コンテナの発明や台湾のマスクマップに見る「物流」におけるInteroperabilityの話

はじめに

ブロックチェーンという技術は、インターオペラビリティ(相互運用性)という特徴から、サプライチェーンにおける活用について非常にメリットがあると言われてます。
サプライチェーンにおけるインターオペラビリティ(相互運用性)の活用は実は、歴史を紐解くことで、これまでも様々な工夫がされてきました。
1950年頃、マルコム・マクリーンというアメリカのトラック運送業者が「コンテナ」に着目し、発展させ、利益のでるコンテナ輸送業界が誕生したという逸話があります。


コンテナが発明されるまでは、袋、樽や箱、ケージなどの様々な種類の荷物を作業員が一つずつ、背負って積荷を上げ下ろしするという方法を取っていましたが、マルコム・マクリーンが提唱した輸送用コンテナは、幅、高さ、奥行き、重量、開閉方法などの規定が決まっており、同じ規格を船、クレーン、電車、トラックで使うことで、積み替え時のコストを最小限に抑えることが実現され、1956年代に貨物の積込費用は1トン当たり5.8ドルかかったのに対して、マルコム・マクリーンの開発したコンテナ荷役では、1トン当たり15セントと大きなコスト削減になったと言われています。
コンテナの発明が、船、クレーン、電車、トラックでの荷物の利用を便利に、そして低コストにしたことと同じように、ブロックチェーンの発明は様々な企業やシステムが複雑に絡み合う物流業界において、データを規格化し、相互に参照しあうことで、便利に、そして低コストに運用することが可能となります。

インターオペラビリティ<相互運用性>の必要性

物流の世界では、食品やアパレル、雑貨などの物流にはあらゆる中間流通業が関連します。在庫がどこにあって、いつどのくらいの量が、いつ出荷ができるのか。先日も、コロナショックで都内ではマスクやトイレットペーパーが品薄になりました。私自身も子供の紙オムツを求めてドラッグストアをはしごするなど大変な目にあいました。このような不測の事態が生じて、エンドユーザーにものが届かない場合、一体どこにモノがあるのか内部の人間ですら把握ができないことがあります。これは物流のデータが企業ごとに分断され、データがいわゆるサイロ化されている状態にあるからです。それらのサイロ化されたデータは、それぞれの企業で異なるフォーマットによって管理されているため簡単に外のシステムと連携することも簡単ではありません。

台湾におけるマスクの在庫データをまとめたマスクマップの事例があります。オードリー・タン氏は薬局のマスク在庫状況を30秒ごとに更新し、オープンAPI化することに成功しました。

(大人用マスクと子供用マスクの在庫状況が、色分けした三角の印で表示される。)

さらに、驚くべきことは、このマップをオープンソース化し、1000人ものシビックハッカーらと共同で、地図アプリ、LINEアプリ、チャットボット、音声アプリなど130を超えるアプリケーションに対応させ、さらに利便性を向上させたことです。利用者は1000万人を超え、台湾の全人口の約40%に相当すると言われています。


重要なことは、

1.データが公開されされており、タイムリーに誰もがアクセスできること
2.規格が統一されていて、どのアプリケーションでも同じルールであること

です。
政府の情報では、マスクの在庫情報がcsvファイルとしても落とすことができますが、
https://data.nhi.gov.tw/resource/mask/maskdata.csv

それらをシビックハッカーたちが、このCSV情報に含まれていないものを付与してさらにシステムから利用しやすいjson形式で二次配布を行っているなど、官民の協力が垣間見えることも非常に面白いポイントです。
https://raw.githubusercontent.com/kiang/pharmacies/master/json/points.json

台湾の事例はブロックチェーンの事例ではありませんが、データをどこかの企業でサイロ化するのではなくオープンにすること、さらに、それらの規格を統一することによって、様々なアプリケーションから連携することが可能となります。

ブロックチェーンを用いることで、全てのデータがスマートコントラクトで一元管理することが可能です。異なるシステム間でもコントラクトの規格、つまりルールが統一されていれば、シームレスにデータを連携することが可能となり、今回のようなトイレットペーパーやマスクが不足して在庫がどこにあるかわらかないと言ったような時に、即座に連携することが可能となるわけです。

物流xブロックチェーンの事例


物流分野で、すでにブロックチェーンを使った様々な取り組みが行われています。ここではその中の一例を紹介します。

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ウォルマート・カナダ x DLT Labs(DLTラブス)
分散型台帳技術を使用して配送を追跡し、トランザクションを検証し、ウォルマート・カナダとカナダ国内の400を超える店舗に毎年、商品を配送する運送業者間の支払いと照合を自動化
https://web.devdlt.com/platforms/#dl-asset-track
Thank My Farmer
コーヒー豆農家と消費者をつなぐブロックチェーンアプリ
https://ideasforgood.jp/2020/01/29/the-thank-my-farmer/
TradeLens
IBMとデンマークに拠点を置く大手海運企業A.P.モラー・マースクが主導する海上物流のためのプラットフォーム。
マースクに続く海運大手や各国の港が参加。世界の海洋コンテナ貨物に関するデータの半分近くを取り扱っているとされる。https://www.tradelens.com/
IBM Food Trust
食品業界のサプライチェーンに対するブロックチェーンソリューション。
アメリカのシリコンバレーに拠点を置くSkuchainが、貿易とサプライチェーンのためのブロックチェーンプラットフォームを提供。
https://www.ibm.com/jp-ja/blockchain/solutions/food-trust
Skuchain
PLMP Fintechが提供するブロックチェーンソリューション。
インドネシア一国の物流システムを同社のCreataniumブロックチェーンベースで構築。
https://www.skuchain.com/


これらは基本的なコンセプトの根幹は共通しており、食品などの経路などのデータをブロックチェーンに乗せることで、トレーサビリティを活かして、透明性や改ざんを防ぎます。このことは、2C向けにも2B向けにも非常に多くのメリットがあります。
消費者にとっては、今、食べている食品が、どこで生産されたものなのか知ることができます。すべてのものが接続されているため、どこでというだけではなく、どのような土壌で、水で、肥料で育てられたものかを把握することができ、消費者にとっては安心感につながります。
企業にとっては、冒頭で説明したコンテナの発明同様にして、同じデータを複数のアプリケーションに低コストで接続性を持つことが可能です。
オードリータン氏のマスクの事例では、政府が公開したオープンデータをもとに、シビックハッカーたちが、自分たちのアプリケーションに好きに組み込んで様々なアプリケーションを開発しましたが、サプライチェーンの世界でも同じことが言えます。


Conclusion

政府の公開したマスクの在庫情報が、複数の人の手によって、さらに情報が付け加えられたように、物を運ぶトラックや船などの航路情報などを新たに第三者が書き込むことで、AIなどの力を借り、より燃料効率の良い航路などを算出し、もっと消費者が安く食品を手にできるような工夫ができるかもしれません。世界的な問題に目を向けるとフェアトレードラベルなどを通じて、児童労働が関わるものをトレーサビリティ担保で、消費者が買わないようにするなど、生産者を守ることに繋がる事例であるとか、サーキュラーエコノミー(循環型の経済)とサプライチェーンなどの話題もここ最近は、頻繁に出てきますが、環境や社会、人に優しいアプローチとして、関わる人たちに目を向けることも、今後の日本社会に必要なことかもしれません。
それらはすべて集合知としてのデータのあり方が求められています。

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