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特許技術で「さとふる」「ふるなび」のマーケティング効果を金額換算

年間のTVCM効果は「さとふる」が推定258億円「ふるなび」が推定179億円

このnoteではマーケティング・アナリスト業務を受託する弊社の発明(2024年11月に特許登録)の消費者調査MMM(R)※1という分析でふるさと納税ポータルサイトのTVCMなどのコミュニケーション効果構造を把握します。

※1 
MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)はマーケティング施策やその他の要因を用いて(数式などの)モデルを作って説明することで施策ごとの売上への影響を推定または予測する分析です。主に時系列データが用いられており、消費者調査から行うMMMという特許技術が「消費者調査MMM(R)※株式会社秤の登録商標」です。この技術では消費者調査からTVCMなどの効果を金額換算できます。

分析アルゴリズムは因果推論と確率モデルを組み合わせたもので専門性が高く、詳しいアルゴリズムは2024年6月に発売した以下の書籍でエナジードリンク、外食チェーン、テーマパークの分析を例にして解説しています。このnoteでは専門用語や数式の紹介を避けマーケティング従事者に限らず多くの方に読んで頂けるものを目指しました。ぜひ最後までお読みいただければ幸いです。


ふるさと納税の利用率は16.5%

ふるさと納税は、今後高齢化人口減少、税収減少により地方のインフラの維持すら深刻な課題となる日本にとって重要な地方創生に対応するものです。都市部と地方間の経済格差の是正を前提に、我々国民が税への意識や地方のことを考えるようになることを目的として2008年から開始された制度ですが、返礼品の加熱競争など様々な運用上の課題が指摘されています。この制度の運用により首都圏の地方自治体の税収は減り、地方自治体の税収は増えましたが、観光や特産品資源の充実による格差から地方の自治体間の格差も生まれています。喜ぶ自治体もいれば、そうならない自治体も出てしまうことはやむなしの制度です。本来、埋めるべき地方格差を是正すべき税配分が数理的に得られているはずですが、観光特産品の魅力度による自治体間の格差のバイアスと消費者の行動などによって歪みが生じて然るべきですから、誰もが納得する状況になるわけはなく、これらの課題を論じるとキリがありません。ここではシンプルな課題にテーマを絞ります。それは利用率の低さです。下記の「ふるさと納税1万人調査!利用者の本音と最新トレンド ~ふるさと納税実態調査③~」記事から参照します。

「総務省によると2023年度 のふるさと納税寄附額は約1兆1,175億円、納税寄附件数は約5,894万件と過去最高を更新しました。これは、2008年の開始時と比較すると、納税寄附額は約137倍、納税寄附件数は約1,091倍にもなります。ふるさと納税利用者数も初の1,000万人超えとなりました。一方で、納税義務者数に占めるふるさと納税利用率は約16.7%と低く、まだ多くの方が活用していない。」とあります。

納税義務者は働いて所得がある人と年金受給者や不動産収入や配当など働いていなくても所得がある人を含めた約5,568万人です。ふるさと納税では、実質の自己負担金となる2,000円を超えた分の金額に対して、所得税・住民税の控除が適用されます。控除される割合などから年収150万円以上は恩恵が受けられる目安になります。多くの人が恩恵を受けられる割には低い利用率にとどまっています。現在の利用率から考えるとまだま伸びしろがあるはずです。

特許技術でふるさと納税ポータルのコミュニケーション効果を詳しく分析

年末にかけては、駆け込み需要に対応するふるさと納税ポータルサイト各社のTVCMなどの広告をよく見かける様になりますが、どれほどの効果があるか気になりました。今回はセルフアンケートツールのFreeasyで2024年11月下旬に10問2.5万人にインターネット調査を行ったデータから「ふるなび」「さとふる」の分析結果を紹介します。

消費者調査MMMではTVCMなどの【施策】の接触により、さらに能動的な【要因】のアクションを行う人が増え、それにより増えた売上を段階的に【施策】→【要因】→売上増加を金額で推定していきます。まずは分析に用いる様々な係数を順番に解説します。

【施策】の接触率を集計

まずはブランドを知る、または思い出すきっかけとなる【施策】の接触率を集計します。すべて、調査時点からさかのぼった1年間として分析しています。

並び順はさとふるの接触率の降順

「さとふる」が47.59%、「ふるなび」が44.29%と2ブランドともTVCMが突出しています。ネットやSNSの利用が増えたことからテレビの視聴時間は減少傾向ですが、未だにTVCMを行う多くのブランドで接触率が最も高くなっています。

【要因】の該当率を集計

続いて、さらに能動的なアクションを行なった方【要因】の該当率を集計します。これは、商材カテゴリーによって消費者の行動を仮説して設定します。ポータルサイトであることからTVCMを見て調べる、ホームページにアクセスする行動を喚起することは、ブランドの目的として必須だと思います。ふるさと納税の利用率が低いことから、ブランド(の広告など)がきっかけになり、ふるさと納税自体について、調べたり話題にしたという項目も設定しました。

並び順はさとふるの該当率の降順

増加率を推定

続いて、以下2つの増加率を推定します。

【施策】に接触したことから、【要因】を行った方は何%か?
【要因】を行ったことから、購入に至った方は何%か?

