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卑怯でも生きる。

『書楼弔堂 炎昼』京極夏彦 読了。

破曉の続編です。
今回は、主人公が塔子という女の子に変わります。

文章の雰囲気が違うなぁと他の京極作品を見てみたら、他は第三者視点なんですね。
これは「わたし」視点の文章だったのと、です、ます調だったから、気になったんだな。
破曉は主人公が男なので、だ、である調で、他のとの違いを感じなかった。

塔子と一緒に帝大生で元詩人の松岡さんも出てきます。
この松岡さんが、作品に「わたし」の視点は邪魔ということを言うのです。

明治の元武家の家庭が実際どうだったのかは分かりませんが、塔子は「女子供は勉強なんかしなくていい、本も読んではいけない」という祖父と、「いい妻になるために勉強だけはしておけ、そして嫁げ」という父に、「それは違うんじゃないか」と思いながら言えなくて、よく家から逃げ出します。
性格的に言えない訳ではなくて、「女が男に口答えするな」というのを受け入れているから言えないという感じ。

ということで、家族とか男女とか、個人と社会とか、書き手と読み手とか、色々な関係が出てきます。

2巻のお客さんも、実在した人たちです。

私が1番好きなのは、乃木希典中将の章。

「期待に応えたくない、のではない。それは充分に応えたいと思うておるのだ。しかし応えられるとは思えぬから、自信がないから逃げた」
「儂は常に、そうして責任を上や下に送って、自らを保って来たのかもしれん。闘えと命じたのは上の者、闘ったのは下の者。そんな宙ぶらりんの場所に身を置いて、己が責任を遣り過ごそうとするなど以ての外だ。人としてあるまじき在り方よ。儂は、卑怯者だ」

分かるよ、中将ぉぉおぉ!と思いながら読んだ、私も卑怯者だσ(・ω・。)

楽だからね、自分で責任を負わない方は。
しんどいけど。
しんどいから、もう、自分で責任を負う方を選んでいきたいけど、たまに戻ってしまう。
気づいたら修正する。

あと、乃木中将は殉死してしまうので、この章が1番、京極さんの「生きろ」というのがストレートに出る話なんだと思います。
そのまんま書いてあるし。
そこが好きなんだと思います。

死生観が好き。

全然、記憶にないけど『いだてん』に、一瞬出たんですね、中将。
見てたんだけどなぁ。
優しい人だったようなので、中将自身のことも気になります。

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