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日本で”最も”自殺率の低い町

2023年9月「いのちの電話自殺予防シンポジウム」に参加してきました。

約1年弱前に参加したシンポジウムですが、いまだに印象深く記憶に残っており個人的に学びの多い内容だったので、紹介させていただきます。

『日本で”最も”自殺の少ない町から学ぶ、生き心地の良さとは何か』
というテーマで、一橋大学 統計数理研究所 医療健康データ科学研究センターの 岡檀(おかまゆみ)先生による講演です。


● いわゆる自殺対策の話とは違う

● 自殺の少ない町では、幸せな人が多いのだろうか?

● 日本の自殺問題の現状
・かつて年間の自殺者数3万人前後で推移
・今もなお交通事故死者数の約8倍
・先進7か国ではワースト1

● 日本で最も自殺率が低い町。 
徳島県旧海部町 人口約3000人 合併し、現在は海陽町となっている
    
隣接した二つの町の自殺率は高く、海部町だけが突出して低い 
(全国3318市町村の30年間の自殺率を統計処理比較)

● 「自殺希少地域」海部町 と 「自殺多発地域」A町 を比較
・対極的な存在であり、真逆の特性を持っているのではないか?
①客観的データの比較(自殺の動機2大要因に差はなし)
②200人以上にインタビュー
③参与観察(祭りの準備や保健師活動へ随行)
➃アンケート調査2回:約3,300人対象 20歳以上無作為抽出 回収率89.8%と96.1%

● 自殺希少地域・海部町に際立っている要素
・海部町では赤い羽根募金が集まりにくい。
・海部町民語録「いろんな人が、いたほうがいい」

 ⇩

多様性の重視

・いろんな人、いろんな考えがなくてはいけない
・自己の主張と、他者の尊重
周囲の人たちの行動にそろえなくても(募金しなくても)責められない (これ重要!)

同調圧力が嫌い

・海部町に江戸時代から続く相互扶助組織「朋輩組(ほうばいぐみ)」がある
・入会退会とも当人の自由
・加入しなくてもコミュニティで不利益を被らない
・旧家もよそ者も、等しく受け入れる

※ 海部町の朋輩組にはヒエラルキーというものがない。年長者だか らといって威張らないし、新米の意見であっても妥当であれば即採用される。そして朋輩組がそうであるように、海部町のコミュニティそのものに、ヒエラルキーの概念が希薄。目上の人に対して一般的な敬意は払うものの、相手の地位や家柄によって態度を変えるというようなことがない。ごく自然に、水平な人間関係を維持している。