以下は例として、各【施策】の接触者のうち【要因】の「スマホやパソコンやタブレットなどでブランドのことを検索するなどしてよく調べた。」を増やした割合です。これは、因果推論の傾向スコア※2という分析法を用いて推定しています。

並び順はさとふるの増加率の降順

※2
理想的な実験(無作為抽出)に近い状態を作る分析が傾向スコア分析です。たとえばインターネット調査で特定のブランドの広告に接触した方とそうでない方を分けて、購入率の差分から効果を推定しようとすることは良く行われていますが、実は不適切です。ブランドロイヤルティの高い方のほうが広告を記憶している傾向があるため、広告接触者(記憶している方)の集団は接触していない集団よりも、ロイヤルティが高い方に偏っています。このケースで2つの集団を単純比較した購入率の差分を効果と推定しすると過大な推定となります。こうしたケースで補正して効果の係数を算出するイメージです。次は、それぞれの【要因】を行った方のうち寄付した方が増えた割合です。

続いて、各【要因】から寄付の増加率を集計します。

並び順はさとふるの増加率の降順

最も増加率が高い【要因】は両ブランドとも「ブランドのことを検索するなどしてよく調べた」となっています。

効果を金額換算

これらの係数からどの様にして効果を金額換算しているか?

「さとふる」【施策】「TVCM」が【要因】「ブランドのことを検索するなどしてよく調べた」をどれだけ増やしたか?を例に解説します。今までの集計は調査対象の20歳~69歳男女全体で集計していましたが、実際には年代性別ごとに分析しています。

接触率と人口を掛け算すれば接触人数が分かります。【要因】の増加率を掛け算すればTVCMによる要因の増加人数が分かります。

さらに、【要因】の増加人数に寄付の増加率を掛け算すれば、寄付の増加人数が分かります。

利用増加人数に平均回数と平均単価(約1.3万円)※3を掛け算すれば、TVCMによる増加金額をTVCMが増やした要因ごとに算出できます。回数は消費者行動の確率モデル※4で分析しています。

※3
総務省による2023年度 のふるさと納税寄附額は約1兆1,175億円、納税寄附件数は約5,894万件の数字に、調査対象年代の納税者/人口の補正係数で乗算することで、寄付1件あたりの平均単価を12,914円とした
※4
書籍「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」で紹介されたNBDモデルという確率モデルと対応するガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルという分析法を使っています。これはユーザーが最後に行った行動(当該商品を買ったか?利用したか?など)のタイミングを取得してそこから、ある一定期間で特定の回数アクションした人が市場の何割か?を推定することである一定期間での利用率や利用人数、利用者一人あたりの平均回数を推定することができます。

この様にして【施策】【要因】→増加金額を導いていきます。実際は各要因を押し上げた係数を性別年代ごとに計算し、それを積み上げて全体を分析していますが、ここでは各施策が全ての要因を介した寄付の増加金額を集計します。

両ブランドとも購入の増加金額の1位TVCM「さとふる」が258億円「ふるなび」が179億円です。次いで2位「友人や知人との話題」です。「YouTubeやSNSなどの投稿」の順位が違う以外、2ブランドともほとんど同じ順位です。

【要因】→寄付の増加を金額換算した集計は以下になります。

両ブランドの各項目の順位は変わりません。

それでは、TVCMがそれぞれどの【要因】を押し上げて寄付の増加に貢献しているかを分析してみます。

こちらも順位は変わりません。

カテゴリーが同じだと効果構造も同様に

マーケティング施策による効果の構造は、消費者が同じカテゴリーと認識しているブランドでは同様の傾向になることが多く、大きな差がないことがわかっています。同一カテゴリーの複数ブランドでは構造に大きな差がありませんが、カテゴリーが違う場合は構造も大きく違うことが多くなります。ここではテーマにしたふるさと納税ポータルでは、【施策】ではTVCM、【要因】ではブランドのことを検索するなどしてよく調べることと、ホームページやアプリにアクセスすることが重要な構造となっています。

それは当たり前じゃないかと思うマーケティング従事者の方も多いと思いますが、定量的にここまでの解像度で貢献を把握しているマーケターは少ないと思います。ここで紹介した特許技術のアルゴリズムをもとに詳細に分析することで効果予測による投資判断に活用しています。

