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ソーシャルリスニングとは?ソーシャルグッドな戦略を描くための手段ではないか?

PR会社カーツメディアワークスの小川と申します。マーケティングのデータ活用支援や、研修(宣伝会議「マーケティング分析講座」)や執筆(Excelでできるデータドリブン・マーケティングやnote)など行っています。

ソーシャルリスニングとは?

LISKULの記事によると、

ソーシャルリスニングとは?「ソーシャルメディアから消費者の生の声を収集、分析し、マーケティングに役立てる手法」です。

この解釈に異論はありませんが、たまにソーシャルリスニングで消費者、ユーザーなどの「本音」が分かるといった論考を見かけます。それには違和感があります。ニーズとかインサイトの発見を期待する文脈が多いのですが、多くの分析経験からそれは簡単ではないことを知っているからです。理由は2つです。

1.分析対象はオープンなログのみ

ソーシャルリスニングの対象データはオープンな書き込みです。得られるデータが最も多いのがツイッターであり、次いでブログです。ソーシャルリスニング≒ツイートリスニングの側面があります。私が知る限りツイッターの鍵アカウントの発言など、非公開なログを調べられるツールはありません。他のSNSも同様です。よって、ソーシャルリスニングで調べることができるのはオープンな発言に限定されます。それは人に見られることが前提である以上、なんらか演出されたものです。特にフォロワー数の多いユーザーほどその傾向は強くなります。

マーケターが期待する「本音」を探るのであれば鍵アカウントの発言やLINEやGMAILや検索ログなど、クローズなログも分析をしたいところです。(無理ですが・・)

2.ブランドに対する言及は多くない

また、企業が期待するほどブランドについてSNSで言及されていない実態もあります。9月15日に興収127憶円を超えた映画「天気の子」のツイートを分析したところ、販売数948万(推計)に対してツイート数は約408万(実数)でした。検索数は約5,000万回(推計)ありました。「視聴してきた」ことについて言及したと思われるツイート数は、約24.6万(実数)で、チケット販売数に対して2.5%。映画を見た人のうち見てきたことをツイートした人はたったの2.5%でした。

今年の興収ダントツ1位の映画でこの程度です。TVCMなどを投下していても、ブランドに言及したツイートが年間数万程度しかないブランドも多いです。

ソーシャルリスニングから本音、すなわちニーズやインサイトはそう簡単には分かりません。では、どのように活用することが有効か?これからお教えします。

ソーシャルリスニングの目的は主に、消費者動向把握と自社に関わる言及の監視の2つですが、本noteでは前者についてのみお伝えします。

ソーシャルリスニングで得られる「本音」とは?

得られるデータが最も多い(オープンな)ツイートの中にも企業が活用しやすい「本音」があります。

それは、反響です。

スポーツ観戦や推理ドラマの考察など、興味がある話題について、他の人はどう思っているかを調べる時や台風などの災害や電車が止まった時など、即時的なユーザーの声が得られるツイッターを見たり検索する人は多いと思います。

社会に大きな影響を及ぼしそうなマスメディアの報道など、影響力のあるコンテンツ(報道なども「コンテンツ」と捉えた場合)に対する「反響」は本音が得られやすいです。テレビや雑誌などによる即時的な反響がツイッターにはノイズとして現れるが、ブログには現れないという先行研究もありました。ツイートによる反響は、マスメディアでは掴み取れない大きな社会動向としてのファクトとなります。

ソーシャルリスニングで得られる恩恵とは?

主な期待値を、数少ないブランドの言及による「ニーズやインサイト」といったお宝発見とせず、「自社が発信するコンテンツに対する反響から得られる示唆」とすることをオススメします。

たとえば私は、自分が書いた書籍を売るために1月からnoteとツイッターを始めました。noteを書いてツイートし、ツイッター広告を配信しています。平均クリック単価は約8円でおよそ2万クリックの流入を得たことで、これまでに書いた30noteの累計PVは9.5万強。スキの累計は1,100を超えました。

書籍はデータ解析でTVCMやネット広告などの施策によって売上がいくら増えたかを定量化し、予算配分を最適化する方法を学べるようにしたものです。手軽な内容にしたかったのですが、結果、Amazonで届くとデカくて驚かれる本になりました汗。

より簡単にし、間口をひろげるためのビジネス書を来春出版するため、現在執筆中です。今出ている書籍を売ることを焦らず、note+ツイッター広告配信で「コンテンツに対する反響から得られる示唆」を得ることを重視しています。分析コラムをnoteで書いてツイートし広告配信すると、嬉しいコメントもあれば、ダメだしを頂いたり、いいね!やリツイートがされずにスルーされて凹んだりもします。コンテンツの良し悪しで広告の反応率も変わります。全てが有益な執筆のヒントになります。

ユーザーと関係を作るためにコンテンツを作って届けながら反応を見て得られる示唆はどの企業でも得やすい恩恵となります。

ソーシャルリスニングを「ソーシャルグッド」に活用するのが良いのではないか?

