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更紗のストール(後)

彼女の仕草は洗練されていた。

バナナシェイクを音を立てることなく飲み干し

ストローについたリップの跡を

細くキレイな指でスマートに拭き取った。

笑顔も健康的で話す言葉もポジティブな内容が多く

私の肩にいる猫を見た女性が終の都へ旅立って逝った事実が

全て虚偽の世界で起こったことなのだ!

そんな肩の荷が下りたような、ふわふわした気持ちになり

どうしても揺るぎない確信が欲しくなった。

半ば強引に私の素性と連絡先を受け入れてもらい

貴女のセンスにとても興味があるから話を聞かせてほしい!

そう言って明日の同じ時間と同じ場所で会うことを心からお願いした。

「ええよ~!明日は丁度時間空いてるしなぁ~」

「おねえさんと話してるとなんや落ち着くわぁ!」

ありがとう!と微笑み返す私の心中は祈るような想いで一杯だった。

明日!絶対に会えますように!

・・・・・・・・・・・・・・〇・・・・・・・・・・・・・

その日は朝から・・・・いや、昨夜からドキドキしていた。

まるで自信満々で挑んだ試験結果を待つ学生の頃のよう。

今日で終わる。

そう!今日で終わるんだ。きっと!

私の肩の猫の存在は現実だとしても

死期の近い女性だけが見えるという条件は

過去の偶然の産物であったに過ぎない。

私はこの呪縛から今日やっと解放される!

ワードローブは明るい色を選んだ。

まるでデートの時のような逸る気持ちを自制しつつ待ち合わせ場所に出かけた。

直ぐに見つけてもらいやすい席につき彼女を待った。

待った。

待った。

待った。

時間の感覚が麻痺してしまうくらい

待ち続けた。


彼女は来なかった。

ーーーーーー○ーーーーーーー

私は彼女と出会った天六の交差点がよく見える

ファストフード店に度々行くようになった。

あの待ち合わせの日あの場所に、なぜ

彼女が来なかったのかは電話一つで解ること。

でも私は電話しなかった。

なぜ来なかったのか知らなくていいと思った。

そしてカウンターでバナナシェイクを飲みながら

彼女が交差点を渡る姿を待ちわびている。

人混みの景色に美しくなびく更紗のストール

現実と空想を重ね合わせることで

私は心のバランスを保とうとしている。

「現実逃避だよね…」

小さな独り言も頬つたう涙も

瞬時に周りの喧騒に消されて行く。

私は忘れたはずの肩と首の熱さを素直に感じていた。

バナナシェイクではこの熱さを冷ませるはずもない。

そしてもがきながらも受け止めようとしている。

死期が近い女性だけに見える

私の肩にいる猫の存在を。

continued…









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20年以上介護の仕事に従事。心を揺さぶり続けた人々との関わりをエッセイ小説にしたためています。(※一部フィクション)苦しくて痛い…でも人は温かい。