は好きだよ。 ……いろり庵のあんこは、あすかがふじえさんから引き継いで2人で守ってる大事なものだろ。
でも、新作も、あすかがやってみたいならやってみればいいと思う」

「………そっか。ありがとね、ユウちゃん」

……思わず泣いてしまいそうになったのは、ユウちゃんには秘密にしておこう。
まさか、私がユウちゃんに泣かされそうになる日が来るとはな。
びっくりだね、ハルくん?


***

2回にわたってお届けした「いろり庵のあすかさん」7話でした!

おばあちゃんであるふじえさんから引き継いだいろり庵を、ふじえさんが残したそのままに守りたい。
でも、新しいことにも挑戦してみた方がいいのかな。

——そんなあすかさんの心の揺れが、読んでくださった皆様にも伝わったらいいなと思います。

そして、今回のユウちゃんはちょっとデレ多めでお送りしました笑
ユウちゃんのお兄ちゃんであるハルくんこと晴人や、紗希子さんも追々深掘りしていけたらと思っています♪
………ちなみに、紗希子さんは、あんクリ製作委員会の一員であるケントさんをゆるっとモデルにしていたりします(こそっと告白)

最後までお読みいただき、ありがとうございました🌸


*「あんこちゃんとクリームくん」作品集


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