こうしたコミュニケーションによってソーシャルリスニングから得られる示唆を「ソーシャルグッド」な企画に活かす方法を模索しています。

「IDEAS FOR GOOD」から引用すると、

ソーシャルグッド(Social Good)とは、地球環境や地域コミュニティなどの「社会」に対して良いインパクトを与える活動や製品、サービスの総称を指す。

成功例として良く引き合いに出されるのが、2018年の9月に行われたNIKEのJust Do It”30周年記念キャンペーン「Dream Crasy」です。

「黒人や有色人種への差別がまかり通る国に敬意は払えない」と、抗議のために試合前の国歌斉唱中に起立することを拒否したアメフト選手(コリン・キャパニック選手)を起用したことで、一時大炎上し株価が3.2%減、時価総額が32億ドル(約3520億円)減まで減りましたが、結果としては大きな収益(18年6〜8月期決算で売上高が前年同期比10%増の99億5000万ドル(約1兆1144億円))につながった企画です。

以下のnoteでは日米、および世界のソーシャルグッドやSDGsへの関心度の違いについて書きました。

抜粋して紹介します。

『戦略PR』で有名な本田哲也氏は以下記事で、日本には「ソーシャルグッド」な企画の事例が殆ど無いことや、

(目先の売上と社会問題への取り組みは)「完全に切り離された話ではありません。ユニリーバやP&Gといったマーケティングのトップ企業は、もう3年前くらいから、ブランドが社会課題に貢献することが売上げも上げるという仮説を持って取り組んでいます。で、社会問題と絡めたキャンペーンとそうでない通常のキャンペーン、どちらの方がより効果的かという比較検証まですでにやっているわけです。エンゲージや好意度のリフト、さらには売上げの部分まで」  ※上記記事より引用

ユニリーバやP&Gでは、ソーシャルグッドがもたらす効果を検証していること、欧米では「ソーシャルグッド」は当たり前であると言及されています。

私は海外のマーケティングを肌で感じる機会(例えばカンヌに行く)が無く、実感がわかなかったのでグーグルトレンドで調べました。

「ソーシャルグッド(social good)」と比較用のキーワードとして、「SDGs」とマーケターに昨今注目されている「デジタルマーケティング(digital marketing)」の3キーワードでリサーチ、対象期間は5年。

日本は、SDGsの検索数が圧倒的で「デジタルマーケティング」も検索されていますが、「ソーシャルグッド」はほとんど検索されていません。

アメリカでは「SDGs」がほとんど検索されておらず、「social good」が多く検索されており、「digital markething」に迫る量でした。

世界では、圧倒的に「digital marketing」の検索数が多く、「SDGs」は最近伸びていましたが、1年前位までは「social good」のほうが検索されていました。

海外との歴然たる差が生まれている状況から、こんな図を思い浮かべました。

3つの図

日本は、「SDGs」の関心は高く社会課題解決の意識はあるが、社会課題とブランドをつなぐソーシャルグッドは認知すらされていないかもしれません。ソーシャルグッドな企画の事例が殆どないことも頷けます。

マーケティング先進国の米国では当たり前となっているソーシャルグッドな企画を日本で進めていくためには何が必要か?考えました。

ソーシャルグッドな企画を実行できる組織とは?

「Dream Crasy」のような企画の実行を決断出来るか?と問われてYESと即答できる方は少ないと思います。

組織としてそうした決断ができるようになるための要件は、下記3つだと考えます。

・明確なブランドフィロソフィーがあること。

・「戦略」を描けること

・経済的な効果を定量化できること


【明確なブランドフィロソフィーがあること】

NIKE傘下の「ジョーダン・ブランド(Jordan Brand)」のラリー・ミラー代表はNIKEが「Dream Crasy」を行う選択が完全に正しいという認識を示していました。

特に印象的だったのはこの一節です。

(以下抜粋引用)
ミラー社長は、「リスクはあったが、だからこそナイキの一員であることを誇りに思う。なぜなら、ナイキは進んでそのリスクを取り、信条を訴えているアスリートを支援した。そしてわれわれは、彼には自分の意見を主張する機会があることを強調したかった」とつけ加えた。

進んでリスクを取るための明確なブランドフィロソフィーがあることが驚愕です。

【「戦略」を描けること】

私はNIKEは炎上する人をあらかじめ見定めて「捨てたこと」であの施策を実行できたのでないか?と思っています。「戦略とは捨てることである」と言われます。(マイケル・ポーター氏の言葉にもあります)企業の資源には限りがあるため、何かを選ぶ時には何を捨てる必要があるからです。

