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北極冒険家が考える「人はなぜ冒険するのか?」

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#冒険家

冒険のスポンサー企業とどのように出会い、どんな姿勢で資金を集めてきたか

冒険のスポンサー企業とどのように出会い、どんな姿勢で資金を集めてきたか

冒険にはお金がかかる。

私が長年行っている極地冒険も、どんな計画を行うかで必要な資金のボリュームもさまざまに変化する。
2000年、22歳から始めた極地冒険であるが、若い頃はなるべくお金がかからないよう、カナダ北極圏やグリーンランドの、イヌイット(エスキモー)の集落を繋いで歩くような冒険を中心に行っていた。

若いころの北極行に必要な費用は、一回の遠征に150万円から200万円ほどだった。

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知的情熱を体で表現する。読書と冒険の関わり

知的情熱を体で表現する。読書と冒険の関わり

岩波書店「図書」2023年1月号に寄稿した文章です。
読書との出会い、冒険との出会い。そこに関わる本の思い出。

知的情熱を体で表現する

まだ私が極地冒険と出会う前のこと。自分には何かできるはずだという根拠のない自信だけを抱えながら、自分がいる場所から一歩も動けずにいた大学生の私は、本の中に未知の世界を求めていた。

思えば、活字を積極的に読むようになったのは中学生の頃。三年生の時の担任で国語を

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冒険家になるには

冒険家になるには

一般的に「◯◯家」というのは、誰でも、いつでもなれる。

私は「冒険家」を対外的な肩書きとして使っている。時々「どうやったら冒険家になれますか?」と聞かれることがあるが、そんな時は「名乗ればいいんです」と答えている。

「◯◯家」は、言ってみれば全て「自称」でしかない。なるための試験があるとか、資格が必要とか、そんなものはない。

「◯◯士」もしくは「師」などの、いわゆる「士業」は資格が必要だ。弁

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「PIHOTEK 北極を風と歩く」が 第28回 日本絵本賞「大賞」受賞。 文章に込めた想い

「PIHOTEK 北極を風と歩く」が 第28回 日本絵本賞「大賞」受賞。 文章に込めた想い

昨年の夏に出版した絵本「PIHOTEK ピヒュッティ 北極を風と歩く」が、このたび第28回日本絵本賞において、最高賞となる「大賞」を受賞することが決まりました。

授賞式は6月22日。

以前のnote投稿記事で、絵本制作に至った経緯などを書いたので、今回は私が書いた文章に込めた想いの部分を書きたいと思います。

今回の絵本のテーマは「風」そして「命」でした。

絵本制作の話が決まり、私が物語の文

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未来は変わらない。変えられるのは過去だけ

未来は変わらない。変えられるのは過去だけ

変わるのは過去?未来?

「過去は変えられない。未来は変えられる」なんて言葉を聞くことがある。

いつも感じるのだが、ものすごい矛盾している言葉だ。だって、未来はまだ来てもいないし、何の現象も起きていないのに「未来を変える」ってどういうことだ?何を変えるというのだろう?変える主体がないものを、どう変えるというのだろうか?

「未来は変わる」という人の心理の大部分を意訳すれば「未来を自分の思い通りに

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行為を言葉でどこまで説明できるか。冒険探検に変わる第三の言葉を探す

行為を言葉でどこまで説明できるか。冒険探検に変わる第三の言葉を探す

冒険と探検

私は「北極冒険家」という肩書きを名乗っている。

昨年から冒険研究所書店という本屋をやっているので、書店主でもある。一般的には、冒険家の方で通っているのだが、私は「探検家」ではない。

時々「北極を探検している、冒険家の荻田さん」と紹介されたりするが、それは仕方ない。多くの人は、冒険と探検をごちゃ混ぜに使っていることが多く、それこそその二つの言葉の語義をいちいち分解して考えるなんてこ

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冒険家はトレーニング必須か? 自爆テロリストが来た日の話

冒険家はトレーニング必須か? 自爆テロリストが来た日の話

これは、人によって異論反論オブジェクション(古い!若い人意味わからん!)あると思うので、私の個人的な意見として聞いてもらえれば良い。

先日、私のやっている冒険研究所に若者がやってきた。その当の本人もこれを読んでいる可能性もあるので、その彼にその時かけた言葉の真意も改めて伝える意味でも書いておく。

高校を卒業したばかりだという若者。だからまだ10代か。
「僕、冒険家になりたいんです!!」
と、キ

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100マイルアドベンチャー募集終了!

