
特許技術で「Refa」「Dyson」(高級ドライヤー)のマーケティング効果を金額換算
特許技術で市場構造をガラス張りにする
このnoteではマーケティング・アナリストの活動で開発した発明(2024年11月に特許登録)の「消費者調査MMM(R)」という分析で高級ドライヤーのTVCMなどのコミュニケーション効果構造を把握します。この分析によりテレビCMの効果が1年間で37.92億円などがわかります。消費者調査から広告などのマーケティング効果をここまで金額換算するものはマーケティングの書籍や記事や論文でも類がありません。マーケティング従事者に限らず多くの方に読んで頂ける読み物にしました。最後までお読みいただければ幸いです。
「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」
「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」はマーケティング施策やその他の要因を用いて(数式などの)モデルを作って説明することで施策ごとの売上への影響を推定または予測する分析法です。主に時系列データが用いられており消費者調査からMMMという新しい手法が「消費者調査MMM」です。詳しい分析方法は2024年6月に出版した書籍「その決定に根拠はありますか?」で解説しています。
急成長中の高級ドライヤー市場
長く使っていた冷蔵庫を買い替えて家電量販店のポイントが5万円以上使える状況になり、購入まで任せきりだった家内からポイントで買いたいと言われたのが「Refa」の4万円超えの高級ドライヤーでした。
小学校低学年の娘も家内から聞いていたのか?Refaが欲しいと言って、家内が冷蔵庫の購入手続きをしている間に高級ドライヤー売り場に連れていかれました。Refa、Dyson、Panasonic、SHARPなどのブランドの商品が綺麗な什器に陳列され各社それぞれのイメージキャラクターのTVCMや販促映像が流れていてきらびやかでした。広告やデジタルマーケティングの実行から調査分析とコンサルティング業務にシフトし20年以上働いてきたため、売り場での商品の扱われ方や、広告や販促の内容を見ることで想定しているターゲット層と着目している買い手のニーズやメーカーや小売など売り手の思惑を逆引きして考察することが癖になっています。売り場を見て高級ドライヤー市場が伸びていると感じました。後で調べて読んだ記事の中に『家電市場は長く停滞しているが、美容関連製品だけは例外だ。調査会社の富士経済は、ヘアドライヤーについて23年の国内市場規模は前年比32%増の560億円と推計しており、25年には715億円まで拡大すると予測する』とあり、好調のようです。
特許技術で2つのブランドのコミュニケーション効果を詳しく分析
セルフアンケートツールのFreeasyで2024年11月下旬に10問15歳から69歳までの女性1.5万人にインターネット調査を行いました。
私が売り場で見た4つのブランドを調査対象としましたが、そのうち「Refa」と「Dyson」の分析結果を紹介します。消費者調査MMMではTVCMなどの【施策】の接触により、さらに能動的な【要因】のアクションを行う人が増え、それにより増えた売上を段階的に【施策】→【要因】→売上増加を金額で推定していきます。まずは分析に用いる様々な係数を順番に解説します。
【施策】の接触率を集計
まずはブランドを知る、または思い出すきっかけとなる【施策】の接触率を集計します。ここでは調査時点からさかのぼった1年間で分析しています。

ネットやSNSの利用が増えたことからテレビの視聴時間は減少傾向ですが、未だにTVCMを行う多くのブランドで接触率が最も高くRefaが15.85%でDysonが15.38%となっています。今回分析対象とした2ブランドもそうなっています。続いて、さらに能動的なアクションを行なった方【要因】の該当率を集計します。両ブランドとも1位は「実店舗(家電量販店など)で製品を見た」でした。

増加率を推定
続いて、以下2つの増加率を推定します。
・【施策】に接触した方のうち【要因】を行った方の増加率は何%か?
・【要因】を行ったことから、購入に至った方の増加率は何%か?
以下は例として各【施策】の接触者のうち【要因】「実店舗(家電量販店など)でブランドの製品を試した」の増加率です。因果推論の傾向スコア※1という分析法を用いて推定しています。