● 海部町民語録 「おまいにも、できることがある」

”やれば出来る”とは違う  ← これ重要

・実施したアンケートの設問
「自分のような者に政府を動かす力はない」

この文言に対して

海部町  肯定者 26.3%  否定者 41.8%
A町    肯定者 51.2%  否定者 27.2%

周囲の事柄に対し、自分にも何らかの対処ができると思える感覚。
海部町の議会では古参も新人も同等、遠慮しているとむしろ注意を
受けるという。

「おまいにも、できることがある」
とは、こういうこと。
アンケート結果から、海部町民は自己効力感、自己肯定感が醸成され
ているとみうけられる。

● 海部町民語録 「一度目は、こらえたれ」

・過ちへの寛容 ー やり直しのチャンス
・「一度目はこらえたれ(見逃してやれ)」挽回のチャンス
・A町では一度の不祥事、「孫子の代まで」と

● つながっているが、縛られない

・実施したアンケートの設問
「近所の人達とどのような付き合いをしていますか?」

海部町 
日常的に生活面で協力 16.5%  立ち話程度 49.9% 
あいさつ程度 31.3%

A町
日常的に生活面で協力 44.0%  立ち話程度 37.4%
あいさつ程度 15.9%

海部町民のほどよい距離感

徳島、青森、京都、奈良、4県で、同様の調査(自殺希少地域と自殺多発地域を比較)をしたところ

緊密なつながりのコミュニティであるほうが、
悩みをさらけ出すことに抵抗がある という結果がでた。

● 海部町民語録 「病は市に出せ」

・やせ我慢を戒め、早期開示を促す  海部町の危機管理術

・実施したアンケートの設問
「悩みを抱えたとき、誰かに相談したり助けを求めたりすることに抵抗がる」

海部町  肯定 20.2%   否定 62.8%
A町    肯定 27.0%   否定 47.3%

・海部町は、医療圏内で最もうつ受診率が高く、
・しかも軽度の段階で治療を開始する傾向
・うつに対するタブーがない 海部町とA町の違い 偏見がないことの表れ


● 海部町コミュニティに際立っている要素

1.多様性を重視し、維持する
2.自己肯定感を育む
3.つながっているが、縛られない人間関係
4.過ちへの寛容 ー やり直しチャンス
5.助けを求める、弱音を吐ける



【海部町に見るふたつのデフォルト(標準)設定】

その1
人は欲深く、誘惑に負ける、間違いをおかすもの

・性と業をわかっている
・綺麗ごとを言わない : 「おまいにも出来ることはある」とは言って
も、「頑張れば必ず出来る」とは言わない
・「一度目はこらえたる(許してやる)」常に挽回のチャンスがある
・「病を市に出す」、問題の早期開示を促す

その2
想定外のことが起きるのが、世の中

そのとき、私たちに何ができるか

・最大の敵は、立ち往生 思考停止
・何はともあれ、思考の柔軟性、心の弾力性(レジリエンス)これだけは身に着けておく


【再び、海部町のデフォルト(標準)設定】

ふたつの事例から


事例1
~ オランダ スキポール国際空港(男子トイレ)の奇跡 ~
 
年間7億円の清掃費、80%削減に成功した
便器の中央部に「ハエのイラストシールを貼っただけ」

事例2
~ 劣悪な衛生環境国の子どもたちに石鹸手洗いの習慣をつけさせた ~

人間行動科学を取り入れて策を講じる

多くの子どもたちが5歳までに死亡する、劣悪な衛生環境の国の子どもたちに石鹸手洗いの習慣をつけさせた
→ 石鹸の中にオモチャが埋め込まれていて、早くオモチャを見たいために石鹸で手を洗う

・このふたつの事例とも、彼らの行動変容は
彼ら自身のモラルや健康意識とは無関係

・したがって、「教育格差 = 健康格差」という状況にも対処可能

・短期に効果を期待できる 


海部町のもう一つのデフォルト(標準)として

・性を業とわかっている

→ 人間行動科学を理解している

・「助けを求めよ」と、ただ諭すだけでは不十分と知っている
・助けを求めやすい空気感、環境を整えることによって、本人も無意識のうちに日頃から困りごとを打ち明けられるよう仕向けている


援助希求(SOS発信)について理解しておくべきこと

・「悩みがあったら相談してください」

この呼びかけだけの弱点は何か
 ↓
◇ 悩みが深刻であるほどその当事者は疲弊していて相談に向かう気力が低下しているという現実
  最も支援を必要としている人が支援にたどり着けない
◇ 住民アンケートの分析結果:
うつ傾向の強い人ほど、相談することに抵抗を感じている


自殺希少地域・海部町には ハブ(情報集散)スポット がある

・江戸時代発祥の建築様式「みせ造り」≒ ベンチ 路地にベンチ路地の多い町の方が自殺率が低い

短いが連続的なコミュニケーション 
困りごとの”小出し”習慣の場 当人たちは無意識、無自覚


最後に

自殺が少ない町では 幸せな人が多いのだろうか


海部町は周辺の町に比べ、

「幸せ」と思っている人が最も少なく、
「不幸せ」と思っている人も最も少なく、

「どちらでもない」と思っている人が最も多い

これがちょうどいいんだ

と、言う人が多かった

ということです。

以上、岡檀先生の講演より。

何年もの年月をかけて、調査・フィールドワークを重ねてこられた講演内容について私見をはさむ余地はありません。

いやいや、そうではなくて

「おまいにも、できることがある」ですよね。

肝に銘じます。

最後まで読んでいただきありがとうございます。




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