強いメッセージ、誰かに強烈に支持されるメッセージは、誰かに強烈に嫌われるメッセージだと言えます。ある人にとってのソーシャルグッドはある人にとってソーシャルバッドとなり得ます。NIKEは、そうしたリスクを見定めて、誰かを捨てたのではないでしょうか?それこそが「戦略」を描けることだと思います。

【経済的な効果を定量化できること】

米国が「ソーシャルグッド」の関心が強いのは、ユニリーバやP&Gのようにソーシャルグッドがもたらす経済価値が検証されており、「社会問題はマーケティングの成果に直結する」意識が浸透しているからではないか?と考えています。日本でもソーシャルグッドな施策を実行しているブランドマネージャーの知人が何人かいましたが、その効果を検証し、把握できていないとのことでした。


フライホイール(ソーシャルグッド戦略Ver)

日本で、「Dream Crasy」のような大型のソーシャルグッドな企画を強烈な意思で進められるマーケターは限られると思います。だから、小さなアクションから始めるためのフレームを考えました。

これは、Amazonの急速な成長の理由を、簡単なスケッチにより可視化したAmazonのフライホイールです。

フライホイール

出典:https://www.slideshare.net/AmazonWebServices/amazon-culture-of-innovation

それを見て考えました。

ソーシャルブランディングホイール

ブランド価値と社会価値をリンクさせるメッセージをどの様に定義していくか?小さなテスト(コンテンツ発信)とリスニング(傾聴)を繰り返し、「ソーシャルグッドな戦略を描く」サイクルです。

まずは、ざっくりとした仮説でよいので、本音(反響)を得るために、ブランドのソーシャルグッドなコンテンツのタネ(What)を仮説してみましょう。

「水筒」の意味を考える。

具体例を示すため、机の上にあった水筒の価値(意味)ってなんだろう、と考えてみました。

私はお小遣いは主にツイッター広告と飲み代と帰りが遅くなった時の家族(2人の娘と家内)への手土産に使っています。作家活動や仲間や家族との関わりの出費は意義がありますが、一人で食べるご飯や飲み物は節約したいです。お昼は毎朝おにぎり1個作って水筒持参です。私は独身時代に稼いだお金の殆どをほとんどお酒に費やしていたので、私にとって水筒は、家族のために頑張る(少しまともになった)自分を象徴するアイテムという意味があるかもしれません。

メルカリで買ったボロくなっていた水筒が、けなげに見えてきました笑。父の日に娘がお仕事頑張ってくれてありがとうって新品の水筒くれたらきっと号泣しちゃうかもです。だったら父の日とかに、東京ガスの家族の絆CMシリーズみたいなことしたら刺さるんじゃないか?など、アイデアが浮かんで来ます。

「水筒は、がんばるお父さんを元気にできるかもしれない」

そんな「ソーシャルグッド」な仮説のタネが浮かんだら、サクっとWEBコンテンツにして発信します。noteを書いても良いですし、オウンドサイトに置いても良いですし、とにかく浮かんだ仮説をコンテンツにしてユーザーに届けます。お小遣い程度のツイッター広告でも反響は得られると思います。スルーされたり凹まされたりするかもしれませんが、「この仮説は求められていないのか・・・」と分かるのも示唆です。反響をヒントに「Brand Value」「Social Value」の接点となる質の良い仮説のタネをみつけていきます。

仮説があればソーシャルリスニングは有益な手段に

「水筒」の意味を真剣に考えたのなんて初めてです。そりゃそーです。

ツイッター全数調査で使っているサイバー・コミュニケーションズ社のツール(コミュニケーションエクスプローラー)

2018年10月から2019年9月までの1年の「水筒」を含むツイート数を調べたところ約86万ツイートありました本当はブランドやカテゴリーについてそんなに言及されませんよと言いたかったのですが、意外と沢山ありましたね笑。

私が仮に水筒のマーケティング担当でも、86万ツイートをいきなりテキストマイニングしたりしません。ざっと見たところ、ノイジーなツイートばっかりです。それよりも、質の良い仮説のタネを探すことが先決です。良いタネが見つかってからそれを検証するためにツイートを活用するのは有意義だと思います。

冒頭、ソーシャルリスニングで本音を発見するのは簡単ではないとしていました。仮説無しに探索的な分析をする場合は特に困難です。反面、「質の良い仮説があれば」本音を発見する可能性が高くなると考えています。さきほど例に出した「水筒は、がんばるお父さんを元気にできるかもしれない」という仮説ありきで86万ツイートを見ていけば良い発見があるかもしれません。

