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仕事をアサインするときの選定理由〜グラフィックデザイナー編〜

僕は店舗の設計者なので、ビジネスの川上の段階で経営者層と出店内容を協議したりします。

そうすると、店舗の全体のディレクターとして出店に伴う製作物の総指揮を取る場合があります。(CIやロゴ、印刷物、ユニフォーム、WEB、販促POPetc...)

これはいわゆるアートディレクター(以下、AD)と呼ばれる人の仕事でして、正規のルートでいうなら広告代理店や事務所のチーフデザイナーから独立などでキャリアアップしてクラスチェンジした上級職の仕事です。

いつもならADさんやブランディングディレクター(VD)さんが先にいる場合が多く、その場合はその下に入って舞台設計に専念します。ADさんやVDさんが優秀な方だと、仕事はとても楽しくやり甲斐に溢れます。

でも僕がADやる場合は兼業ディレクションになり、本業の設計があるので大変は大変なのですが、逆に言えば設計目線で精度の高いアートディレクションができるのがメリットです。


そんなわけで、自分のやっている仕事でちょっとグラフィック周りの制作物が出てきて、いつもなら付き合いのある何社かに声をかけるところをあえてSNSで募集してみました。

前提として、すでに僕がラフなパースとイメージ写真でクライアントさんにはデザインの方向性の承認を得ています。

つまり、アートディレクションの方向づけは完了しており、あとはそれに従って整えるのがメインの仕事です。

とはいえ140文字だと要項が書ききれず、未経験の方にも期待をさせてしまって申し訳ないことをしてしまいました。結果的に半日ほどで立候補をされた3名の方に、以下の内容で質疑を送りました。


お仕事の件です。まず、ご応募ありがとうございました!

お願いするかどうかを検討させていただくにあたり、
いくつか質問をいいでしょうか?

Q1. Illustratorはお持ちですか?

Q2. Illustratorでの複合パス、印刷用データ製作のご経験はありますか?

Q3.簡単なイラストを描いてパスデータ化はできますか?

Q4.東京都内で会っての打ち合わせは可能ですか?(3回程度)

Q5.キャリアプランでデザイナーとしての独立をお考えですか?

Q6.得意とするデザインやテイストを教えてください。

※その他の本案件の条件など※
・〇〇という業態の◯◯店舗のリニューアル案件。【和の食材の店舗】会社ロゴなど一部の素材あり。写真素材はカメラマンとスタイリスト手配して撮影予定、そっちのディレクションは僕がやります(興味あれば同席は可、ディレクションフィーは出せませんが交通費程度はだします)

・予算はだいたいMAXで◯◯万円程度を想定、作業時間は実務経験3年くらいの人なら20〜30時間程度の内容。支払いは納品月末〆、翌月末銀行振込を予定。

・僕がカンプ切ってクライアント承認済みなので、リテイク率は低いと思います。

・上記に伴い、デザイン自体は方向性含めてほぼ固まり気味で少々オペレーターよりの作業になります。

・+αの提案は大歓迎です。

・若手応援の気持ちが強いので、独立してデザイナーになりたい方に優先的にお願いしたいと思っております。


そして、期日までにご回答をいただいた中から、悩みに悩んでこの方に決めさせていただきました。

お断りしてしまった方、本当にすみません。

減点主義で外したわけではありませんので、どうか落ち込まずに、またチャンスがきたら迷わずに飛びついてください。手を挙げたスピード感とその勇気、行動したことはとても立派です。

とはいえ、この方を選んだ理由もおそらくフリーランスの方々には参考になると思いますので、きちんと書いておきます。


1.ポートフォリオサイトの有無

この方は作例数は少ないですが得意なテイストのわかるポートフォリオサイトを持っていたので、一目で今回のゴールイメージに対して到達できるスキルの有無を判断できました。(開いた瞬間はフランス語だったので焦りました)

同じデザインでも、デザイナーにとって得意な雰囲気と苦手な雰囲気があるはずです。ここのミスマッチは無駄な作業時間を生みますし、苦手分野の克服よりも得意分野の昇華に時間をかけて欲しいので、テイストがあっているかの判断材料の有無は大きいです。

ポートフォリオサイトがないのは装備なしで冒険に出ることに近いので、ぜひ実績や架空のプロジェクトなどの自分のやりたい&得意を見せてください。


2.不安材料に対するフォローの有無

この方はフランス在住という点が1番のネックであり、打ち合わせ同席は不可。ですが、そこに関しては僕もSkypeの打ち合わせで進めるリモートワークは何度も経験しているので、クリアできると判断しました。

SNS上で顔写真を出されて活動されている点や、幼少期の息子さんを育児しつつ仕事をしている点から、仕事への本気度とマルチタスクへの処理能力が伺えたので信用してみる気持ちになりました。

