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冴子のビーズ

 お母さんは手先が器用で、手芸も洋裁も簡単にできる。それなのに娘の私ときたら、くさり編みひとつできない。お母さんが何度も教えてくれたのに、私にはやる気がなかった。
 学校へ通うようになると、家庭科の時間に手芸をやらされたり、洋裁が登場したりした。私はどんなものも器用にはこなせず、クラスメイトに手伝ってもらったり、宿題になったらお母さんにかわりに作ってもらったりしてごまかしてきた。
 だから私は、手芸も洋裁も大嫌い。どうして女の子だからって、そんなもの好きにならなくちゃいけないのかな。
 お母さんは言っていた。
「女の子なら、このくらいできなくちゃ」
お母さん、私、女の子みたいだよ。だって、生理があるもの。でも手芸は大嫌い。できないから、女の子じゃないのかな。そんなこと、お母さんには言えないけど。
「冴子は根気がないのよ。くさり編みなんか同じことを繰り返すだけでしょ」
 それが一番つまんないのよ。くさり編みの何がそんなに楽しいのかな。女の子なら、みんな楽しく感じるのかな。女の子なんて、いやだ。こんなことができなきゃいけないなら、男の子に生まれればよかった。お母さん、どうして男の子に産んでくれなかったの。だけどこんなことは、お母さんには言えないよ。悲しむもんね、きっと。

 職場で親しくしている女性が、ファッション雑誌を持って話しかけてくる。
「このネックレス、見てよ。すごくきれい。ビーズ買ってくれば、手作りできるんだって。ねえ、冴子ちゃん、作ってよ」
「私が?」
「うん。なんか上手そう」
「手先、不器用だけど!」
「嘘だ。絵もうまいし、きっとできるよ。作ってよ」
 わけのわからない成り行きで、私は職場の同僚のために、ビーズのネックレスを作ってあげることになってしまった。

 私は、感じた。
 確かに、きれい。

 雑誌に載っているネックレスは、半透明の玉と白の玉と薄い水色の玉を金色の金具で繋げただけの、簡単そうな作り方だった。どこのお店に行けば材料が揃っているかも、親切に書いてあった。
 私は休みの日を使って、総武線に乗って浅草橋までやって来た。大きな道沿いにある大きな店。大小さまざま色とりどり、たくさんのビーズがあって、金銀の金具もよりどりみどりだ。見たこともないパーツが山ほどあって、何に使うのかもわからない。私は切り抜いた雑誌のページを見ながら、美しいビーズ、いろんな金具、ペンチのような道具などを探し当てて購入した。
 結構な値段になったけれど、あの子払ってくれるのかな。まあ、いいや。なんだか、きれいだもんね。きれいなもの買ったから、別に自分のお金でいいや。

 家に帰って買って来たものを広げていたら、お母さんがびっくりした顔をした。
「なに作るの?」
「ビーズのネックレス。友達に頼まれたの」
「冴子が作るの? 手作りするの?」
そうか、これ、手作りか。手芸の一種になるのかな。
「できるの? 普段やらない人が」
「作り方、書いてあるもん。できるでしょ」

 雑誌に載っている作り方の通りに作っていたら、ビーズのネックレスはとても簡単にできあがってしまった。ついでにイヤリングの作り方もあったので、それも作ってしまった。金具を買っておいてよかった。半透明の玉がとても儚げできれいで、薄い薄い水色の玉が海の泡みたいで、私はとても気に入った。そして、とても上手にできていた。
 「お母さん、見てよこれ。かわいいでしょ」
「ほんと、これはかわいいわ! 冴子、作るの上手いのね! 知らなかったわ」
「私でも手作りできるみたいよ。捨てたもんじゃないわね」
「お母さん、感動したわ。どう? 似合う?」
できたばかりのネックレスを首にかけて、お母さんは喜んでいる。
「似合うけど、それは友達用。お母さんには別に作ってあげるよ」
「ほんとに? 作ってよ! 冴子が作ったもの、ほしいわ」

 その日から私は、毎日ビーズでアクセサリーを作るようになった。休みごとに浅草橋へ通い、あれこれと材料を仕入れた。アクセサリー店に入ると、いろいろなデザインのものがあることに気づいた。気に入ったものがあれば盗んで、自分流にアレンジしてみたりした。それでは満足できなくなり、全てを自分でデザインした。きれいなもの、かわいいものを作ることが、こんなに楽しいことだなんて思いもしなかった。
 職場の同僚も、学生時代の友達も、女の子はみんな、私の作るアクセサリーに飛びついた。もちろん、お母さんも。みんな、お金を払ってもらうこともあったし、プレゼントすることもあった。喜んでもらえるのが、嬉しかった。

 きれいでかわいいから、すてき。
 こつこつと作って、できあがることが楽しい。
 それを喜んでくれる人がいて、嬉しい。

 きっと、手作りってそんなもの。今でも手芸は嫌いだけど、ね。

 お母さんが手作りを好きな理由が、ほんの少しだけど、わかった気がした。

 そう、楽しいんだよね。





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世界の片隅で、火を噴くようにものを書く。エッセイ、小説、書きます。当事者研究やってる。cakesクリエイターコンテスト2020、佳作いただきました。