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東京っぽくない(1)

出身はどちらですか?と聞かれると少し躊躇する。

東京生まれ東京育ちではあるものの、父は和歌山、母は静岡の出身なので、東京への帰属意識が薄い。三代続いてないから江戸っ子じゃないし、地元愛の強くない地域で育った。地域のお祭りも、商店街の子がつくる輪の中に入っていけなかった。

「里帰り」と聞いて連想するのは、夏休みのたびに訪れた南紀白浜の海と山だ。次に富士宮の冷たい水。かといって、年に2回帰っていただけの場所を馴れ馴れしく故郷なんて呼ぶわけにはいかない。ぽうっと虚空をさまようアイデンティティ。

大学時代、いくつも掛け持ちしていたバイトのひとつが、個人経営の和食料理店のお手伝いだった。私はランチに入ることが多かったのだが、数回だけ人がいなくて夜の時間帯を手伝ったことがある。

カウンターに、近くのビルのオーナーだという常連の高齢女性Nさんとそのツレ、あとは男性の1人客が座っていた。私は男性客の前あたりでカウンター越しに芋の皮むきか何かをしていた。

Nさんが常連であることはバイト中の先輩たちの会話から知っていたものの、私は初対面。店主のおじさんは料理を作りながらNさんたちと喋り、都合、男性のお客さんが私に話しかけるかたちになった。

「どこの出身なの?」
「東京です。でも、」

そのあとに続くのはもちろん、「父が和歌山、母は静岡」。早口でそう言わないと、ウソをついた気分になる。

でも、私がそれを言う前に、酔っ払ったNさんが急にこっちを向いて言った。

「なにあんた、東京生まれなの? それにしちゃ田舎臭い顔してるよ」

バイト先には美人な双子の先輩がいた。その先輩たちをかわいがっているというNさんが私に対して放った最初で最後の言葉だった。ゲラゲラと彼女は笑い、店主は常連とバイト女子両方に気を使った絶妙なカラ笑いで場を制した。

男性客が軽くチッと舌打ちをして、「でも?」と続きを促してくれたが、私はもう続きを言う気になれなくて、なんでもないですと首を振って作業に打ち込んだ。

愛想笑いをつくっていたものの、へこたれていた。

東京生まれっぽくないなんてことは、自分が一番わかっている。外見だけじゃなくて中身も何もかも。ごまかそうなんて思っていないのに。

白浜の海が好きだけど夏しか知らない。子どもの頃育った地域で今も仲の良い友だちは一人もいない。渋谷も新宿も池袋も好きじゃない。すべての街は私にとって等しくよそよそしく、「東京っぽい」「東京っぽくない」と語られるときの「東京」をよく知らなかった。

これはスケールの小さな私の話。

(続く)

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ヤフーニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/

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コメント2件

私は大阪生まれの大阪育ちなのに両親は東京生まれ東京育ちなので、全然違う立場なのですが、少し解ります。いえ、なんだかとても解ります。
関西弁は自然に出てきますが、大阪人っぽいね!と言われる事はあまり無く、大阪で「姉ちゃん東京から来たやろ」と言われて焦ることもしばしば。
故郷大阪の祭りや伝統もあまり知らず、かといって東京の伝統もよく知らない。
これが異国だとまたもっと大変なのでしょうが、自分のアイディンティティってどこにあるんだろうな?と思います。
続きを楽しみにしています。
ありがとうございます! 似た思いの人がいてうれしい。。。
じろりろぽんさんのコメントを読んでいて思い出したのですが、
私はジュンパ・ラヒリという作家の「三度目で最後の大陸」という作品がすごく好きです。ラヒリ自身がそうだったと記憶していますが、彼女の作品には両親が育った場所と違う場所で育つ子どもの話がたびたび登場します。
自分の場合は大陸を超えて移動するほどのスケールの大きな話ではないけれど、どこかでシンパシィを感じたのかも。
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