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北極冒険家が教える「準備と実行」 第2回

極地での徒歩冒険をどのように計画し、準備を進め、実行に移していくかを細かく解説していきたいと思っている。

さて、どのように進めるかは暗中模索であるが、まずは計画を進める以前の遠征の大枠を見ていきたいと思う。

冒険の最大の目的は「無事にゴールすること」であるが、「ゴールすること」よりも「無事に」がより重要であることは言うまでもない。死なずに帰ってくることを最大の目標とし、その最低ラインを堅持しつつゴールを目指す。

大きく分ければ、北極を歩くためには以下の①②③の3段階に分けられるが、その中でも細分化され、またその各項目も細かく分節される。

①準備
(1)計画 →いつ、どのルートを歩くか?
(2)装備の選定 →そのルートを歩くために必要な装備とは?
(3)身体的な条件 →トレーニング等
(4)食料計画 →食料の重量、カロリー、栄養素
(5)必要資金の工面 →自費か協賛か
(6)許可申請 →許可が必要な場所であるか?
(7)オペレーションの調査 →現地までのアクセス、輸送など
(8)各種手配 →遠征によって必要になるチャーター機などの手配
②出発
(1)日本を出発 →空港から現地までの移動
(2)食料や装備の現地調達 →カナダ国内で何を揃えるか
(3)物資の輸送 →大量の荷物をどのように運ぶか
(4)現地訓練 →遠征前の現地での寒冷地訓練
(5)パッキング →ソリに全ての物資をどう積むか
(6)現地調査 →日本で調べられない情報を得る
③実行
(1)ソリを引いての歩き方 →思いソリをどのように運搬するか
(2)ルートファインディング →地図と地形、海氷の読み方
(3)天候判断 →極地遠征において、天候による行動判断の変更はない
(4)進退判断 →どの時点まで意識を後ろに置き、どこから前に移すか
(5)海氷の特性 →揺れ動く海氷の特性を知る
(6)野生動物を知る →ホッキョクグマなどにどう対処するか
(7)身体変化 →自分の身体状態を正確に見る
(8)客観性とは何か →どのように自己を保つか。恐怖とは何か
(9)判断を誤るとき →失敗例
(10)装備の使用方法 →道具とは何か?

いま、思いつくままに羅列していくとこのような感じであろうか。忘れていることなどが、まだまだあるはずなので、それは進めていくごとに追加していきたいと思う。

第1回でも書いたが、主に2016年の「カナダ〜グリーンランド単独行」を例として挙げながら、話を進めていきたい。

冒険の始まり

まずは、そもそもの始まりからだ。

なぜこの遠征を思いついたか、という前段の「気持ち」の面に関しては、私の著書「考える脚」に詳しく書いているので、ぜひ読んでもらいたい。

ほら、気持ちの動きまでここで書くと長くなるので、ね、ほら。と、言い訳をしつつ、本への誘導をしちゃった笑。でも、読んでもらった方が、この先の何回に亘るか分からない説明を、より深く納得できるとは思うので、よろしくお願いします。

端的に述べると、2014年に「北極点無補給単独徒歩」というかなり厳しい遠征を行い、それまでの苛酷一辺倒の遠征から、かつて私自身が愉しんでいた「極地の自然に交わる」ような遠征を行いたいという思いがあった。

名称未設定

2016年の遠征箇所は、上記写真のオレンジのルートである。

カナダ最北の集落「グリスフィヨルド」から、グリーンランド最北の集落「シオラパルク」までを歩いて繋ぐものだ。

この地域というのは、極地探検の歴史的に多く語られる場所でもある。100年前のピアリーやスベルドラップ、ラスムセンなどの探検家たちが活躍した土地を自分の足で旅し、彼らも見たであろう光景の中に身を沈め、土地に交わりながら歩くような、そんな冒険を行いたかった。さらに、カナダとグリーンランドの国境にあたるスミス海峡という場所は、極地探検の中でも象徴的な場所であり、そこを歩いて越えるというのは私にとって長年の憧れの一つでもあった。

遠征は、実行の1年ほど前から始まる。

2015年春。翌年の春にカナダからグリーンランドへの遠征実行を目指し、具体的な計画立案にかかった。

まず行うのは、ルートの選定である。どこを歩くべきか。ルート選定が、最も重要である。ここを間違えると、どんなに優れた装備を用意してもゴールできず、また自分の身も危険に晒すことになる。一番重要であり、だからこそ最も経験と知恵が試される。

ルートを選ぶというのは、その本質は「自分にとって何が危険で何が危険でないかを正確に見極める」という作業になる。ルートを見ながら、自分自身を見るという作業だ。

詳しくは、次回につづく。

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