見出し画像

「彼女ら彼ら」

※全文無料の記事です。

悩んでいたということのほどではないが、迷っていたことがある。数年前に性暴力の記事を書き始めたときに、被害当事者たちのことを三人称でなんと書くか、と。

つまり、英語なら「They」のところを、日本語でどうするか。

「彼女ら」とした場合。被害当事者は「女性」だけではない。
「彼ら」とした場合。日本語で「彼ら」は広義で女性も含む。「少年」が広義で「少女」も含むように。でも、やはりしっくりはこない。

「彼ら彼女ら」という言い方もある。「彼ら」「彼女ら」のどちらかにするよりは目配りが利いている。

でも、なぜ「彼ら」が先なのか。被害当事者の中で多いのは女性であることを無視したようにも感じてしまう。

私が義務教育を受けていた頃、出席番号は男子女子で分かれ、必ず男子が先だった。高校になって、男女混合の出席番号順になったとき、「いいね!」って思った。自由だなって。

「男女(だんじょ)」とは言うけど「女男(じょだん)」とは言わない。
性別をたずねるアンケートでは、かなり多くの割合で「男性」「女性」と男性が先に書かれている。明らかに女性をターゲットにしたイベントでも、そうだったりする。
芸能人同士の結婚で連名のご挨拶が出るときでも、年賀状でも、妻の名前が先に書かれることはまずない。

でも、性暴力の被害当時者のことを言うときまで、「彼ら」が先?

「彼ら彼女ら」は見かけるけれど、「彼女ら彼ら」は見たことがない。
記事で被害当事者を示す三人称を選ぶときに一番しっくりくるのは「彼女ら彼ら」だったのだけど、私はその言葉を選んでいいのかわからなかった。

理屈ではしっくりくるけれど、舌に馴染んでいない。違和感があった。

「彼女ら彼ら」と書いて消して「彼ら彼女ら」に直して、やっぱりもう一度消して……を繰り返したりしたこともある。

モヤモヤっとした気持ちを晴らしてくれたのが、戒能民江さんのスピーチだった。あれは、2年前の国際女性デーか、性暴力に関する院内集会だったか、どちらかだと思う。

御茶ノ水大学名誉教授の戒能さんは、そのスピーチの中で、ごく自然に「彼女ら彼ら」という言葉を使った。被害当事者を指した言葉だったと記憶している。

私が当時書いた記事の中では、下記のように戒能さんの言葉が抜き出されている。

4月27日に衆議院議員会館で行われた別の会見では、お茶の水女子大学の戒能民江名誉教授が「性暴力が彼女あるいは彼の一生にどんな影響を持つのか。そのことに社会があまりにも関心を払っていない。被害者の支援の根拠となる法律がなく、財政的な困難、充分な活動ができない状態がある」と話した。支援現場での財政的な困難は、現場を取材すると実感することのひとつだ。 「性犯罪」厳罰化の法改正がなかなか審議入りしない理由(ダイヤモンド・オンライン/2017年5月12日)

「彼女あるいは彼」、「彼女ら彼ら」。戒能さんは、身近な人との会話や文章の中でその言葉を何度も繰り返していたから、当たり前のようにその表現が出たのだと思う。わたしがもう少し、彼女たちの文章を読んでいれば、その表現にもっと早く出会ったのだと思う。

そっか、「彼女ら彼ら」でいいんだよね。間違ってない。

その後、文章の中で「彼女ら彼ら」を使い続け、講演でも「彼女ら彼ら」と言い続け、この言葉はしっかり私の中で定着した。この言葉を手に入れたと思う。

小さなことだって思うかもしれない。小さいけれど私には大事な一歩だった。

【追記】
ちなみに私は自分で性暴力関連のイベントを主催するときは、性別欄を「女性/男性/その他」としています。「その他」は雑かもしれない。他に案があったら教えてください。1回だけ「性別や年齢を聞く意味はあるのですか?」と聞かれたことがあるが、それは今後の参考のために知りたいのです。

この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
85
ヤフーニュース個人:小川たまかのたまたま生きてる https://news.yahoo.co.jp/byline/ogawatamaka/

こちらでもピックアップされています

「性」と「性暴力」の話
「性」と「性暴力」の話
  • 28本
コメントを投稿するには、 ログイン または 会員登録 をする必要があります。