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下の子と年の瀬デート

ゆるゆるとした仕事納めだった癖にソファで寝落ちして起きた朝。飲みかけのビールもそのままに、私はベッドで二度寝した。

朝から大掃除をしようとしながら、二人の怪獣たちに妨害され続けて進捗の思わしくない妻と、その妻から思うように構って貰えない怪獣たちに起こされ、私は出掛ける準備をした。我が家の幸福のため、怪獣たちを連れ出すべきだと昨晩から考えていたからだ。

しかし上の子のグズりは想像以上に複雑且つ根深いもので、結局下の子だけ連れて出ることにした。

気持ち良く晴れた冬の空からは穏やかな陽光が降り注ぎ、我が子もゴキゲンに歩を進める。しかしゴキゲンすぎてガッチャガチャに揺れながら小走りをするので、ただでさえ手を繋いでいると身長差によって負担のかかる私の腰には深刻なダメージが蓄積される。

そんなガタガタな状態で歩き出した我々の目的地は決まっていない。実家にでも行って時間を潰そうかと思ったが、朝に母親へ送ったメールの返信はまだない。まずは昼食をと思って我が子に何を食べたいか尋ねれば「バーガーたべる」と返ってきた。しかし近所のマックもモスも既に大行列。ということで我々は、母親の返信を待たずに実家近くのバーガーキングへ行くことにした。

実家の最寄り駅までは電車で数分。下の子は電車を見るのも電車に乗るのも何故か好きで、音を聴くだけで縦揺れしてノり始める。保育園のおさんぽで電車を見に行く時にも、かなりのテンションで臨んでいるらしい。今日もノリノリで電車に乗り込み、揺られること5分余。

降車を渋る我が子を無理矢理抱き上げ改札を抜け、バーガーキングを目指す。改札を出た途端に謎のハンバーガーソングを口ずさみ始めた我が子の手を引き辿り着いたバーガーキングは、程よく空席が残されていた。

バーガーキングこそ正義

上の子は割と何でもよく食べる子だが、下の子は輪をかけてよく食べる。今日も子供用のセットを余裕で完食した。私が少しだけ残っていたポテトを摘まもうと手を伸ばすと、小さな手の甲でそれを遮り、「ダメ!おとうさんのそっち!」とカラになった私の紙袋を指さした。それくらい食い意地が張っている。

楽しい食事を終えたことで漸くベビーカーにも乗り込んでくれた。私は我が子を昼寝させるべく、独自に編み出した揺らし方をしながら歩き始めた。下の子はこの揺れに弱い。目論見通りに船を漕ぎだした我が子の様子を確認し、私は一目散にコーヒーショップへと向かった。今が絶好の時!なのだ。

目指す店は入れ替わりの激しい商店街の中でかなり長いこと営業しているコーヒーチェーン。しかしあまり他所で見かけることはない店であり、この辺りではなかなかの人気店となっている。高校生の頃から友達と通っていたような気がするので、もう結構な長寿店と言えるだろう。

コーヒーショップに辿り着き、眠った我が子をラクな体勢に調整し、ゆっくりと腰を落ち着けたその瞬間。母親からの電話が鳴った。まだコーヒーは手付かずのままだった。

母親も大掃除をしているらしいが諦めかけているようだ。クリスマスには私が熱を出したせいで帰れなかったので、孫の顔を見せに行くよと伝えて電話を切った。そのまま大急ぎでコーヒーを飲み干…さなかった。私はタップリと時間をかけ、最後の一滴まで優雅なティータイムを満喫した。

しかしあまり悠長なことは言っていられない。我が子が起きて自分の足で歩くと言い出せば面倒なことになる。後ろ髪引かれる思いでその場を後にし、再び気持ちの良い冬空の下を歩き始めた。

空を征く飛行機を眺めながら

子供のおやつやドリンク類を買い、実家へと向かう。その間、我が子は起きる素振りも見せなかった。よく食べる上によく寝るのだ。

実家には母親だけでなく、上の妹も居た。そして妹が飼っている犬も居た。家に入ってすぐに起きた我が子は、生まれてから1度しか会ったことのない妹と犬の鳴き声で一気に心を閉ざし、そのまま帰るまで殆ど言葉を発することはなかった…。

おわりに

夕方に妹が家を出た途端に元気を取り戻した我が子は、母親と3人で食事をする間もかなりハイテンションではしゃいでいた。私と似たところがある…。

思うように掃除の進まなかった妻と、出掛ける機会を逸してやや不機嫌な上の子が待つ我が家へ、再び下の子の大好きな電車に揺られながら帰り着いた。

下の子と2人だけで、電車に乗って出掛けるのは初めてだった。

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