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旅人 沢木耕太郎流の「土地との親密度」を増す技術

東北新幹線の社内に置いてあるフリーペーパー「トランヴェール」内に掲載されている沢木耕太郎のエッセイ『旅のつばくろ』。最新号の内容が面白かったのでご紹介。

(前略)すっかり暗くなった会津若松駅に着くと、駅前に停まっているタクシーに乗り込み、繁華街のある七日町方面に向かってもらうことにした。私は、そのはずれにある一軒の居酒屋に行くつもりだったのだ。そして、その居酒屋といえば、前日の夜にも行った店だった。
せっかく初めての土地に来ているのにどうしてもっといろいろな店に行かないのか、と思われてしまうかもしれない。しかし、私は「あえて」同じ店に行こうとしていたのだ。
(中略)ひとつの店に何回も行くというのは、単に紀行文を書くための要諦というだけでなく、旅をする人にとって極めて有効な旅の「技術」であるように思われる。
 私も、山口さんからそれを聞いて以来、二日以上同じ場所に滞在する場合は、意識的に同じ店に通うようになった。すると、その土地との親密度がぐっと増すということに気がついた。
<トランヴェール2020年3月号巻頭エッセイ【旅のつばくろ】「続けて通えば(沢木耕太郎)」より>

なるほど。これは、お店をやる立場でなかったらそれほどピンと来なかったかもしれないが、うちのようにお客様とたっぷり会話をする酒場を運営する今は非常に良く分かる。

見知らぬ土地で旅をするときの楽しみの一つは食事だ。限られた回数でいかにその土地の美味しいものを楽しめるかということに、旅人の多くは頭を悩ませると思う。その貴重な食事の機会を、自分の店に続けて使ってくれるというのはなんとありがたいことか。

SHOKU SHOKU FUKUSHIMAでもたまにいらっしゃる。たまたま旅行や出張の初日で私達の店にたどり着き、楽しんで帰られたと思ったら、ひょっこり次の日の晩も来てくれるという方が。これは、本当に嬉しいこと。「郡山には、他にも色々と良い店があるから、良かったらこの後、一緒に行きますか?」なんて誘いたくなったりもする。

翻って、自分が旅をするときはどうしているか。あまり1箇所に2泊以上するということ自体がそもそも少ないが、たまにあったとしても「今日はこの店に行って、明日はあの店に行って…」と、少しでも多くの美味しいものを体験したい、色々な人に会いたいと思ってしまう。でも、たった一回の食事でその土地、土地の人と親密になれるということはなかなかない。「続けて通う」という技術を使ったら、これまでとちょっと違う旅の展開もあるかもしれないなぁ。

次は自分も、「滞在中ひとつの店に何回も行く」という旅の技術を活用してみたい。


サポートいただけたら、最もお世話になっている奥さんに美味しいものを食べてもらおうと思います😃