
特許技術で「マクドナルド」「ケンタッキー」のマーケティング効果を金額換算
自己紹介(株式会社秤 小川貴史)
マーケティング・アナリストの小川と申します。2019年に森岡毅さん今西聖貴さんらの「刀」に憧れて「秤」という法人を立ち上げ、マーケティング分析の書籍を3冊出版し2024年11月には効果分析の特許を登録しました。確率モデルと因果推論の分析と組み合わせることで1年間のTVCMの効果がマクドナルドは234億円、東京ディズニーランドは147億円、レッドブルは58億円の様に金額換算することができる技術です。
特許技術は「消費者調査MMM(R)」という分析法です。「MMM(マーケティング・ミックス・モデリング)」はマーケティング施策やその他の要因を用いて(数式などの)モデルを作って説明することで施策ごとの売上への影響を推定または予測する分析法です。主に時系列データが用いられており消費者調査から行うMMMという新しい手法が「消費者調査MMM」です。この分析によって、たとえばマクドナルドとケンタッキーのテレビCMの効果が1年間で234億円、111億円。アプリは113億円、48億円の様に売上増加金額までわかります。調査データから行うので自社に限らず興味のあるブランドを分析することができます。
特許技術で2つのブランドのコミュニケーション効果を詳しく分析
セルフアンケートツールのFreeasyで2023年3月下旬に20歳から69歳までの男女5万人に10問の調査を行いました。7つのブランドを調査対象としましたが、そのうち「マクドナルド」と「ケンタッキー」の分析結果を紹介します。
消費者調査MMMではTVCMなどの【施策】の接触により、さらに能動的な【要因】のアクションを行う人が増え、それにより増えた売上を段階的に【施策】→【要因】→売上増加を金額で推定していきます。まずは分析に用いる様々な係数を順番に解説します。
【施策】の接触率と【要因】の該当率を集計
まずはブランドを知る、または思い出すきっかけとなる【施策】の接触率を集します。ここでは2023年3月下旬(調査時点)からさかのぼった1年として聴取し1年間の効果を推定しました。接触率の圧倒的な1位はマクドナルドは76.59%、ケンタッキー71.08%の「TVCM」です。「TVerやAbemaなどYouTube以外の動画サイトの広告」と「新聞雑誌の広告」の順位が逆になっている以外、順位は同一で、2ブランドの傾向はかなり似ています。

続いて、購買に至る能動的なアクション【要因】を行った方の該当率を集計します。2ブランドとも順位は同一です。1位はマクドナルドが59.84%、ケンタッキー50.37%の「ブランドの店舗に入店」2位は「ブランドのアプリを利用」でこの2つの該当率が突出しています。

増加率を推定
続いて、以下2つの増加率を推定します。
・【施策】に接触したことから、【要因】を行った方は何%か?
・【要因】を行ったことから、購入に至った方は何%か?
以下は一例として、各【施策】の接触者のうち【要因】「ブランドの店舗に入店」の増加率です。

増加率は因果推論の傾向スコア(IPW推定量)という分析で推定しています。インターネット調査で特定のブランドの広告に接触した方とそうでない方を分けて2群の差分(購入率などの差分)を効果とする推定が行われているがお勧めできません。ブランドロイヤルティの高い方のほうが広告を記憶している確率が高いため、広告接触者(広告を記憶している方)の集団は接触していない集団よりもロイヤルティが高い方に偏るからです。2つの集団が広告の介入以外が同質にならないので購入率などを単純比較すると過大な推定となります。こうしたケースで、分析上で理想的な実験に近い状況を作り、確かな効果を推定する分析が傾向スコアを用いた分析です。次に【要因】を行った方のうち各ブランドの購入が増えた増加率を記載します。

売上増加効果を金額換算
これらの係数からどの様にして効果を金額換算しているか?【施策】「TVCM」が【要因】「ブランドの店舗に入店」をどれだけ増やしたかを例に解説します。今までの集計は調査対象の20歳~69歳男女合計で集計していましたが実際は各年代性別で分析してから合計しています。接触率と人口を掛け算すれば接触人数が分かります。うち、要因の増加率を掛け算すればTVCMによる要因の増加人数が分かります。