「ブランドに対する言及は少ない」ことも指摘していましたが、水筒だけで1年86万ツイートありました。カテゴリーに対するツイートは結構な数があるわけです。

自分が手がけるブランドの意味って何だろう?そのブランドが社会に対してできることって何だろう?「ソーシャルグッド」を考える目的と、仮説があれば、ノイジーに見えていた86万ツイートの中から、調査では出てこない有意義な本音を発見出来るかもしれません。

仮説の精度を上げるために、コンテンツにして発信して反響を見たり、反響から新しいタネが見つかったらツイートを調べたり、定量調査や定性調査でさらに検証したり、またコンテンツにして発信して反響を見たり、その繰り返しです。

緑色の線のように「Brand Value」と「Social Value」を行き来して仮説を検証することが重要です。

ソーシャルブランディングホイール

こうしたサイクルを回すことで、ソーシャルグッドな戦略(WhatWho)を明確にし、リスクを取って誰かに支持されるための戦術(How)を確からしいものにしていきます。その過程で新たなブランドのWhyが見つかるかもしれません。


いつかは「Dream Crasy」!

いつかは「Dream Crasy」(のような企画で経済的成功を)!をロードマップにして、フライホイールで示したサイクルを実行することから始めませんか?

世の中の情報に対する価値観が、企業視点から生活者視点にシフトしています。そんな中で、ブランドが行うべき対応をポジティブに捉えた場合の選択肢がソーシャルグッドな戦略ではないでしょうか?ソーシャルメディア時代は、誰かに共感されればされるほど、誰かに叩かれる時代です。

ソーシャルグッドの目的はブランド価値と切り離された差し障りのない、守りの社会貢献活動ではありません。

ブランド価値と社会価値をブリッジさせたコミュニケーションで、真のファンをつくる攻めの活動です。ときに、誰かには叩かれても良いと「捨てる」判断が必要であり、それこそが「戦略」です。

しかし、これをやるべきこととして捉え、行える日本の経営者は少ないと思います。SNS、デジタルマーケティング、新規事業開発など、新しいマーケティングを模索する我々が推進者となってボトムアップしていくのが現実的だと考えます。例えば、SNSで支持される分、叩かれもする、キンコン西野さんみたいな方やああいったスタンスを理解できるSNSネイティブな方じゃないと攻めのソーシャルグッドは実行できないと思います。

ぜひ、みなさんそれぞれのマーケティングとの関わりの中で、「ソーシャルグッド」を持ち出してみて頂きたいです。自分が手がけるブランドの意味って何だろう?そのブランドが社会に対してできることって何だろう?その問いかけがスタートです。日本でソーシャルグッドな取り組みが増えるきっかけになれば素敵です。

また、私はSNS施策をインターネットのコンバージョンだけでなく実店舗売上貢献でも評価します。過去、数千万円の投資で数億円の店舗売上のリフトを統計的に説明したりしています。

最後に紹介するツイッター分析例のうち「天気の子」興行収入127憶円を408万ツイートで予測・説明する。2/3が類似分析例です。

ソーシャルグッドな施策を行う際に経済価値を定量化する方法として拙書の知識も活用頂ければ幸いです。

ツイッター分析例

ソーシャルリスニングのヒントに、ツイート分析例4つのnoteを紹介します。

「あなたの番です」の考察と考えられるツイートを全て集計。「誰が一番怪しまれたか?」を定量的に分析。

言語解析エンジンの機能を使って、「あなたの番です」最終回の放映終了間際の23時23分から23時59分までのおよそ10万ツイートから、視聴者の感情の推移を探る。


「天気の子」の408万ツイートデータなどを用いた時系列データ解析によって、「広告とPRは映画の販売数への直接的な影響は見られなかったが、指名検索数を増やしていた。」ことを定量的に把握。

 

「天気の子」の視聴について言及していたツイートのうち、フォロワー数100名以上のユーザーのみターゲティングした広告配信は、リツイート獲得単価90円以下のハイパフォーマンスだった。

最後に

このnoteは、宣伝会議のAdver Times Days 2019(秋)のサイバー・コミュニケーションズ 山崎 浩人氏のプレゼンテーションから着想を得たものです。氏は、日本の大企業のブランド戦略やグローバル戦略を多数サポートしてきた方です。昨今は、中小企業の全社的リ・ブランディングのプロジェクトマネジャーや戦略コンサルにも注力なさっています。氏のプレゼンから、「ブランドコンサル視点のコミュニケーション設計」という着眼点を頂きました。そこから咀嚼し、このnoteを執筆しました。

アドばタイムズ

以上となります。お読み頂きありがとうございました。

追加情報(2023年12月18日更新)

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