100マイルアドベンチャー募集終了!

今日、夏休みの100マイルアドベンチャーの募集を行い、8名の参加者が決定した。

100マイルアドベンチャーとは、2012年から開催している小学6年生たちとの夏休みの冒険旅。日本全国各地で毎年ルートを変えながら、100マイル(160km)を10日ほどの日程で踏破する。

これまで、東京駅〜富士山頂、厳島神社〜出雲大社、別府〜熊本城など、全国各地で開催してきた。

9年目となる今年は、小田原城をスタ

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捨てることと得るもの。軽量化の深層

捨てることと得るもの。軽量化の深層

北極での徒歩冒険は、荷物の重量との闘いでもある。

最近では、2ヶ月分ほどの食料や装備一式をソリに積み込み、1000km程度の距離を歩く冒険を行うことが多い。

途中での物資再補給を受けたり、デポ(事前にルート上に物資を設置しておくこと)を設けたりもしないので、スタート時に全ての荷物を持ち、物資が切れる前にゴールをする。

2ヶ月分の食料などを積み込んだソリは、言うまでもなく重くなる。2017年末

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能動的受動がもたらさない変化と、アフターコロナの変化

能動的受動がもたらさない変化と、アフターコロナの変化

昨年の若者たちとの北極冒険に参加した、最年少の大学生ミホが、一年経って彼女の視線から冒険を振り返っている。

スタート前からぜひ読み返してもらいたい。素直な気持ちが飾られずに語られていて、そうか、こんなこと考えながら歩いていたのかと、私自身も気付かされる思いがする。

彼女は、600kmの冒険を終えて「超期待外れ!」だったと書いている笑

この気持ちは、もの凄くよく分かる。なんなら、こう思ってもら

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人は身体性によって無自覚に未来を先取りしている

人は身体性によって無自覚に未来を先取りしている

この一週間は、ネットでの講演と対談が連日続いた。対談2本、講演2本をオンラインで行い、今まで不慣れだったzoomの扱いにも急に慣れてしまった。

昨日は旭川での講演だったのだが、何を喋ろうかと一週間くらい前からずっと考えていた。

その講演の中に、少しだけ「ソマティックマーカー仮説」という話をした。

これは、神経学者のアントニオ・ダマシオが提唱した説で、人の意思決定には身体性を伴った「情動」が深

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「自己責任」と発することで「自己責任」から逃げる心理

「自己責任」と発することで「自己責任」から逃げる心理

責任とは英語では responsibility。response + abilityである。つまり応答能力。何に対する応答であるか?それは、自らの内から沸き起こる「内なる声」である「意思」への応答だと言える。

責任とは意思への応答能力を示す。

ところが日本には責任に「自己」をくっつけた「自己責任」という言葉がある。あまり疑問を持たずに使われることが多いが、この言葉には大きな矛盾がある。責任の「

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日本人の意識構造

日本人の意識構造

ここ最近は、本ばかり読んでいる。2月下旬から、イベント事や講演などがことごとくキャンセルとなり、仕事がほぼ全て飛んでいる。果たして減収額がいくらになるかは計算したくないが、おかげで時間だけはたっぷりできている。

ルース・ベネディクト著「菊と刀」

太平洋戦争中に敵国である日本人を深く考察したアメリカ人の人類学者による記録。

この本は、アメリカ人の人類学者であるベネディクトが、太平洋戦争中に敵国

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「正しさ」って何だろう?

「正しさ」は常に「別の正しさ」と衝突する。

人間関係も利害関係も、ウチ(世間)とソト(社会)で分ける性質のある日本的思考では、内外相互の衝突可能性が常に潜んでいる。

行列の一部で「仲間の為に場所取り」をする一団は、仲間ウチの理論では「仲間思い」という優しさを正しさの根拠にするが、仲間ウチのソトである行列に並ぶ他の人々(一団から見たソト、社会)からは、他人に対する思いやりがない一団だと映る。

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