正直、もしもクオリティが規定に満たない場合、最終的には僕が全ての責任をおって数日徹夜してでも手直しをする事になります。

また、店舗の場合は実際の制作物がデータミスで作り直しになると、グラフィックさんのデザイン料や僕の設計料なんて軽く吹っ飛ぶくらいの金額の穴埋めが出ます。光る看板とかだと100万円超えも普通にあります。

僕が元請けなのでもしもの時にはどうにかする覚悟と監督責任がありますが、同時にお金を払って頼むのでリスクを減らしたいという思いもありました。たとえ点数が少ないにしても、見ることのできる実績の有無は大きいです。


3.この仕事があなたにとってどんな価値を持つのか

どうせ一緒に仕事をするのならば、お金のためだけではなく、その仕事を通じて成長しステップアップの材料にして欲しいと思っています。

その点、この方はフランスで育児をしつつデザイナーとしてキャリアを積もうとされている。海外において、日本人デザイナーであるアイデンティティとして、今回の仕事で和のデザインの作例を持つことは大きな意味があります。

今回は特に漢字をアイコン化したもの、文様をアレンジしてパターンにしたものが出てきます。これらは、逆の立場になった際に、海外のクライアントが日本人のデザイナーに期待する要素でもあります。

そして、フランス人のご主人と国際結婚をされている点も踏まえ、外からの視点で日本のデザイン=洗練されたオリエンタルさを再構築できるのではないか?と期待しました。


4.美学や価値観を共有できるか

ディレクションをしている以上、目指すゴールがあり完成形のイメージがあります。そこを目指して一緒に走るわけですから、当然同じ方向のゴールを向いていただきたい。

その為には、やはりこうして僕が日頃からSNSで発信している情報や考えに触れていて欲しい。これは、終業後に飲みに行って話しているような事をSNSで代用していると考えています。

何が言いたいかというと、日頃からフォローしてくれている人の方が同じヴィジョンを目指せる可能性が高いと判断しますってこと。

仕事が欲しい場合、日頃からディレクターをフォローしておくのは必須ですし、そのディレクターの求めるヴィジョン=美学や価値観を理解しておくのは重要です。

もちろん、フォロー外でもセンス抜群で1〜3が圧倒的なら問題はないですよ。でも、総合点で勝負するときに4番目の加点要素は紙一重の差になります。アサインできる相手が1人である以上、最終的にはシビアな判断になります。



上記の理由から、今回はAircraftDesignさんにお願いしたいと決めました。

特に3番が重要です。

この仕事が、あなたでなければいけない理由があるのかどうか?

最終的には、これが強い人がオファーを取れると思います。

あなたでなければいけない理由が強ければ、予算やスケジュールすら調整は可能です。前提条件の都内打合せが不可能という、いわば応募条件に引っかかった状態であったとしても、それを覆して決める気持ちになりました。


ちなみに、ご応募された方のSNSは全て過去ログをあさりました。

日頃、どんなことを考えているのか、守秘義務は守れそうか、何を大事にして何に怒りを感じるのか、口だけでなくちゃんと手を動かしているのか、これらが1時間ほどでログを見れるのでSNS便利ですね。

逆に、自分もそう見られることを考えると、SNSの運用方法をちょっと見直そうかとも思いました。

製作の結果はうまく進めば秋口までにはこちらでご報告できると思います。

最後に、今後も店舗にまつわるグラフィック周りのお手伝いを突発的に募集かけます。なるべくビジネス的にも、ライフワーク的にも、最大限の効率が出せる方と組みたいと思います。


もしもやってみたいけど実績がないという方は、空想でいいので以下を作っておいてください。

店舗系のグラフィックデザイン実績事例
・架空の店名ロゴ、ショップカード
・店名ロゴをポスターにしたもの
・店名ロゴをサイン看板にしたもの
・飲食ならメニューブック
・物販なら広告ヴィジュアル
・その店のキャッシャーマーク、アイコン、ロゴタイポ
・その店のトイレマーク、アイコン、ロゴタイポ

実際の仕事も同じ感じです。上記をすらっと並べてWEB上で見れるようにしてください。

一部の大型商業施設の場合はこれに施設内マップや案内サインなどが大量に出てきます。多言語表記(英・中・韓)、ユニバーサルデザイン、昼間と夜との見え方の違い、照明効果のつけ方など、勉強しておいて欲しいことはたくさんあります。

また、ロゴに関してはレギュレーションも想定してください。そもそものCIにおけるレギュレーションって言葉が理解できない場合は、もっとCIやブランディングの勉強をしてください。

緻密に設計されたロゴは、あらゆる使用環境を想定して作られます。拡大しても縮小しても、印刷してもWEBでも立体で看板にしてもちゃんと使えるのがロゴの基本です。ここら辺はスーパーエレメントの中野さんのnoteがすごくよくまとまっているので参考にどうぞ。みなさんと一緒に仕事ができるのを楽しみにしています。



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instaguramでは主に店舗設計の仕事の話


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