※1
理想的な実験(無作為抽出)に近い状態を作る分析が傾向スコア分析です。たとえばインターネット調査で特定のブランドの広告に接触した方とそうでない方を分けて、購入率の差分から効果を推定しようとすることは良く行われていますが、実は不適切です。ブランドロイヤルティの高い方のほうが広告を記憶している傾向があるため、広告接触者(記憶している方)の集団は接触していない集団よりも、ロイヤルティが高い方に偏っています。このケースで2つの集団を単純比較した購入率の差分を効果と推定しすると過大な推定となります。こうしたケースで補正して効果の係数を算出するイメージです。
次にそれぞれの【要因】を行った方のうちブランドの購入(3万円以上の製品)が増えた割合です。

最も増加率が高い【要因】は量ブランドとも「店頭で製品を試した」でした。
効果を金額換算
これらの係数からどの様にして効果を金額換算しているか?Refaの【施策】「TVCM」が【要因】「店頭で製品を試した」をどれだけ増やし売上がいくら増加したか?を導く計算を例として解説します。今までの集計は調査対象の15歳~69歳女性全体で集計していましたが実際には年代性別ごとに分析しています。接触率と人口を掛け算すれば接触人数が分かります。【要因】の増加率を掛け算すればTVCMによって要因の増加人数が分かります。

さらに、【要因】の増加人数に利用の増加率を掛け算すれば購入の増加人数が分かります。

利用増加人数に平均回数と平均単価(3万円)を掛け算すれば、TVCMによる増加金額をTVCMが増やした要因ごとに算出できます。回数は消費者行動の確率モデル※2で分析しています。

※2
書籍「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」で紹介されたNBDモデルという確率モデルと対応するガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという分析法を使っています。これはユーザーが最後に行った行動(当該商品を買ったか?利用したか?など)のタイミングを調査で取得してそのデータから、ある一定期間で特定の回数アクションした人が市場の何割か?を推定することである一定期間での利用率や利用人数、利用者一人あたりの平均回数を推定することができます。
この様にして【施策】→【要因】→増加金額を導きます。各係数を性別年代ごとに計算しそれを積み上げて全体を分析していますが、ここでは各施策が全ての【要因】を介した購入の増加金額を集計します。
【施策】→【要因(すべて)】→売上増加を金額換算した集計は以下です。

両ブランドとも購入の増加金額の1位はTVCMでRefaが37.92億円でDysonが28.45億円です。次いで2位と3位は店舗での広告や販促物と友人や知人との話題です。
【要因】→売上増加は以下になります。

【要因】として重要なものは店頭で製品を試すこと、次いで店頭で製品を見たと認識させること、または家電商品の販売やレビューや比較を行うサイトで認識してもらうことです。
カテゴリーが同じだと効果構造も同様に
こうしたマーケティング施策による効果の構造は消費者が同じカテゴリーと認識しているブランドでは同様の傾向になることが多く、大きな差がないことがわかっています。一方カテゴリーごとの違いが出ることが多いです。ここではテーマにした高級ドライヤーのカテゴリーでは、【施策】ではTVCM、店頭、リアルな口コミが重要。【要因】では店頭で製品を試すこと、見ること、レビューや比較を行うサイトで認識してもらうことが特に重要な構造となっていることが分かりました。
ダッシュボードで詳細に分析
今回は9つの施策と7つの要因、年代性別6セグメントで378種類の効果係数を使って分析しています。今まで紹介した分析は集計例のごく一部です。詳細な分析をサクサク行うことができるPowerBIを公開しYouTubeの概要欄に記載しました。YouTubeで使い方を解説していますのでご覧ください。
「重視する価値」を介したモデルで消費者が動いた理由を可視化する。
今回の調査では回答者に「あなたが日常的に使うヘアドライヤーを検討する際に、 重視する機能や価値はどのようなものがありますか? あてはまるものを複数お選びください。(複数回答)」と聞いてカテゴリーを選ぶ際に「重視する価値」も聞いていました。