ダッシュボードで詳細に分析

各施策(9種類)に対して6つの要因、年代性別10セグメント540種類の効果係数を使って分析しています。今まで紹介した分析は集計例のごく一部です。詳細な分析を行うことができるPowerBIを公開しYouTubeの概要欄に記載しました。PowerBIの分析ダッシュボードの使い方はYouTubeで解説しました。

「重視する価値」を介したモデルで消費者が動いた理由を可視化する。

今回の調査では回答者のうち、調査対象とした4ブランド(さとふる、ふるなび、ふるさとチョイス、楽天ふるさと納税)または他のサービスを利用したことがある方に限定し「 ふるさと納税の各種サービスを選ぶときに、 重視している機能や価値にどんなものがあるか? あてはまるものを複数お選びください。(複数回答)」と聞いてカテゴリーを選ぶ際に「重視する価値」を聞いていました。

消費者の利用動機としては、返礼品のリターン分による経済的なリターンがベースとなっているため、各サービスによって貯まるポイント特典が最も高くなっています。次いで返礼品の紹介のわかりやすさと品数が続きます。

昨年総務省から制度の見直しが発表され、今年の10月から、ふるさと納税ポータルサイトによるポイントの付与が禁止されることが決まっています。ふるさと納税本来の趣旨(主に地方創生や地方や税への関心の向上)からはずれ、ポータルサイト間でのポイント付与競争や自治体がポータルサイトへ支払う手数料負担の増加などが禁止の理由だそうです。

マーケティング実務では、対象者が選択した価値がブランドとどれだけ結びついているか?観測します。

さとふるの1位は返礼品の品数です。ふるなびは寄付する地域のことを知るためのコンテンツの充実となります。ユーザーが選択した重視する価値の1位はポイント特典でしたが、今回選択した2つのブランドはそれ以外の価値が伝わっているようです。

施策による「重視する価値」の増加効果を把握する

【要因】を「重視する価値」として分析すると、それぞれの【施策】が、どの【要因】(重視する価値)を押し上げているか分かります。

TVCMを例にして、接触者の何%が【要因】(重視する価値)が増えたのか?増加率を見ます。

2ブランドとも1位は「紹介されている返礼品の品数」です。このように【施策】(例としたのはTVCM)の効果の中身を、消費者が求める価値とブランドをどの様に結び付けて行動を誘発しているか?効果の質を見ることで訴求内容やクリエイティブ改善の意思決定に用いています。【施策】【要因】(重視する価値)→売上としたPowerBIも公開しています。

PowerBIの使い方解説動画(再掲)

ふるさと納税のTVCMは有効か?

ふるさと納税ポータルサイトの手数料はおよそ1割と言われています。今回対象とした2つのブランドのTVCM効果を利益とした場合、さとふるが25.4億円でふるなびが17.9億円です。TVCMは投下エリアのTVCM投下ののべ視聴率または本数で取引されます。たとえば関東で視聴率1%のコストが12万円でのべ視聴率(GRP、グロスレーティングポイントと言います)1000GRPの場合は1.2億円です。全国規模で1か月に1000GRPを投下する場合は投下する時期や業種や投下方法によって変わりますが、少なくとも数億円以上の投資にはなりますが、少なくとも、それぞれ実際にかかったコストが25.4億円17.9億円を下回っていれば有効だと考えられます。

消費者調査MMMを解説した書籍

「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」では、時系列データ解析により効果予測モデルを構築するMMM、ここまで紹介した消費者調査MMM、確率モデルや因果推論を用いた定量分析や、顧客理解を目的としたインタビューなど高度な戦略プロジェクトで活用しているノウハウを、無料やなるべく扱いやすい価格のツールで実現する方法に体系化して紹介しています。17万人の調査ローデータを演習データとした付録の動画講義もあります。総合広告会社や戦略コンサルティング会社など大手マーケティング支援会社でも対応できるプレーヤーが非常に少ない、相対的に価値の高いノウハウを扱える人を増やして日本企業のマーケティング・インテリジェンスの底上げし、確かなエビデンスから戦略を導く方法を実装し事業をスケールする方を増やすことが目標です。ビジネス書としてはかなり骨太な内容となりますが、ご興味頂ける方はAmazonページを是非ご覧ください。

【おすすめnote】

2025年1月29日に発売した「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」と「その決定に根拠はありますか?」実は充実させた付録の動画が本当の売りになっています。以下のnoteでは、出版社に許諾をとって付録動画の一部を公開しています。消費者調査MMMの分析記事やnoteもこのnoteを更新して紹介していく予定です。

消費者調査MMM(R)で確認する「購買重複の法則」noteを集めたマガジンです。現在は5つのnoteを紹介しています。

刀社と弊社の特許技術の明細書を要約したnoteです。