【要因】の増加人数に購入の増加率を掛け算すれば、購入の増加人数が分かります。平均回数と平均単価を掛け算すれば売上増加金額が分かります。

マクドナルドとケンタッキーを比較すると【要因】の増加人数ではそこまで差はありませんが、マクドナルドの回数が多くなっているため、効果を金額換算した時に差が大きく開く状況です。
平均回数の推定には書籍「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」
で紹介された確率モデルを用いています。これはユーザーが最後に行った行動(ここでは外食チェーンで最後にいつ「食べたか」)のタイミング(2週間未満、2週間~1か月未満等)を聴取して分析することで一定期間(ここでは1年)で0回、1回、2回・・・と各回数の購買をした人が何%か推定し、購買率、購買人数、購買者あたりの平均回数を算出できる分析法です。この様にして【施策】→【要因】→売上増加金額を導いています。膨大な効果の係数を性別年代ごとに積み上げて全体を推計しています。ここでは全ての【要因】を介した各【施策】の売上増加を掲載します。

「TVCM」がマクドナルドは234億円でケンタッキーは111億円と突出しており1位となっています。次いで2位は「インターネットの記事」です。各【要因】による売上増加の集計は以下です。

両ブランドとも1位は「ブランドの店舗に入店」となっています。マクドナルドは545億円、ケンタッキーは325億円と突出しています。
たとえばこんな分析もできます。【要因】「ブランドの店舗に入店」を経由した【施策】による売上増加金額の集計です。

この様にして実務では各【要因】を増やしている施策は何なのか?詳細まで把握しています。特定の【施策】にフォーカスして、どんな【要因】を介して売上を増やしているかを見ています。TVCMが突出しており、マクドナルドは154億円、ケンタッキーは80億円となっています。
さいごにTVCMがどの【要因】を介して売上を増やしているか?集計します。