「髪の乾燥速度が速い」が1位で「軽くて使いやすい」が2位です。対象者が選択した価値がRefa、Dysonそれぞれにあてはまるかも集計します。

Refaは「乾かした後の髪にツヤがある」が1位(11.24%)です。Dysonは「髪の乾燥速度が速い」が1位(15.65%)です。
ユーザーが選択した重視する価値は「髪の乾燥速度が速い」が1位で「軽くて使いやすい」が2位ですが、これが3万円以上する高級なドライヤーを買う理由の決定打とは、ならない気がします。いわば「当たり前の価値」ではないでしょうか?
一方で、「乾かした後の髪にツヤがある」「熱へのダメージに配慮した機能がある」「乾燥した後にしっかりまとまる」といった価値は
「多少高くても品質の良いドライヤーを購入する理由」になる気がします。
各施策による「重視する価値」の増加を分析
先ほど紹介した「店頭で試した」などの【要因】を「重視する価値」に置き換えて分析すると、それぞれの【施策】が、どの【要因】「重視する価値」を押し上げているか分かります。ここではTVCMを例にして、TVCM接触者の何%【要因】(重視する価値)が増えたのか?増加率を各ブランドで見ていきます。

Refaが9.63%、Dysonが7.57%で「乾かした後の髪にツヤがある」が1位です。他にも「多少高くても品質の良いドライヤーを購入する理由」となりそうな価値が上位に入っています。
効果の「質」を分析
消費者調査MMMでははじめに紹介したような【要因】を購買に近いアクションとした分析では効果の「量」と内訳を把握しています。【要因】を当該カテゴリー(またはブランド)を選ぶ際に重視する価値とした場合は、効果の「質」を見ています。主要なブランドごとにTVCMなどの効果の量が多いコミュニケーションがどんな価値を押し上げているかを研究し、訴求内容の改善を行っています。以下のYouTubeの概要欄には【要因】を価値とした分析ダッシュボードも公開していますので触ってみてください。
高級ドライヤー市場をけん引するRefaの強さの源泉とは?
本noteのキービジュアルにしたのはその後、ポイントで購入して家内と娘が愛用しているRefaのドライヤーです。家内はRefaは友人との話題になることが多いとのことでした。圧倒的にブランドイメージが良く、美容効果への信頼度がダントツとのことでした。なぜかを聞くと、「良いホテルに置いてあること」「シャワーヘッドの品質が良い」から信頼できるとのことでした。以下の日経クロストレンドの記事を見ると、戦略的にそうしたコミュニケーションをRefaが行っていたことが記載されていました。『美容室や百貨店で売っているドライヤー』という印象が顧客に定着するまでは、たとえ売れても家電量販店などには絶対に展開しないと決めていたとのことです。2020年に発売したヘアアイロンとドライヤーは、人気になりMTGの看板商品に成長しても販売チャネルは限定していたそうで、家電量販店への展開をスタートさせたのは2024年だそうです。
消費者調査MMMを解説した書籍
「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」では、時系列データ解析により効果予測モデルを構築するMMM、ここまで紹介した消費者調査MMM、確率モデルや因果推論を用いた定量分析や、顧客理解を目的としたインタビューなど高度な戦略プロジェクトで活用しているノウハウを、無料やなるべく扱いやすい価格のツールで実現する方法に体系化して紹介しています。17万人の調査ローデータを演習データとした付録の動画講義もあります。総合広告会社や戦略コンサルティング会社など大手マーケティング支援会社でも対応できるプレーヤーが非常に少ない、相対的に価値の高いノウハウを扱える人を増やして日本企業のマーケティング・インテリジェンスの底上げし、確かなエビデンスから戦略を導く方法を実装し事業をスケールする方を増やすことが目標です。ビジネス書としてはかなり骨太な内容となりますが、ご興味頂ける方はAmazonページを是非ご覧ください。
【おすすめnote】
2025年1月29日に発売した「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」と「その決定に根拠はありますか?」実は充実させた付録の動画が本当の売りになっています。以下のnoteでは、出版社に許諾をとって付録動画の一部を公開しています。消費者調査MMMの分析記事やnoteもこのnoteを更新して紹介していく予定です。
消費者調査MMM(R)で確認する「購買重複の法則」noteを集めたマガジンです。現在は5つのnoteを紹介しています。
刀社と弊社の特許技術の明細書を要約したnoteです。