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【目印を見つけるノート】54. 坂の左側の龍之介さん

きのうは救急車の音が4回聞こえました。

きのう届いたマスクを出してみたら、鼻に当てるワイヤーが飛び出していたので、ミシンで直線に縫って直そうかと思ったのですが、位置が端なので縫い代を取れません。かがり縫いをして使おうと思いますが、ちょっと危険なので当面は保管するだけになりそうです。

うーん、「文句を言う」という選択ボタンはこういう場面で使いたくないのです。
しばらく何とかできないか悩んでいました。

⚫坂の上の左側のおうち

さて、気分を変えて。
芥川龍之介さんの記念館がゆかりの地である田端(北区)に2023年開館予定のようです。
私はJR田端駅が最寄りになる荒川区で子ども時分の結構な時間を過ごしました。そうですね、5歳ぐらい、作品をひとつも読んだことがない頃から、そのお名前に親しみを感じていました。
ですので感慨ひとしおです。

余談になりますが荒川区には個人的にJRの駅の印象があまりないのです。
山手線田端は北区、隣の西日暮里は荒川区ですがすぐに文京区になってしまう。常磐線の三河島、南千住もそうですが当時は常磐線を使うことがありませんでした。あとは東北本線の尾久も……遠足のときに乗ったかなぐらいです。今はどうかわかりませんのであしからず。私は田端が最寄り駅だったということです。

もとい、
田端は昔、「文士のまち」でした。芥川龍之介と室生犀星を筆頭に萩原朔太郎や堀辰雄、林芙美子なども住人でした。もう少し広げれば森鴎外も同じ文化圏でしょう。

文士村というのは、先導役の誰かが住んで昵懇の物書きや芸術家、おそらく書生や弟子も移り住んで文化的コミュニティを作るのです。私の知る限りでは中央線沿線の荻窪や三鷹辺り、馬込、鎌倉にもありました。だいたい郊外です。田端辺りは東大のある本郷から歩いて行けるので、文化的空気がより濃かったのかもしれませんね。
いずれにしても綺羅星のごとく輝く方々です。

以下、ときどき文体が変わります。

「田端」の代表ともいえる芥川龍之介さんの作品では、『戯作三昧』という曲亭馬琴を書いた一編がたいへん好きです。偏屈ものの馬琴の日常と、戯作に向かう情熱をいきいきと描いており、「ものを書くはかくあるべし」と大いに共感したものでした。今もそうです。
おそらくは、ご本人もかなりの熱を持って書かれたのだと想像します。しかしその10年あとに書かれた『河童』を読むと、正直、「おいおい、いつたひどうしたというのだ」と下駄履きで駆けつけたくなります。
そして、「あれだけの熱をいつたひどこへやつてしまったのだ」と……タイムマシンがあったら言いたいです。

ものの本を読めば、それだけのできごとに見舞われたのだと推察できますが、本当にもったいないことでした。

彼は、古典イコール宝の山だと思っていたのだと思います。だからアーカイブの奥に放り込まれようとしている宝を掘って進まずにはいられなかったのです。

「『宇治拾遺物語』?そんな遠い昔の本は当世の流行りとはかけ離れているだらう。僕は微塵も好かないね」

などと言われ続けて行き詰まっていたのかもしれない。そのまま突き進めば新しい境地が見えたのかもしれないのに。

まったくの想像で書いていますが、それが私の思う芥川龍之介さんの姿です。

おっと、熱くなってしまいました。

田端のお隣の、JRでいえば西日暮里・鶯谷・上野の手前ぐらいにあたるエリアのことも書いておきましょう。

そのエリア、谷中・根津・千駄木界隈を扱った有名な地域雑誌『谷根千』というのがありました(2009年終刊)。この雑誌の編集人だった森まゆみさんは現在、作家として活躍されていますね。歴史も含めて丹念に地域を追っている『谷根千』は文化的タウン誌の白眉でしたし、今ある地域振興ツールのお手本になっているのではないかと思います。

『谷根千』や森さんのスタンスがずっと好きです。私が感じ入ったのは、「これだ」と思ったものをじっとそこにとどまって過去から現在まで追求し続ける、そこから新たな価値を見つけていく、そのようなところでした。

ふっと、芥川龍之介さんも本当はじっくり取り組めるような仕事がしたかったのではないのかなと想像したりします。

さて、
私が子どもの頃住んでいた荒川区から見ると田端駅の向こうは坂の上、いえ、丘の上、いえ、崖の上でした。高低差がかなりありました。今は景色が変わっているのかしら。
小さいころは動坂上(どうざかうえ)の交差点に向かう切り通しの道を都バスで進むときに、「崖の上には何があるんだろう。芥川さんのおうちは左側にあるのだろうか」などとよく考えました。
ピンポン!後で調べたら合っていました。5歳の私に拍手。

そう、私にとって永遠の「崖の上の左側の住人」なのです。


⚫お籠りクラフトとばら

委託販売に出すイヤリングはたまりすぎたので、自分用のものを作ることにシフトいたしました。少しセーブしようかと。

チェコビーズと日本のガラスビーズとシェルパーツのイヤリングです。ベビーピンクがドンと来ますが、淡いだけにあまり浮きません。日中つけてもいいですが、夜の光にきらめくといいなと思います。

ばらの鉢に芽が出ているのですが、どうしましょう。
けさは横たわっていますが。

それではまた、ごひいきに。

おがたさわ
(尾方佐羽)

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