TVCMによる【要因】の2位アプリを介した売上増加はマクドナルドが49億円、ケンタッキーが15億円など、各要因を介した売上貢献が分かります。
TVCMに限らず13種の施策ごと、さらに年代性別で分けて分析することが可能です。
ダッシュボードで詳細に分析
ここまで紹介したものは、消費者調査MMM分析のごく一部です。この分析は粒度が非常に細かく、今回は【施策】13種類【要因】10種、年代性別10セグメントで傾向スコアで推定した1,300種類の効果係数を積み上げて分析しています。詳細な分析結果を把握するために分析ダッシュボードを公開しYouTubeの概要欄に記載しました。PowerBIで行う詳しい分析方法や調査票の内容などの詳細を動画で解説しています。
カテゴリーが同じだと効果構造も同様に
マクドナルドとケンタッキーで何が違うか?みなさんにはわかりましたか?
2つのブランドで若干違う部分もありましたが、大きな違いはなかったと思われたのではないでしょうか?マーケティング施策の効果構造は、同一カテゴリーのブランドで似通った傾向になることが多くなります。今回テーマにした外食チェーンは【施策】のうち、突出した1位は「TVCM」でした。【要因】では「ブランドの店舗に入店」「ブランドのアプリを利用」が特に影響が大きくなっていました。エビデンス・ベースド・マーケティングの法則に「購買重複の法則」があります。カテゴリーをよく利用するユーザーの多くは複数のブランドを併用しブランドを適宜スイッチしています。同カテゴリーに属する複数のブランドはカテゴリーを利用するユーザーという共通の顧客基盤を共有してシェアを争っている状況になっており、一つのブランドだけを利用するユーザーが綺麗に分かれている状況ではありません。よって同一カテゴリーだとマーケティングの効果構造も似たものになります。こうした構造を徹底的に理解することは、マーケティング戦略を検討する際の土台となります。消費者調査による分析のため、長期的な記憶がされやすいTVCMのような施策の効果が大きく出やすい傾向があるため、短期的な効果がでやすい時系列データを用いたMMMと併用することをおすすめします。
特別公開(書籍で非開示にしていた調査対象ブランドについて)
ここで紹介したマクドナルドとケンタッキーを含むいくつかのブランドを対象とした調査データは「『その決定に根拠はありますか?』確率思考でビジネスの成果を確実化するエビデンス・ベースド・マーケティング」の付録の動画講義と一緒に配布しています。青本や赤本を読んで、実行に移す方に役立ちます。
演習データとして、エナジードリンク、外食チェーン、テーマパークの3テーマで調査した約17万人の調査ローデータを配布しています。
書籍では消費者調査MMMの分析対象としたブランドは諸々の配慮からマスクしていましたが、ここで開次します。
food1_モスバーガー
food2_丸亀製麺
food3_スシロー
food4_ガスト
food5_吉野家
これらブランド名を見た上で書籍や書籍の付録とした動画講義をご覧頂くと、分析結果の解釈の解像度が高まり、さらに理解が進むと思います。
ブランド実名を開示した他の分析例
TDL&USJ(書籍でマスクしていたブランドを開示)
https://note.com/ogataka/n/nae8aa008a553
レッドブル&モンスターエナジー(書籍でマスクしていたブランドを開示)
https://note.com/ogataka/n/nc9cb7d6c12db
さとふる&ふるなび
https://note.com/ogataka/n/n6b534a8e6b52
Refa&Dyson
https://note.com/ogataka/n/nb0ac9aebdcf2
「顧客理解」を理解しよう
「その決定に根拠はありますか?」共著者の山本寛さんは元オリエンタルランドのリサーチャーです。「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」の著者の森岡毅さん今西聖貴さん等によるUSJの改革を、TDL側から見ていた方です。事業会社のリサーチャーとしての豊富な経験と見識があります。氏と半年間、観光とVRやMRを組み合わせた新しいアイデアの仮説を探索する擬似プロジェクトを行い、定量と定性を組み合わせて行う、仮説の作り方や顧客理解のやり方を具体的に解説しています。書籍の後半でも紹介していますが、氏がストアカで開催した「『顧客理解』を理解しよう」という講義に私が受講者として参加して目からウロコの気づきがあり感激しました。
以降、プロジェクトにご参加頂くなどお付き合いさせて頂いており「『顧客理解』を理解しよう」テーマに対応する内容の共著と書籍全体の内容のアドバイスをお願いしました。
ガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルの使い方や、因果推論の傾向スコア分析、無料で使えるMETA社のRobynによるMMMなど、高度なアナリティクスの実装法も紹介しました。中小企業でも使えるよう無料または安価なツールで行える方法にしています。
数式の実装を解説する動画講義も用意しました。合計7本で8時間を超える動画講義のうち、確率モデルの実装を解説する講義をYouTubeで公開しています。
オンライン講義「確率思考の実装法」
「確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力」で紹介され、特許登録した消費者調査MMMの要素技術としても活用しているガンマ・ポアソン・リーセンシー・モデルによって、ブランドごとのM、カテゴリーエントリーポイントごとのMを把握する方法を実際の調査データ(エナジードリンクの調査)を用いて実装する講義です。数学マーケティングを仕事に活かしたい方向けの本格的な内容です。
「確率思考の実装法」確率思考の戦略論の数式を使って戦略を導く
【2025年1月29日更新】
確率思考の戦略論の赤本も発売されました。
USJを再生させた刀の森岡毅氏と今西聖貴氏の確率思考の戦略論の2作目、いわば赤本が出ました。どんな内容なのか?関連する書籍をnoteで紹介しました。
2025年1月29日発売「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」
【MMMやマーケティング分析に付帯する基礎となる統計知識から『学びたい』方向け】
「Excelで学べるデータドリブン・マーケティング」はデータの分布とは?回帰分析の決定係数とは?といった統計の基礎から学ぶことができます。判型を大きくしカラーにしたのはExcelで行うデータ分析の演習の画面キャプチャーを張り付けて丁寧に解説しているからです。この書籍のターゲットはMMMなどを行う際に統計や因果推論の基礎から確実に学びたい方です。TVCMの投下単位のGRP(グロス・レーティング・ポイント)とは?から解説するなどマーケティング初心者向けの書き方をしています。
判型が大きく難しい技術書に見えますが、丁寧に解説するために大きな判でフルカラーになっているだけで内容は次に紹介する「その決定に根拠はありますか?」ほど高度ではありません。基礎から学びたい方向けの書籍です。53万部を販売した大ヒットシリーズ書籍の「統計学が最強の学問である」著者の西内啓氏に「マーケターはグラフの見た目より『因果推論』に注意すべきである」と推薦コメントを頂くことができました。合計9時間を超える動画講義8本のうち、1本の動画講義を公開しました。1章の内容、データ分析の基本的な考え方、各章で行う分析演習など、書籍と動画講義の全体像のガイダンスとなっています。
その他告知(※適宜更新)
消費者調査MMM(R)で確認する「購買重複の法則」noteを集めたマガジンです。現在は5つのnoteを紹介しています。
刀社と弊社の特許技術の明細書を要約したnoteです。
2月20日(木)16時からエバンジェリストをしているFreeasyのセミナーで、消費者調査MMMの事例をいくつか紹介します。